ーー2話【事件発生】ーー
マカロフが目を覚ます頃にはメイザーもネビアも部屋の中へ入っていた。
「俺ってどうなってたんだ......?」
マカロフは酔っていた頃の記憶が曖昧で自分が何をしてどうなったのかを覚えていなかった。
「お前さんが飲んだやつな、酒だったんだな。それで一瞬にして酔ったお前を介護してくれたのがビビアンって訳だ」
「なるほど......いかにもジュースっぽかった名前だったのになぁ......」
「あぁ、俺もまさかあれが酒だったとは思わなかったし、それ以前にお前があんなにも酒に弱いなんて思わなかったわ。あんだけ酔うの早いと一種の才能だわ」
メイザーは頭をポリポリ掻きながら自分の失態を思い返す。
一方、マカロフを看護したビビアンは俯きながらなにかぶつぶつと言っている。
「さっきからビビアンは何を言ってるんみゃ」
「記憶が無いなら襲うことだって......ぶつぶつ......っは!? なな、なんでも無いですわよネビアちゃん! お酒をマカロフ様には飲ませないようにって心に刻んでたのですわよ。そう、そうですよ決してやましいことなんて......」
「次飲ませるなら強い酒飲ませてより記憶を飛ばしてヤろうって思ってたんだろーよ、嬢ちゃん?」
「その手が――じゃなくて......そ、そんなー、そんな手段で攻めてくる敵もいるかもーしれないですわー」
マカロフはメイザーとビビアンの仲が深まったのだと勘違いをして2人のやり取りを笑いながら見ていた。
そんなマカロフだが、1つ頭に引っかかる物があった。
『何故、バーに行ったんだっけか?』だ。
メイザーと一緒にバーに行って適当な飲み物を頼んだのはなんとなくだが覚えていたのだが、バーに行った理由だけが分からなかった。
普段なら特に気にしないだろう事だが、何か大事な理由があった気がしていたのだ。
しかし、それを聞いて良いものかどうか決めあぐねていた。
迷っていても仕方がないと思い、聞いてみることにした。
「なあ、そういや俺達ってなんで昼間なんかにバーに行こうと思ったんだっけか? 俺もメイも別に酒好きってわけじゃなかった気がしたんだが」
マカロフがそう言い放つと、部屋の中の時が止まったかのようにみんなの動きが止まった。
そんななか最初に発言をしたのはメイザーだった。
「それはだな、マカロフ。け、見学だ! そう、見学。バーなるものがどういうものか知りたいっていうマカロフの頼みでしょぉーがなく。しょぉーがなく行ったんだよ」
「なんだ、そんだけの理由だったのか。いやなんだ、なんか大事な理由があった気がしたから聞いてみたけど特別な理由はなさそうだな」
「ふぅぅーん。”大事な理由”ですか。”見学”ですかそうですか。それは大変よろしいものが見れたんでございましょうねぇ!」
「みゃみゃ!? おみゃーら、みゃーがビビアンから治療を受けてる間に抜けがけしたのみゃ? そうなのみゃ!」
ビビアンの言葉もネビアの言葉もマカロフには最初何を言っているのか分からなかったが次第に記憶が甦る。
「そう......か......そうだったな。俺はバーに居る可愛い女の子を見に行くというメイの監視で......確かに大事なことだったな。うん」
「おい待てマカロフ! 何偽善者ぶってんだよ! お前もかなりノリノリだったじゃねぇかよ!」
「なに言ってんだメイ、俺がいつそんなこと言ったよ!」
「言ってなくてもずっとそわそわしてたじゃねぇか! 白々しいんだよ!」
「どっちもどっちですわよぉ!!!」
2人の罪の擦り付け合いを見兼ねたビビアンが間に入って言い合いを止める。
「と・り・あ・え・ず! もういいですわよ、怒ってませんわ。マカロフ様だって殿方ですものね、それくらい許容するのが妻の役目ですわ。えぇ、分かってますとも」
「ちょぉぉっと待てぇ! おかしいおかしい。なぁにしれっと妻になってるの!? 確かに王様から色々とあったけど俺認めてないからな!?」
「もう、なんか滅茶苦茶だな......俺はもう夕食食いに行くけどお前らどうするよ? もうちょっと夫婦漫才でもしてるか?」
「「しねぇよ!(しますわ!)」」
「いや、ハモらせるならハモらせろよ......まあいいや。じゃあネビアや、食いに行こうぜ」
「そうみゃね。ここにいても、疲れそうみゃ」
「待て待て俺も行くっ!」
「なら私もぉ!」
マカロフ達は騒ぎながら夕食を食べるのだった。
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マカロフ達が夕食を食べ終わる頃に、食堂内は謎のざわめきに包まれていた。
それを不審に思ったネビアがマカロフ達に何か知らないか訊いてみる。
「なんか妙にざわざわしてる気がするんみゃけど......何なのみゃ?」
「ん? 確かにそうだな。今の食事になんか入ってたとかか!?」
「そういうのとは違う感じのざわめきだと思うんだけどな」
「メイザーさん何か心当たりでも?」
何かを知ったように言うメイザーにビビアンが質問をするもメイザーは、「いんや」と言って、それからある一点をじっと見つめていた。
そこには、男が1人倒れており周りには友人と思しき人達がその男を揺すっていた。
「気絶? 寝てる? いや、まさか......死んでる? い、行って来ますわ!!」
そういうとビビアンは急いで男の元へ駆けていった。
「脈はある。息もしてる。大丈夫ですわ、少し治癒をすれば直ぐに良くなりますわ」
「そ、そうか。ありがとうなお嬢さん」
「よかったー。コイツ急にブッ倒れるから何事かと思ったぜ。ありがとうな嬢ちゃん」
早速治癒に取り掛かっていたビビアンは男の友人達からの感謝の言葉に照れつつも、変な感覚に眉をひそめる。
「あの、彼は倒れる前はなにをしてらっしゃいましたか?」
「何をって言われてもなぁ......。普通に飯食って少し喋ってからそろそろ行くかって立ち上がった時に倒れたから特に変なことは無いと思うぞ。飯に問題があったんなら俺等も今頃倒れてるだろうし。な?」
「ああ。これと言って特別なことはしてないな」
2人の話を聞いてもどうも納得いかない事があった。
彼の身体は倒れる前に、外部からの魔法による干渉。恐らく攻撃があったはずなのだ。
しかし、やはり場所が場所なだけあり想像通りの答えだった。
「でも......なんかコイツ飯食う前になんか様子がおかしくなかったか?」
「確かに。なんかずっとキョロキョロしてあたかも誰かに狙われてるかのような感じだったな」
「キョロキョロしていた......なるほど」
ビビアンは思考を巡らせ、様々な可能性の中での最適解を導き出す。
「これは、事件ですわ!」
ビビアンは空へ指を指し、声高らかに叫んだ。




