ーー9話【新たな力と新たな出会い】ーー
「次はどうするよ、ネビア」
昼食を終え、次にどこに行こうかと迷っていたマカロフは、とりあえずネビアに聞いてみた。
「みゃー、もうお腹いっぱいみゃー。あとは知らんみゃ。みゃーはもう寝るみゃ」
そう言ってネビアはいつもの場所に入ってスースー言いながら眠ってしまった。
今のところ武器はあるし鎧は着けたくないし、食べ物も基本はパンがあるので特に買う物もないのでその辺をぶらぶらと散策してみた。
「にしても、王都っていうだけあってかなり広いよなぁ。俺方向音痴だから地図とか欲しいな」
マカロフはかなりの方向音痴で、自分が今どこにいるか、そして、どちらに行けばいいのかなどもわからなくなってしまう。
森で迷った理由の1つもそれだ。
何か面白いものはないかと見てまわっていると、〔魔導器あります〕という看板を見つけた。
「魔導器か、面白そうだな。俺、金はあるからな」
魔導器というのは、魔物から稀に落ちる魔石を様々な物に埋め込んで普段とは変わった使い方を出来るようになるものだ。
そして、魔導器の良い所は、魔法を使えない。いわば魔法適性0の役職者でも使えることだ。
詳しい仕組みは良く知らないがとにかくすごい。すごいから高い。
「いらっしゃい坊や」
店の中に入ると艶めかしい女性が奥から出てきた。
「坊や見た所村からやってきたの? でも、剣を持ってるってことは冒険者志望かな?」
あまり若い女性と話したことが無かったため少し緊張してしまったがなんとか会話は出来た。
「え、えと、便利なやつあります?」
魔導器なんて初めて見るもので、当然どんな物があるのかなどはわからない。
やはり、おすすめに限る。
「そうねぇ、弱めだけど火を起こせる魔導器はどうかしら? 1日に10回かしか使えないけど、それさえ守れば20年は保つわよぉ?」
火を起こせるのはとてもいい。
今のようにずっと街に居るわけでもなく、当然野宿をすることも出てくるだろう。その時に簡易的な料理が作れるようになるのは嬉しい。回数制限もそれなりに多いし。
「火力ってどんなもんですかね?」
火力が弱すぎては話にならない為聞いてみた。
「どんなものって言われてもねぇ。魔法使いの使うファイアボールの威力を10だとすると3ってとこかしら」
魔法使いのファイアボールがどれだけの威力がわからないマカロフからしてみるとよくわからなかった。イメージ通りの威力なら結構強くていい。
「買います! 幾らですか?」
やはり便利なので買うことにした。
値段は500ゴールドだった。やはりお買い得とはいかない。
「水を浄化するやつとかありますかね?」
水問題は重要だ。
水がなくては生きていけない。(死なないけど)喉が渇きすぎて動けなくなっては大問題。
それに、水を浄化することができれば水購入代金は削減できるし、荷物も減る。得しかない。
「あるわよ。でも、ちょっと高くなっちゃうんだけど......大丈夫?」
正直もうあんまり使いたくなかったが先行投資だと思えば安いもんだ。そうマカロフは考えていたけど
「これ使い勝手が良すぎて大人気なのよ。それで、ひとつ1200ゴールドになっちゃうの」
金は足りる。足りるけどこれを買ったらかなり財布へのダメージが大きい。
どうしようか迷いに迷って最終的には買わずにまた金を貯めてからここに来ようと決めた。
「それじゃ、また来るんで! 次は大金持ちになってると思うから色々揃えとけよ!」
若い女性との会話は終わる頃にはだいぶ慣れてきていて、いつものように悪ガキっぽい口調で別れを告げた。
金をどうやって稼ごうか迷っていた時、忘れていたことを思い出した。
確かマリアンから聞いてた話では王都の冒険者ギルドにはマカロフの父親の知り合いがいるから顔を出せと言われていたのだ。
冒険者ギルドはその名の通り冒険者が集まっているギルドだ。そこには討伐、採取、その他の依頼が来ており、それぞれに報酬が用意されている。
冒険者になったらとりあえずは冒険者ギルドに入るのが鉄則だ。
冒険者ギルドは大きな建物の為遠くからでも見えた。方向音痴なマカロフでもしっかりとたどり着くことが出来た。
