ーー5話【不死の力】ーー
「ハンカチ持った? ティッシュは? あと、胃腸薬と薬草は? 大丈夫?」
遠足に行く前のガキでもあるまいし。
(そんなの忘れててもどこかで買えばいいし、そもそもそんなに優先度高くないだろ。)
大事なのはもっと他にあるだろうに......
「そんな心配しなくても大丈夫だ、母ちゃん」
「ほんとに? いつだったか友達と山に遊びに行くって言った時に毒消し草わすれちゃって大変なことになったのはどこの誰よ。あの時は隣のコニーちゃんが余分に持って来てくれてたから良かったものを......」
(ぐぬぬ......あんな昔のことを覚えてるとは流石は母ちゃん。)
昔マカロフが木登りで遊んでた時に偶然ポイズンビーの巣に足を引っ掛けて群れが出てきたのだ。
まだその頃はモンスターなんて全然倒したことなかったから泣き喚きながら村に戻って大人の人に助けてもらった。
帰りの時に毒が回ってフラフラしてたとこを幼馴染のコニーに助けてもらったのだ。
「まぁあの頃はしょうがないだろ、俺は毒消し草どころか食べ物も飲み物も持ってってなかったんだぞ!」
自慢にはならないがあの頃は何故か何も食べず飲まずで山に駆り出すのがカッコ良かったのである。
なんでなのか今となっては謎である。
「はいはいそうね、そういう事にしておいてあげるわ。それよりマカロフ、そろそろ行かなくていいの? この村【トーラス】から王都の【ナタリア】までは半日以上かかるんでしょ? そろそろ行かないと日が暮れちゃうわよ」
マリアンとの別れは寂しいが、そんなことは言っていられない。マカロフには大切な使命があるのだ。
マカロフにしか出来ない大切な使命が。
「んじゃ、そろそろ行くわ。寂しすぎて村の人にグレートウルフ狩らせるなよー」
最後の別れだ、皮肉の1つや2つは良いだろう。
マリアンも最後だから、と満面の笑みで
「大丈夫よ、マカロフにしか頼まないわよ! だってあんなの村の人に頼んだら死んじゃうかもでしょー?」
(なん......だと......。)
よりにもよってこの別れ際にとんでもない事を聞いてしまった。
確かにグレートウルフは中級冒険者がソロで狩れるレベルの魔物だ。
だけどこの村の人なら普通に倒せるからということでマカロフに頼んだのかと思ったが......それでも最後なんだ、これくらいは笑い飛ばせる
「じゃ、じゃあな! 母ちゃん、いままでありがとう! こんな親不孝してごめんな、けど、親父みたいなビッグな冒険者になるからよ! 新聞でも読んでろ!」
これは心からの言葉だ。
いままで育ててくれたことは感謝してもしきれない。
そして、ビッグになるのも1つの目標である。
でかい功績を残せばこの田舎にも俺の事は広まるはずだ。それでマカロフの活躍をマリアンに少しでも知ってて貰えれば、ほんの少しは親孝行になるのではないかと。
「当たり前でしょう、あんたは、シューディー・マリアンとシューディー・コルドの子供なんだから!」
マカロフとマリアンはお互いが見えなくなるまで手を振り合っていた。
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「とりあえずの目標はーっと、不死の力を試す事だな」
この不死については知らないことが多すぎる。まず、不死とはいえ、ダメージは入る。
そこで痛みになれる練習もしなければならない。そして何よりも重要なのが、傷は回復するのか。ということだ。
もしも回復をしないとなれば核だけでなく、脚や腕なども失う事ができなくなる。そうなればいとも簡単に核を攻撃されて死んでしまう。それでは不死の意味など無いがもしものことがあってからでは遅いので、実験をしてみることにした。
「いくらなんでも腕チョンパはアホだよな。なら......指に針刺してみるか」
そう言って自分の右手の親指に針を刺し血を流してみると、約10秒後に血は止まり傷の後も消えていた。
「うっし、これならとりあえずはだいじょぶか。再生速度とかは怪我した面積とかにもよるんだろうけどまぁ今のとこはいいや。次は痛みに慣れる練習か......これは出来ればやりたくないんだよなぁ......」
いくら傷が回復するのが分かっていても痛いことは痛いのだ。それをわかっていて自傷行為をするのはなかなか勇気がいる。それこそホーンラビットあたりにずっと攻撃されている方が痛みはなく、恐怖もないだろう。
「......! その手があったか」
名案を思いついたマカロフは森の中へと走っていった。
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「うっは、これはやばい。スライムにめっちゃ攻撃されててかなり痛いんだけど」
言葉とは裏腹にかなり楽しそうにスライムに攻撃されているのはマカロフだった。
そう、彼が思いついた作戦は、題して[スライムに攻撃されて痛みに慣れよう作戦]だったのだ。
想像通りとまではいかなかったが攻撃されて痛みを感じるのだが、スライムという 低級モンスター+可愛い で癒やしが痛みに勝っていたのだ。
「スライムなら移動しながら攻撃されても大丈夫だろ、というかむしろ歓迎! ウェルカムだから!!」
1人でマカロフは盛り上がっていたが、彼は大変なことを忘れていた。
彼は今森の深くにいるが、コンパスもなく、地図もなく、そして、日が傾き始めていることを......