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始終無シ  作者: 朝霧


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オセロはふわふわかわいいオセロット


 我輩は猫妖精である、名前はオセロ。

 実は猫妖精ではなく誇り高きオセロットの神霊だが、猫妖精という方にしておいたほうが都合がいいのでそういうことにしている。

 我輩は現在、御主人と共に御主人の上司の元から逃げ出した『星の守り獣』とかいうへんちくりんな精霊の捕獲のため、野に出ていた。

 そして半日ほどかかって星のクソ野郎を捕獲し、本部に戻ろうとしている最中で――何故か龍に襲われた。

 夜空を思わせる紫みのある黒色のデカくて長い龍。

 おそらくは星のクソ野郎の関係者(眷属)、だって言葉わからないし。

 精霊同士はある程度言葉がわかる、特に我輩は頭が良い誇り高きオセロットなので、大抵の精霊の言葉がわかる。

 けれども星のクソ野郎の言葉は何故かわからない、同じく星のクソ野郎の関係者っぽいでかい鳥の言葉もわからなかった。

 だからきっと、この夜空色の龍も彼奴等の同類なのだろう。

 おそらく、星のクソ野郎を御主人の上司から取り戻そうとしているのだ。

 でかい鳥は御主人のクソみたいに性格が悪い同僚が毒漬けにして確保した、現在は本部の地下深くに封印中。

 星のクソ野郎の関係者は全部確保せよ、みたいな指令が出ているらしいので、御主人は夜空色の龍に怯えず引かず誇り高く対峙した。

 我輩は御主人の忠実な下僕、当然のようにお供する。

 と思っていたら星のクソ野郎を投げて寄越された、命令は三つ、逃すな、奪われるな、守り通せ。

 御主人と共に戦えないのは歯痒いが、我輩は御主人の忠実ないい子ちゃん、命じられたことはしっかりとこなすのである。

 

 夜空色の龍は強かった、ものすごく強かった。

 あの御主人が苦戦を強いられている、あの『地獄の炎』というかっちょいい異名を持つあの御主人が。

 何故苦戦を強いられているのか、それは簡単、夜空色の龍が闇魔法とかいうズルっこ攻撃をしてくるからである。

 闇魔法は光魔法同様にあらゆる魔法を無能化する力を持つ、無効化するだけでなく単純に魔力そのものを消滅させるような効果もあるらしい。

 御主人の地獄の業火、夜空色の龍の闇にのまれまくっている。

 三回ほど闇魔法を掻い潜って夜空色の龍を炎が掠めたが、掠めただけなので向こうはピンピンしている。

 御主人の息はすでに荒くなっている、二回ほど夜空色の龍のブレス攻撃を喰らっているし、魔力もう尽きかけている。

 このままだと、まずいかもしれない。

 撤退すべきだと思う、だけどこちらがどれだけ叫んだところで、精霊である自分の言葉は人間である御主人には伝わらない。

 そしてこちらが加勢することもほぼ不可能、自分だけならなんとかなったかもしれないが星のクソ野郎(あしでまとい)を抱えたままではどうにもできない。

 チラリと御主人がこちらを見る、ああ、あれは良くない、とても良くない顔だ。

「……オセロ」

 やめろ御主人、その先は聞きたくない、どうせ自分を置いて逃げろと、この星のクソ野郎だけでも本部に届けろとでもいうつもりなのだろう?

 やめろ、やめて、本当にやめて、オセロはそんなことしたくない。

 それでもオセロは御主人の忠実な下僕、命じられたらそれを遂行しなければ――

「おりゃああああああああああああああああぁぁぁああ!!!!」

 唐突に耳に痛い人間のメスの絶叫、一体何事だ?

 顔を音が聞こえてきた方に向けると、ちょうど人間のメスが夜空色の龍に飛び蹴りをかましていた。

 は?????

 しかもその蹴りによって龍が体勢を崩した、御主人の地獄の業火が掠ってもピンピンしていた龍が。

 なにごと?

 地に着地した人間のメスがくるりくるりとステップを踏む、鮮やかに散った銀朱色の魔力のにおいから、おそらく今のステップがなんらかの魔法の起動のために行われた動作だと気付く。