必殺技を使わずに済んだことに安心しつつギルドの中へと入ると、そこには男女問わず酒を飲んだり依頼を見ていたりととても賑やかだった。
「これが、冒険者ギルドか......すっげぇ騒がしいなぁおい!」
一人で叫ぶも周りの声にかき消され、幸い聞こえているものはいなかった。
一人ぼーっと立つマカロフをみて窓口の女性が「こっちこっち」と手招きしていた。窓口まで行くと女性が
「賑やかですいません。毎日こんななんですよー」
えへへっ、と笑いながら言ってくるもんだからうるさいとかは言えない。
「それで、あなたは冒険者ギルドに依頼? それとも冒険者ギルドに入りたいの?」
周りにかき消されないように大きな声で女性が聞いてきた。
「冒険者になりたいんだ。その、シューディー・マカロフだけどなんか聞いてないか?」
マリアンがここに話を通しておいてくれてるはずだったので聞いてみた。
「あぁ、ドボイさんの友人の息子さんでしたか」
そのドボイというのがマカロフの父親の知り合いなんだろう。
「少々お待ちくださいね。ドボイさんなら確かさっき酔いつぶれてたはずなので」
(もう潰れてんのかよ。まだ日が落ちて間も無いぞ)
ドボイという人物が残念な人でないことを祈りながら数分待っていると
「よぉぉー、おまぇがぁー、コルドのぉー、息子かぁー?」
(ほんとに潰れてたし)
潰れてることを無視すればこのドボイって人は相当腕が立つ人物だというのがわかった。
「あぁ、俺がマカロフだ。その、ドボイさん? に色々世話になれって母ちゃんから聞いてたけど......大丈夫なのか?」
少しどころかかなり不安だった。
剣の腕は一流だろう。だが、受付の女性の様子を見るに、酔い潰れてるのは日常茶飯事らしい。
(大丈夫かよこのおっさん。今まで見てきたどのおっさんよりもダメなおっさんじゃねぇか?)
「なんだぁ? 俺ぇが大丈夫じゃねぇってかぁ? あのなぁ、俺ぇはなぁ、昼間はすげぇぇえ、まともなんだぁよ、だぁがなぁ、夜ぁこのとぉりだ。ヒック」
こんな酒乱に昼間はまともとか言われても説得力がなさすぎる。そう思って受付の女性を見ていたら、うんうんと頷いていた。
(マジか)
「じゃあ、おっさんよろしくしていいんだな? いいんだよな? ........................昼間だけよろしく!」
昼間はまともらしいので昼間だけ世話を焼いてもらおう。
そのマカロフの言葉が気に食わなかったようでドボイは
「いぃんや、俺ぇはおまぇを剣の達人にしてやるからなぁ? だから、夜も付き合えやぁ」
これは困ったことになってしまった。
剣の腕が上がるのはとても嬉しい。我流で振ってきた剣はどこまで通用するかわからないからな。
(それにしても夜も付き合うのか...俺まだ16だぞ? いいのかな? いやダメだろ)
「なぁ、ドボイのおっさん。俺まだ16なんだが。酒は飲めねぇぞ?」
ドボイはそれでいいと頷いて
「酒を飲めるようにすりゃぁいいんだぁよ」
(そういう問題じゃねぇだろ。何言ってんだこのおっさんは。まぁでもこのおっさんはいいおっさんだな。この街のおっさんはみんないいおっさんだ)
「じゃあ、ドボイさんとも会えたことですし冒険者登録さっさと済ましちゃいましょうか」
そう言って受付の女性は色々と質問をしてきた。歳だったり武器だったりを。
質問が終わると冒険者登録証を渡してきた。これは再発行出来無いらしいから大事にしまおう。
「あ、おねぇさん。この辺で安い宿ないか?」
「冒険者登録証があればこの街での公共施設のほとんどは無料で利用できますよ!」
冒険者登録証のおかげで、これで当分はお金のことは考えなくてよくなった。
ドボイのおっさんと別れを告げてギルドを出たすぐの宿〈龍遊亭〉へと泊まることにした。
「そういえば、サリーに会った時にネビアが言ってた女神に会うってやつやってなかったな」
マカロフは女神へ祈りを捧げた
マカロフは女神から貰った2000ゴールドと、マリアンから路銀だと言ってもらった50ゴールドがありました。
魚で9ゴールド。火の魔導器で500ゴールド。
残金1541ゴールド