ーー16話【決意】ーー
一同は爆音のした次の階層に早足で上がると、真っ黒な煙が階層一面に広がっていた。
「ゲホッゲホッ。なんだこれ。[火]魔法でもこんなふうにはなんねぇぞ」
「みゃーもこんな光景見るのは初めてみゃ」
「これは......一体なんですの?」
「あの野郎か......やってくれるな」
マカロフは煙の中に何かないかと凝視するが、煙が濃すぎて何も見えなかった。
「この煙の中を突っ切るのはかなり危険だよな」
この階層に特異な存在がいることは確定しているので、無闇に動くことはできない。かといってこのまま階段付近でウロウロしていて戻ってきた”やつ”と鉢合うのも避けたい。
どうしたものかと考えるもなかなかいい案が浮かばない。
「俺さ、今物凄く帰りたいんだけど賛成の人」
全員が手を挙げる。
「全員撤退ぃ!!」
マカロフ達は一目散にダンジョンを降りるのだった。
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「とりあえずあの選択は間違ってなかったな......」
マカロフ達が必死に降りている時、後ろから爆発音がまた聞こえていた。
それも一度や二度ではなかったし、どんどん近くなっていた。
もし仮にあそこでマカロフが撤退を宣言しなければ階段前で出会っていただろう。
悔しいが今あったところで勝つことなんて到底不可能だ。
幾ら策を弄しても、レベル差がありすぎて話にならない。
「ここのダンジョンはもう使いものにならねぇかな......」
こんなふうに突入と撤退を繰り返しているようではとても効率がどうのなんて言ってられない。
「だけどどうすんだ? この国じゃダンジョンはここだけだし他の魔物でレベル上げようと思ったらそれこそ効率が悪いぞ」
街の周辺などに湧く魔物のレベルは低めである上に数がそんなに多くない。
多いことは多いのだが、広い範囲でばらばらで居るので探すだけで時間は結構取られてしまう。
マカロフは苦渋の決断をすることにした。
「この国を出る......ってのは......無し?」
「確かにそれもあるかもだけどよ、それだとあの野郎を野放しにしておくことになるぞ!?」
メイザーの言っていることは正しいのだが、だからといってこの国に留まっていてもコルドの犯行を止められるわけでもないのでどちらがより良いのかわからない。
「経験値を他に上げる方法があればな......」
マカロフはそんな益体もないことを考えるがそんなものがあればとっくに試しているわけで、あるはずがない。
そんな風に思うが閃く。
「女神がいるじゃん!」
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『来てくれたのは嬉しいけど理由というかその、動機が少し不純すぎるとは思わない?』
マカロフは弁明をしようとするもいい言葉が見つからず、仕方なく本当のことを言う。
「確かに自分でも都合がいいってことは分かってる。だけど、だけどそうでもしないと勝てねぇんだよ。世界を守る為にはどんな手でも使わなきゃなんねぇんだ。強さに貪欲で。生きることに貪欲であり続けなきゃとてもじゃねぇが勝てねぇよ......」
マカロフは心の中に溜まっていた自分の弱い部分を曝け出した。
普段仲間にはとても見せられない本音の部分。どうせ隠せないのだし、この女神にならいいかなとそんなふうに思えていた。
『そう。私も貴方のために全力で報いてあげたい気持ちは山々なんだけどね。貴方を花に導き、力を託し、魔術書と魔力を与えた時点でもう私にはほとんど力が残ってないのよ。この世界は今危険な状態に陥りつつある。それもコルドを操っている人物のせいね』
マカロフは驚愕した。
あの時(魔術書と魔力を貰ったとき)は凄く軽いノリで渡してくれたものだから大したことないのだと思っていたが、まさかそんなにも深刻な状態だとは思いもしなかったのだ。
力が残っていない女神は、新たに【ステンリア・フラワー】の元に人を導いて、世界を救ってもらうことができなくなっているということだ。
それだけ自分のことを信用してくれているということの証明だった。
「そう......か。わかったよ。俺らだけでなんとかするよ。悪いな無理言って。それと、女神の期待に応えられるよう頑張るからな!」
それを最後に意識が引き戻される。
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「ごめんけど無理だった」
「早いなっ!? そうか。まあそれはしゃーねーよな。女神様にそんなに色々ホイホイと貰うもんじゃねえしな」
マカロフはなんて言おうか迷っていたが、女神からはもう何も貰えないことは黙っておく事にした。
「そうなるとやっぱり他の国に行くしかないのみゃ」
「他の国って言ってもどこに行くんだ?」
「俺がこの国のダンジョンに潜ってる間ずーっと行ってみたかったダンジョンがあったんだ。そこでどうだ?」
「いや、いいけどなんで今まで行かなかったんだよ」
メイザーの実力ならば金はそれなりに溜まっているだろうにどうしてだろうかと訊いてみる。
「今まではクエストとかあんまやってこなかったんだよ。それこそ剣を新調したいときや金が無くなりそうになった時に大量に受けて稼いでたんだけどよ、メシ代とかでなくなるし、そもそものクエストの数も少ないからどっか行くなんて出来なかったんだよ」
(ダンジョン潜るのをやめろよ!)
と内心で突っ込まざるを得ないなんとも言えない理由だった。
だが、戦闘狂かつダンジョン愛好家であるメイザーの行ってみたいというダンジョンとはどんなところのどんなダンジョンだろうかとマカロフもとても興味があった。
「それで? どこの国だ?」
「ふっふーん。6国の南西に位置する砂漠の国。【ウェルトリア】だ!」
「砂漠......暑いのは嫌ですわ......」
「みゃーも暑いのは苦手みゃ。寒いのも得意じゃないんみゃけどね」
「うん。遠いな」
3人とも少し嫌そうな感想だがメイザーイチオシのダンジョンとあらば行くしかない。
マカロフが覚悟を決めて立ち上がろうとすると
「あ、や。なら【イスタリア】でもいいぞ」
これを聞いたマカロフは腰を少し浮かした状態で一体どう反応すればいいか困ってしまうが、もうマカロフの頭の中は【ウェルトリア】のダンジョンの事しかないので勿論【イスタリア】は却下だ。
「いや、いい。【ウェルトリア】のダンジョンに行くぞ」
「マカロフが言うんならいいみゃけどー」
「そうですわね。マカロフ様が言うなら」
「なんだお前ら! 俺ん時と反応違うじゃねえか!」
マカロフは怒るメイザーを「まあまあ」と宥めると
「メイも馴染んでけばこうなるって。それよかそこのダンジョンは【ウェルトリア】のどのへんにあるかとかの案内は頼んでいいんだよな?」
「そこまで詳しいってわけじゃねえが、都市の名前とかは覚えてるかなんとかなると思うぞ。最悪誰かに聞けばわかるさ」
「それじゃ行くか!」
全員で「おー!」と拳を天に突き上げた後、少し話をして、その日は解散となった。
マカロフは次のダンジョン。次の国がどんなふうなのか気になってワクワクする反面、この国にコルドを残していく事への不安を感じており、なかなか眠りにつくことができなかった。
「絶対に、強くなってみせる」
確かな目標を胸に新たな旅に向かうのだった。
これで一応2章完結です




