大きな世界での小さな出来事
その女は突如として世界に姿を現した。その女はある時、日本という島国に起こる大災害、『首都直下地震』を予言した。
それは始め、誰にも相手にされず、道行く怪しい人の戯言と聞き流していた。
が、それは実際に起こった。
日本の首都、東京を襲った地震は日本という国に、そして世界に、大きな損害を与えた。
ある人が言った。あの人が言ったのとまったく同じだ、と。
それを嗅ぎつけたマスコミがこぞってその女に取材をした。
本当に、そんな予言をしたのか。どうやってそれを知ったのかなど、連日、面白半分にその予言の詳細について聞き立てた。
その時は誰もが、眉唾だと笑った。ふざけた老人の戯言だと思って、笑って受け流していた。
ある日、その女はマスコミの中で次なる予言をした。
とある国でテロが起こると。それにより大きな犠牲がでるだろうと。
もちろん、人々は一斉にその女の事を笑った。中には、そんな不謹慎な事を冗談で言うなと怒る者さえいた。
しかし、何があってもその女は予言を取り下げなかった。自らを信じ、危険が迫っていると世界に発信し続けた。どんなにバカにされようと、夜道で暴行を加えられようと。
そして、それは実際に起きた。
女の予言した通り、世界の大国の首都がテロに見舞われ、多くの被害者が出た。
女は言った。だから言ったのに、と。
その一件を経て、マスコミも政府も、彼女を無視できなくなった。
街の一角で、戯言をほざいていただけの女は国にまで影響力を広げた。
女のところには、毎日のように予言を聞きに多くの人が集まった。内容はギャンブルの当たりくじから仕事の善し悪しまで、多岐にわたったが、女は決して予言を外すことはなかった。
その評判を聞きつけた人々によって更に女の知名度は上がり、歩くだけで辺りを人混みに囲まれ、マスコミが追ってきた。
ついには、彼女が日本経済を回してるとまで言われるようになった。
もちろん、疑いの目は常についてまわった。
中には、嫌がらせのような条件で予知してくれと言う者や、やらせではないかと疑ったテレビ局に呼ばれ、到底わかり得ないことを予言させる番組が毎週のように放送された。
それでも、彼女はその全てを正確で、間違いのない予言でそれらをねじ伏せた。まるで自分の力を誇示するかのように。
いつしか、彼女を疑う者などほとんどいなくなった。皆が彼女の一挙手一投足に注目し、新しい予言が出れば政府総出で危険を知らせた。
なぜなら、彼女の言う事は全て現実に起こるのだから。
そんなある日、彼女は最後の予言を残して、歴史の表舞台から姿を消した。警察がいくら捜索しようとも、国民がいくら協力を申し出ても。まるで元々そんな人物など存在しなかったかのように、ぱったりとその行方が掴めなくなった。
その最後の予言とは、「あと一月で世界は滅ぶ」という物だった。
もちろん、始めは夢から醒めたような状況になっていた国民はそんな予言などなかったかのように普段通りの生活を送っていた。
が、この時も彼女は正しかった。
世界各地で異常気象で起こり、未知の伝染病が流行り、核兵器が暴発し、火山という火山が火を噴いた。
人々は、その時再び『夢』の中に引き戻された。やはり彼女は正しかったのだ、と。
*************
彼女の最後の予言から29日が過ぎた。
もはや世界情勢は崩壊し、国という組織がまともに働いているところなど存在しなかった。
それでも人々は更なる恐怖に怯えていた。隕石が落ちるのではないか、太陽によって焼き尽くされるのではないか、マントルからマグマが噴射するのではないかと、予言の終わりに向かって、着々と進む日々を戦々恐々と過ごしていた。
そんな中、1人の少年が自らの通っていた高校の屋上に立っていた。
もちろん、日本でいう高等学校などというものはとっくに崩壊して、今はただの手入れの行き届いていない巨大な建物でしかないのだが。
その少年は明日という日に絶望し、死にに来たわけではない。予言の日を前に懐かしい場所を訪問に来たわけでもない。
ただその日を前にやり残したことをやり終えにきたのだ。
「先輩…」
「ほう、わざわざこんな日に呼び出しておいて後から来るとはいい度胸だな」
目の前に立つは、彼の高校の先輩であり、憧れの存在であった。成績優秀、スポーツ万能、生徒会長を務め、他の生徒からの信頼も厚い。
少年は入学してすぐ、ひょんな事から彼女と知り合いになり、以降、どこにも隙のない彼女に彼はどんどん惹かれていった。
そう。この少年は、地球最後の日に彼の積年の思いを伝える事にしたのだ。それが彼の生き甲斐であり、絶対に譲れない『一番』だったのだから。
必死に息をのみ、手の汗を拭い、拙いながら必死に考えてきた言葉を彼女にぶつける。
「先輩!僕…僕ずっと先輩のこと!!」
が、しかし、肝心の言葉の手前でその口は少女の人差し指で塞がれた。
少女はその顔に優しい笑みを浮かべると、その首にそっとその両手を回した。
「私も君の事が好きだぞ。自分と同じくらいにな」
その瞬間、真下にある彼女の顔が愛おしくて仕方なくなった。
「ホントですか!?」
「ああ、もちろんだ。私は君を愛しているぞ」
少年としては信じられないような幸福だった。これまでの人生は無駄ではなかったのだと。
でも、だからこそ惜しい気がした。この幸せな時間が永く続かないことが。
「こんな事なら早く言っておけばよかったですね…」
「何を言ってる?」
「明日じゃないですか?『予言』の日」
「それがどうかしたか?」
「いや、どうせ先輩と両想いなんだったらもっと日数が残ってる内に告白しとけばよかったな〜って…」
「君は何を言っているんだ?」
「え…?」
「何故明日が最後だと決めつける?」
「…」
「何故君は他人に決められた最後を受け入れられる?最後を決めるのはいつだって自分自身であるべきだろう?」
「そうかもしれないですけど…今まで一回も外れた事がないんですよ?今回もきっと…」
「何故そう決めつける?君が行動を起こせば、世界を変えられるのかもしれないのだぞ?それなのに何故、過去に囚われて未来を諦める?」
「そんな行動を起こせるほど、僕は強くないんです…」
「強さなどの話ではない。君はこの世界に生まれた以上、自らの生を諦めてはならない。それが『生命』というものだ」
「『生命』…ですか?」
「そうだ。誰か他の人ではなく、君自身がそれを決めるべきだ」
「僕にとっての全ては先輩でした。先輩と一緒にいたかった、先輩と共にさえあれば僕はもう何もいりません…」
「それが君の、君自身の選択なのだな?」
「はい、僕の人生は十分に満たされました。これ以上、何も望みません」
「そうか…なら私も君と添い遂げよう。君が最も愛したモノとして」
そこまで言って、少年は静かに目を閉じ、終わりの瞬間を待った。
*************
その日、とある都会の裏路地で1人の青年の死体が見つかった。その近くのビルの屋上には、その青年のものらしき靴と遺書も見つかっており、警察は自殺と判断した。
そんな事があろうと、何事も無かったかのように今日も世界は回る。
この巨大な世界の中のちっちゃなちっちゃな生命を飲み込んで。
いきなりではありましたが、自分が以前から描いている連載小説の合間に描いた短編でした。
短編は何せ描くのが初めてなもんで、どこかショートショートのようなものになってしまいましたww
連載の方はまだ少しかかりそうな感じですが、またこのような短編を書くかもしれません。その際はまた是非ww
そして何より、最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。




