ーー3話【名探偵ビビアン】ーー
「これは、事件ですわ!」
ビビアンがそう発すると、静かになって来ていた周りが再びざわめきだす。
「ビビアン、事件ってどういうことだよ?」
「んん、マカロフ様。この状況で事件以外にありえると思いますか!? 見えない魔法による攻撃に加えて、被害者は事件前に辺りを警戒していた。恐らく犯人に遭遇して何かを言われた。若しくは何らかの理由で犯人が自分のことを狙ってるのに気付いた。か、ですわ!」
ビビアンがそう言い切ると被害者の友人の1人が割り込んでくる。
「待ってくれ。コイツはそんなふうに誰かに命を狙われるような奴じゃない! 第一、こんな人目のある場所で襲う理由が無い。いくら犯人の攻撃が感知されないからってちょっと無理があるんじゃないか?」
「犯人の動機は解りませんが、ここで狙った理由は簡単ですわ。ここなら人が多く居るから特定される割合も下がるし、貴方のように『こんなところでやるわけない』という心理を利用したんでしょうね」
「そんな......それじゃ本当にコイツは......」
友人Aは倒れたままの男を眺める。
「にしても腑に落ちない事はありますわ。恐らく被害者は犯人を知っている。それなのになぜ一撃で仕留めなかったのか。わかりませんわ......」
ビビアンは、爪を噛みながら被害者の体を隅々まで眺める。
「取り敢えずこの食堂内の人。店の人も含めてここから出ないでください。出たら即刻犯人として尋問しますわ」
「ビビアン流石にそれは――」
ビビアンの行き過ぎた行動を止めようとマカロフが1歩前に出ようとするが
「――甘い! 甘いですわマカロフ様! ここから出てしまえば犯人の特定なんてとてもじゃないですができませんわ。マカロフ様も手伝ってください。魔法の事ならネビアちゃんとマカロフ様が一番分かってると思うので」
ビビアンに力強く叱責され、その上事件解決の手伝いまで頼まれてしまった。
マカロフ自身も犯人を炙り出すのにはもちろん賛成だが、魔法の知識分野で頼りにされても困ってしまう。
何故なら、マカロフは多少の努力こそはしたが、一般的な魔法に対する努力量と比べればかなり、全く、物凄く努力していない方に入ってしまうからだ。
「手伝う事については良いけどさ......どうすりゃいいの?」
「そうですわね......今の所証拠という証拠は何処にもありませんし......」
これが事件である事を決めつけたのは良いが、それを証明する確たる証拠が無い。
凶器となる物も魔法で、その上感知ができないものと来た。流石に打つ手なしかと思われたその時。
「おみゃーらアホかみゃ。取り敢えず魔法使える人だけ集めればそれなりに絞れるみゃ」
「さっすがネビア! 冴えてんな!」
「盲点でしたわ......探偵失格ですわ......」
早速ネビアの指摘通り魔法の使える人を調べる。
方法は簡単で、マカロフとビビアンが全員に順番に魔力を流し込み反応がある人だけ留まってもらう。
ネビアは見た目が猫なので色々と不味いと思い、その作業には参加しなかった。
結果的に、3人までに絞ることができた。
一人はマカロフ達等と同じく冒険者。
一人はこの船で働く乗組員。
一人は前線を退いたのであろう老人。
以上のような3人が犯人候補となるわけだが......
