表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始終無シ  作者: 朝霧
5/62

風船の赤ずきんと狼王子

 この国にとって、完全な無能力者は貴重な存在である。

 かつて超能力について研究し続け、究極の超能力者を作り出してしまった王家は、これ以上強い超能力者が生まれないようにするために、100年前一つの重い取り決めをした。


 強い超能力者を保持する王家、および貴族は無能力者以外と血を交えてはならない、という取り決めを。

 王族や貴族が血を交えてよいのは無能力者のみ。

 王族や貴族のつがいとなる存在からはその証として身体の一部を奪われる。


 王族や貴族はそのつがい以外に愛人を作ることも許されておらず、子を為すことも当然許されない。

 破った者は王族であっても厳しい罰が与えられる。

 これ以上恐ろしい力の持ち主を生み出すわけにはいかないのだから。



 第七王子のつがいはとても口が悪いことで有名だった。

 高級な糸のように美しい金髪を持つ少女で、可愛らしい人形のような顔をしている。

 しかし、その顔に全く似合わない低い声と小さな口から飛び出す暴言がその全てを台無しにしてしまっている。


 奪われた部位は右脚、膝より下をバッサリと切断されたその訳は彼女をつがいとする第七王子曰く『絶対に逃げられないように』と。

 城にいる誰もが何故『声』を奪わなかったのかと嘆いているが、彼女をつがいとする第七王子だけは彼女の暴言をニコニコと楽しそうに聞いている。


「下ろせこのクソもやし王子!! 性格ブスの低身長!! そんなにてめーは見下されてーのかこのクソチビ!!」

 第七王子のつがいの少女の暴言が今日も城の一角に響き渡る。

 使用人達はいつものことだと諦めきった表情をしているが、彼らの顔にはもういい加減にしてほしいと書いてあるようだ。


 暴言を連ねる少女の身体は中空に浮いていた。

 童話に出てくる赤ずきんの様な格好をさせられたその宙に浮く少女の首には猛獣用の重い首輪がつけられており、その首輪から伸びる太い鉄色の鎖を華奢な少年が握っていた。

 その少年、第七王子はニコニコと楽しそうに中に浮く少女の姿を見ながら悠々としている。


 少女の身体が宙に浮いているのは言うまでもなく第七王子の超能力によるものである。

 強い念動力者である彼は自分のつがいである少女を風船の様に浮かせて城内を散歩する悪癖を持っていた。

 何故こんな事をするのか、その理由を誰も、第七王子のつがいである少女も知らなかった。


「てめー聞いてんのかこのキチガイ王子!!」

 散歩中の第七王子はいつもの機嫌が良い。

 だが宙に浮かされ引っ張り回される少女はたまったものではないらしく、いつも暴言を彼の頭上に向けて吐いていた。

 暴言を吐き続ける少女の怒りで紅潮した薔薇色の頬をうっとりと見つめていた第七王子はぼそりと呟いた。

「かわいい」

 その呟きの後、少女の身体が第七王子の念動力によって大きく右に動いた。


「ぎゃ!!? このやろ……やめ……!!」

 その後も大きく右へ左へ、勢いよく揺らす様に、回る様に少女の身体は宙で激しく狂った様に飛び回る。

 少女はしばらく暴言混じりの悲鳴を叫んでいたが、じきに静かになった。

 どうやら目を回して気を失ってしまったらしい。


 何も言わなくなり、ぐったりとした少女の体を第七王子はどこかで満足そうな顔で見上げて、鎖を握ったまま歩き出す。

 鼻歌を歌い出しそうな様子で少女につながる首輪を両手に大事そうに抱えて歩く少年の姿は、まるで風船をもらってはしゃぐ小さな子供の様にも見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