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始終無シ  作者: 朝霧


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三年後、貴方のいない場所で

 私がいなくなったら、彼は傷付くのだろうか?

 ふと思い付いたその問いかけに解らないと首を振った。

 ――ああ、だけど。

 ――傷付いてくれるかな?

 湧いてきたのはそんな期待だった。

 その感情が湧いて出てきたその後に、それが酷く醜悪な感情であることに気付いた。


 ――今、なんて事を。

 ――あまりにも醜い感情だ、どうして私はそんな事を考えた?

 ああ、だけど。

 ほんの一瞬よぎってしまった。

 冷たくなった自分の亡骸に、縋り付いてなく彼の姿を。

 その姿が思い浮かんだ時何故か、とてもうれしかった。



「自分が死んだ時に、誰かが傷付くとします。その事を嬉しいと思ってしまった私ってやっぱりおかしいのでしょうか?」

 客である壮年の男に、何年も前に思い付いた事を問いかけてみた。

 世間話のつもりだったが、少々内容が重い気がしないでもない。

 壮年の男はしかめっ面で考え込んだ後、若干面倒臭そうに口を開いた。

「……別におかしくはねえと思うがな」

「なんでですか?」

 意外な解答につい顔を寄せて問い詰めてしまった。


 壮年の男はギョッとした後、毛が薄くなった頭をボリボリと掻きながら答える。

「死んだ時に誰かが傷付くなら、その誰かは死んだそいつの事をそれだけ大事に思ってた、っていう事だ」

「……なるほど?」

「だから嬉しいと思ったんだろうよ、お前さんは」

 つーかそんなことよりもさっさと寄越せ、と不機嫌そうに言った壮年の男に、慌てて依頼されていた品を差し出した。


「はい、こちらになります」

 差し出した品を男はゆっくりと検分して、満足そうににかりと笑った。

「おう。確かに」

 差し出した品はブローチだった、大きな赤い色のついたもの。

 結婚記念日のプレゼントだという。

 そんなものを私が作っていいものなのかと疑問に思ったが、満足そうなのでいいのだろう。


 ――それにしても、そうか、そういうことか。

 数年越しにあっさりと得た解答に苦笑する。

 なんだかんだ言って、自分は彼に大事にされたかったらしい。

 彼の手元から離れて早3年、今更のように得た答えにはただ苦笑するしかない。


 ――今でもやっぱり私は私にとって無価値で、生きていると時々とても虚しくなる。

 ――私は、結局貴方に必要とされたくて、役に立ちたくて、大事にされたかった。ただそれだけだったんだ。

 ゆっくりと時間をかけて、今更のように答えのようなものに辿り着いた。

 愚かだというのなら笑えばいい、というか実際自分でも馬鹿だとは思う。


 ――それでも。

 遠く離れたこの場所で、貴方がいないこの場所で、得た答えと虚しさを抱えたまま今日も生きていこうと思う。

 

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