 ステップを踏みながら人間のメスはいつのまにか両手に握っていた小さな刃物を龍に向かって投げつける。

 以前どこかで見た銃とか呼ばれる武器から放たれる弾丸と同じか、それよりも速い速度で投げられた刃物は合計で四本。

 そのうち三本は龍によって打ち落とされたが、一本だけが龍の逆鱗、そのすぐ真上に突き刺さった。

 龍は呻くような声をあげながら後退する、それでもいまだ地に落ちない、まだ余力を残しているのは明らかだった。

「……やっべ外した!! 手持ちの投擲ナイフ今ので尽きたんだが!!? くっそ……てゆーか、あんまし効いてないな!!?」

 人間のメスが喧しく喚き散らす。

 その人間のメスは、全体的に黒かった。

 黒いローブを身に纏っていて、口元には医療用のマスクをしているが、こちらも黒色だ。

 髪も黒、肌は白いほうであるようだが、ローブでほとんど隠れている。

 髪は黒く、目の色は左右で異なり右が黒で左が真紅。

 全体的に黒いせいか、左目の赤だけがやけに鮮やかに見えた。

「そこの少年は……動けそうにないな。……そっちの猫ちゃん達は動けるか!? こんなのどうしようもないから撤退!! てったーい!!」

 そう叫びながら人間のメスは御主人に浮遊魔法をかける、あっけなくふわりと浮かんだ御主人の腕を人間のメスは引っ掴んで、こちらに視線を寄越してくる。

 ついてこいと言いたいのはわかる、けれど自分は御主人の忠実な下僕、御主人以外の人間のいうことなんて聞かないのである。

「……退けというのか、俺に」

 そこでようやく口を開いた御主人の声に、ああこれは怒っているなと察した。

 真剣勝負を邪魔された上に逃げろとか言われたら、そりゃあ御主人は怒る。

「むしろそれ以外に何か言うと思います? こんなボロ雑巾にされてるくせにまだあれに立ち向かう気があるわけ? そんな命知らずのいうことなんて私聞きませんので、ほら、そこの猫ちゃん達、今から私はあなた達のご主人様を連れて遠くの方まで逃げます、どうかついてきてくださいね?」

 そんなことを言いながら人間のメスは右目だけを一瞬閉じて、龍に向かって何かを投げつけた。

 ナイフはもうないと言っていたくせに次は何を投げたんだ、と思ったら龍が黒い煙に包まれる。

 あれ、けむり玉だ。

「こっち、とりあえず街の方に逃げる!!」

「おい……!! 余計な真似を」

「うっさい!! 怪我人は大人しくしててくださいな!! てか、喋ったら多分舌噛んでスプラッタなことになるから、黙ってて!!」

 そう叫んですぐに人間のメスは浮遊魔法で浮かせたままの御主人の腕を掴んだまものすごい勢いで街のある方角に向かって駆け出した。

 速い、物凄く速い、人間のくせに生意気な。

 星のクソ野郎を口に咥えて人間のメスの後を追った。

 追いつけなかった、我輩は誇り高きオセロットなのだが?


 街の入り口が見えてきたあたりで、人間のメスが減速し、そして止まった。

 そこでようやく人間のメスに追いついた、不甲斐ないことに、こちらの息はかなり荒くなっている。

 浮遊魔法で浮かされていた御主人が地に下される。

「余計なことを……!! 何故邪魔をした!!」

 ようやく自由を得た御主人が人間のメスに向かって怒鳴る。

 しかし人間のメスは何も言わずに数歩ふらふらと御主人から離れて、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

 人間のメスは大袈裟なほど激しく咳き込んで、そして血の塊を吐き出した。

 龍の体勢を崩す蹴り、そしてあの強靭な鱗を貫通させるほど強力な力で投げられたナイフ。

 おそらくこの人間のメスは自身の肉体に過剰な強化魔法をかけていたのだろう。

 強化魔法は通常は大したリスクがないが、かけすぎるとその強すぎる力で強化対象の肉体を傷付ける諸刃の剣となる、という話を昔聞いたことがある。

「……!!」

 御主人は大きく目を見開いて、呆然と人間の女を見下ろした。

 女が再び血を吐く。

「……ああ、くそ……やっぱり、ビスクみたいにはいかない、か……けど、ああするしか……いたい、いたい……いたい、よ……」

 かろうじてそんな濁った声が聞き取れた、

 その時口元で星のクソ野郎が暴れ出す、隙をつかれてしまったのもあって放してしまった。

 逃げる気か、と思ったら星のクソ野郎は悶え苦しむ人間のメスの元にふわりと降り立って、淡い光を放った。

 治癒魔法、それもかなり高度なものだ。

「あ、れ……? 痛み引いた? ……ああ、今のはあなたが……ありがとうございます」

 身体を起こした人間のメスが口元についた血を拭いながら星のクソ野郎に向かって礼をいう。

「…………いやー、ここまで精度の高い治癒魔法をかけてもらったのは初めてですよ。三日くらいは苦しみそうだと思ってたのに、もうどこも痛くない。……そちらも傷が深そうだ、治してもらったのはありがたいけど、先にご主人様の方を治したほうが良かったんじゃないかな……?」

