ーー4話【母との別れと父の過去】ーー
シューディー家は母親のマリアンとマカロフだけが住んでいる。
なんでも父親はマカロフが生まれて間もなくモンスターに殺されて他界したそうだ。
女手一つでマカロフを育て上げてくれたマリアンにはとても感謝をしている。
だからマリアンの頼みは極力聞いていた。だがマカロフは生まれてきて最初となる親不孝をしなければならないのだ
「母ちゃん、薬草取ってきたぞ」
「あら、マカロフ遅かったわね」
言外に何してたんだと聞いてきてる。怖い。
「あぁ、そのことなんだけどよ......母ちゃんごめん! 俺、この家を出て旅しなきゃなんねぇんだ」
母にはすべてを話そう。そう思っていた。母には知る権利があるのだから。
「流石あの人の子だわ。あの人も貴方と同じくらいの歳......16歳の頃だったかしら」
マリアンは納得したような顔で瞳を潤ませながら話を続ける
「あの人、私の旦那のシューディー・コルドは各地を旅する冒険者だったのよ。そしてある日彼が寄った村にいたの私は彼に一目惚れしちゃってね、それで彼にどうしても着いて行きたい! 料理などの世話は出来るから! と言って無理やり連れて行ってもらったのよ」
自分の父が冒険者だったとは知らなかったマカロフは少し驚いた。
それに、この母親が一目惚れをしたとは。
「それでどうなったんだ? 旅の途中で結婚か?」
「ま、まぁ簡単に言うとそうなるわね。でも、お互い奥手で結婚にかこつけるまでかれこれ5年はかかったわね」
またもマカロフは驚かされた。この母親が奥手だとは......何が起きたらこうなってしまうんだ。
「ま、まぁそんな昔話よりも......マカロフ、貴方は冒険者になることがどれだけ大変か分かってるの? 貴方のお父さんはどうして死んだか知ってて、それでも冒険者になるというの?」
マリアンはいつになく真剣な顔でマカロフの目を見て話す。
マカロフには行かなきゃならないというほどの理由はない。
ただ頼まれたから。
自分に資格があり、自分が行かなきゃいけなかったから。
そうとしか思っていなかったマカロフは少し考えるも答えは決まっていた。
「俺には資格がある。俺にはやらなきゃいけないことがある。それは俺にしか出来ない。俺じゃなきゃダメなことなんだ。それに母ちゃん安心してくれ。俺は死なない。絶対とは言えないけど普通よりかは死ににくいはずだ!」
資格のことなど何故かと問われたら素直に答えるつもりでいたマカロフだったがそんな杞憂は無駄だったようで
「そう。流石私とあの人の子だわ。わかったわ、行ってらっしゃい。」
マリアンは何も聞いてこなかった。
聞きたいことや不思議に思ったこと、それに心配なことも沢山あったはず。なのにマリアンは何も聞かずにただ、マカロフを送り出してくれた。そのことにマカロフは少し泣きそうになった。
「でも、資格があるとか俺じゃなきゃダメとか言ってて恥ずかしくなかったのぉ? 流石にそれは言い過ぎだと思うわよ?」
マリアンはケラケラと笑いながらそう告げる。
最後の最後までマリアンはマリアンだった。そのことを少し嬉しく思い、だけどやっぱ少し腹立たしく思いながら
「あのな! 俺は【ステンリア・フラワー】って言う不死の効力がある花を女神から貰ったんだよ! ほれみろ!」
そう言ってマカロフは【ステンリア・フラワー】を見せるとまだ笑っていたマリアンの顔に再び緊張の色が戻り
「それ......嘘......だって、あれはあの人との約束の......」
マリアンはボロボロと泣きながら【ステンリア・フラワー】を見ていた
「どうした母ちゃん? これ知ってんのか?」
「いいえ、何でも無いわ。マカロフの言ってた意味が分かったわ、確かに、マカロフじゃなきゃダメね。うん! そうじゃなきゃ!」
先程までボロボロ泣いてたのに今はキャーキャー囃し立ててくる。
(ほんと、いい母ちゃんだよ)
「【ステンリア・フラワー】って煎じて飲まなきゃ効力無いらしいから作ってくれ母ちゃん」
そう言って最後の母親との会話を楽しむのであった