「全ッ然わからん!」
取り敢えず話を聞いてみるも、冒険者は他の島に行くからという理由で乗り合わせ、乗組員は仕事。老人は観光とそれぞれがもっともらしい目的を述べる為に何も見えてこなかった。
「おかしいですわ......ここでスパーン! と犯人を突き止めて周りからは拍手喝采を浴びる筈でしたのに......」
「どうするよ、名探偵ビビアン」
マカロフが冗談めかしてビビアンを”名探偵”と呼ぶと、それまでのネガティブさはどこかへ行き、パッとマカロフの方に向き直り
「私、名探偵ですか!? しっかり名探偵出来てます!? そうですわ......こんなところで挫けてなんていられませんわ!」
どうやら”名探偵”がビビアンのスイッチだったらしく、ビビアンは再び思考を巡らせる。
断片的ではあるが少しずつピースが埋まっていく。
「この謎、いただきましたわ!」
「いや、いただきましたってなんだよ......」
「新しい表現みゃね」
「らしいっちゃらしいけどな」
ビビアンの決め台詞に文句があるようだがそれをビビアンは無視し、説明をする。
「一つ一つ順を追って説明しますわ。まず、被害者の席は中央に位置していました。そして、冒険者様はそこから南側に2つ席を開けたところに座り、食事を取っていた」
ビビアンが冒険者をちらと見やり反応を伺うと、冒険者は首を縦に振る。
「乗組員さんは厨房の手前で料理を運んでいたんですわよね?」
こちらも同じく首肯する。
「そして、ご老人は事件の直前にここに入って来た」
「そうじゃな」
ビビアンは、3人の事件当時の位置を再確認すると説明を続ける。
「魔法というものにおおよその有効射程距離があるのはご存知ですわよね? そして今回の事件で被害者の方に魔法を当てるには3人とも離れ過ぎていてとてもじゃありませんがこんな状況に陥れる程の威力の魔法を放つことは出来ません。それこそ、かなりの術の精度がある魔術師なら話は別ですがね」
「待てよ、でも俺等3人とも魔術師なんかじゃないぜ?」
「ええ。そうなんです。3人とも魔術師ではないので今回の場合、魔法での殺害なんて無理でしょう。しかし、それは”有効射程圏外であったら”の場合ですわ」
先程までよりも空気がより一層とピリピリとするのをビビアンは肌で感じながら説明を続ける。
「そもそもあの魔法は事件直前に放たれたものでは無かったんですわよ」
「それはどういう事なんじゃ?」
「あの魔法は事件発生の数分前に放たれた魔法だったんです。予め被害者の席の近くで魔法を発生させて、ゆっくりと進むように発動したんでしょうね。それで殺傷能力が弱まってしまった。これは、恐らく犯人からしても予想外だったでしょう」
「つまり......犯人は?」
ビビアンは、深く息を吐き、眼を見開き、口を開ける。
この場でいう言葉は唯一つ。
「は、犯人はっ! あなたですわ! 乗組員さん」
「な!? なんで俺になるんだよ? 俺はやってねぇって」
「今の推理が当たっていたとしたら、ご老人には無理ですし、南側の冒険者様も無理があります。あとはここを自由に歩き回っても怪しまれないあなたしかいないんですわ!」
内心でビビアンは、『もし違ったらどうしよう......』と酷くびくついていたがそんな心配は要らなかったようで、乗組員はとつとつと語り始めた。
「俺とあいつは昔は一緒に組んで旅に出てたんだが、いつの日か俺は戦力外通告を受けてあいつとのパーティは解消した。それから2年余りが経った今日この日。俺はまさしく運命だと思ったよ。俺はあいつから戦力外通告を受けてからはそれまで以上に鍛錬に励んだ。そして俺はあいつを超えたんだ。けど、あいつは俺のことなんて覚えてなかったし、教えてやっても思い出さなかった。だから軽い気持ちで『殺してやる』なんて言ったらあんまりにもビビりまくるからそれがおかしくって......ついやっちまったんだ」
「そんな軽い気持ちで......許せません! あなたは人の命を、人生をなんだと思ってるんですか! 長生きをしたくても出来ない人も、今日を必死に生きている人もいる中で......そんな理由で殺すだなんてありえませんわ! 狂ってます!」
ビビアンは、マカロフ達でも見たことの無いような鬼気迫る表情で、乗組員に怒鳴りつけていた。
「ああ、分かってる。今思えば本当にどうにかしてたよ俺。ほんと......馬鹿なことした」
「分かって下さればいいですわ。あなたの身柄は次の国に着き次第警備隊に引き渡しますのでそれまで大人しくしていてください」
これでこの一件は丸く収まった。マカロフ達はそんな勘違いをしていたが、その勘違いに気付くのはまだ少し先のお話。