 人間のメスが星のクソ野郎に向かってそう言うと、星のクソ野郎は人間のメスと御主人の顔を交互に見て、そして不貞腐れたような顔で何故か人間のメスの頭上を陣取った。

 そして何故かドヤ顔でこちらを見てくる、一体何がしたいんだろうか、こいつは。

 というかこいつが人に懐いているところをはじめて見た。

 まあ……御主人以外のあの組織の人間は基本的にクソなので、そんな奴らしかいない環境で懐けるような人間が一人もいなかっただけなのかもしれないが。

「おっと……びっくりした……随分と人懐っこい子ですね、この子。ワタクシ、精霊の類には避けられるほうが多いのですが……」

 そんな事情を知らない人間のメスはほけほけと呑気に笑っている。

 というか、なんか雰囲気が随分と変わったな? 演技くさくなったと言うか、仰々しいというか……

 人間のメスと、その頭上の星のクソ野郎をぼうっと見た後、御主人はハッと正気に戻ったような顔で口を開いた。

「何故あんなことをした」

「え? 闇魔法には物理が一番効くから。とりま限界まで肉体強化かけて叩けばなんとかなるかなーと思いまして」

「…………そうじゃない」

 御主人は苦虫を噛む殺したような顔をしていた、その顔を見て人間のメスは「ああ」と何かに納得したような顔をする。

「あのままだとアナタもそこの愛らしい猫ちゃん達も死ぬと思ったので、余計なおせっかいかとは思いましたが手を出させていただきました。旅先で人の死体とか人が死ぬ瞬間なんて見たくなかったので。ええ、それだけですよ、特に善意を押し売って何かを要求しようなどとはカケラも思っていませんので、どうか、どうかご安心を」

「……お前の目には、俺がそんなに弱そうに見えたか? あの龍の殺される程度の存在だと」

「弱いってか完全に対応間違えてたって感じですね。闇魔法使う奴に魔法の無駄撃ちするのは愚策でしかありませんから……うーん、これ常識だと思ってたけど、実はそんなこと無かったりするのでしょうか」

「は?」

「案外知らない人が多いんでちょっと驚いているのですけど、闇魔法って物理攻撃の前ではほぼ無能なんですよね。魔法相手ならならある程度無力化できるんで結構強いんですけど、物理で殴られると本当にどうにもならなくなることの方が多い」

「何故断言できる」

「こう見えてワタクシ、闇魔法の使い手ですので」

 人間のメスはまた右目を一瞬閉じた後に指先に闇色の塊を発生させる。

 確かにその闇色のにおいはさっきの夜空色の龍のものとほぼ同質のものだった。

「とは言っても、メインは強化魔法ですが。闇魔法って回りくどいんですよねえ、物理で殴ったほうが早いのです。闇魔法、大したことないくせに使い手が少ないから変に誇張された話が出回ってるだけで、実際は本当になんと言うか……しょぼいのですよ」

 やれやれと人間のメスは大袈裟に肩をすくめる、その頭上で何故か星のクソ野郎がドヤ顔しているのではっ倒してやろうかと思った。

「アナタのこと、弱そうだとは思ってません。というか普通に強そうですし、アレが相手でなければワタクシが手を出す必要は皆無だったとは思うのですが……いやあ、相性が悪すぎたというしか……不幸ですね、こんなところであんなのに襲いかかられるなんて!」

 人間のメスは仰々しく両手を広げた。

「……と、いうわけで今あっちの方に戻るのはとても危ない。ワタクシは今日一日くらいはこちらの街に滞在するつもりです。いやー 、思いっきり蹴っ飛ばしてしまったので恨まれてたら面倒ですしね。アナタ方もしばらくはあちらに戻らないほうがいい、というか行きませんよねえ、まさか再戦を望んでたりなんかしませんよねえ? せっかく拾った命を無駄にするほど、アナタが愚かではないことを祈りますよ、ええ、本当に」

 人間のメスは嫌味ったらしく口元を歪める、目は笑っていなかった。

「……その愚か者だと言ったら?」

「ふふふ、そんなお馬鹿さんはあ、タコ殴りにして病院にでも入院していただきましょうかねえ? ワタクシ、こう見えて殴る蹴るの暴力は得意ですので。アナタみたいなヒョロもやし……おっと失礼、純粋な魔術師さんなら……まあ、なんとかなるでしょう」

 人間のメスが少しだけ身体の重心をずらす、とっとっと、と地面を蹴った人間のメスの脚から、先ほどの銀朱とよく似た魔力のにおいが漂ってきた。

「……と、いうのは半分冗談で、実際は一発ぶん殴って気絶させた後病院に運び込むだけです。流石に何ヶ月も入院するような怪我はさせませんよ」

 書き出し祭り(二十回目)に出すか迷ったやつ。

 初期プロットだとオセロは人間のメスの使い魔だったけど途中で何故か逆になった。

 御主人が人間のメスに膝枕してオセロが「そこはふわふわかわいいオセロの場所だが? だが?」みたいにブチ切れるシーンがそのうち挟まれるらしい。

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