ーー15話【ガリス・メイザー】ーー
一同はダンジョンの中に入ると隊列を決めた。
前衛にマカロフとビビアン
中衛にネビア
後衛をメイザー
といった感じにしていた。
ネビアにはレベルという概念は無いし、魔法が主な攻撃手段な為中衛に。
メイザーはレベルが高く上がりにくくなっているし何より1番強いので仲間を守る大事なポジションに付いてもらった。
「道覚えてるから前行ったとこまで飛ばしていいか?」
ここらへんの魔物は相手にならず、前行ったのは18階層だったが階段の前だったのでそこまで飛ばそうと思っていた。
19階層は爆発するスライムがいるらしいのでレベル上げには最適だ。
「そうですわね。ここらへんで油を売るよりも一気に行ったほうがいいですわね」
「そうみゃね。このへんはつまんないみゃし」
「おう。19階層に行ったほうが効率はいいな」
一同の同意を得られたところでマカロフ達はいそいそと前回辿り着いた18階層の最深部へと向かうのだった。
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マカロフ達が15階層ほどまで行く間に魔物を一体も見なかった。
どういう事かと訝しんでいるとメイザーが
「恐らく俺を倒した野郎だな。ちょうど入れ違いになったからこうなったんだと思う」
それを聞いてマカロフも納得した。
あのメイザーを倒す者なら物の数分でこのダンジョンを降りることは出来るだろう。
「鉢合うことなくてよかったな。少し悔しいけど」
マカロフとしては出会わないことに安心しているこの状況は大変不本意であったが、力量の差があることは変えられないのでしょうがなく飲み込むしかなかった。
その後も魔物と戦わずに18階層最奥まで来た。
「こっから先はメイしか知らない。気を引き締めていくぞ!」
マカロフは慎重に階段を登る。
まだ魔物達が湧いていないかもしれないが油断は禁物だ。
階段を登りきったその先には......何も無かった。
「まだ湧いてないって流石におかしくねぇか?」
いくら早く敵を倒したとしてもマカロフ達の進む速度などを考慮すると湧いていてもおかしくないはずだ。
しかし、この階層を見回ってみるが、魔物1匹いないのだ。
「確かにおかしいみゃね」
「まだ居るっていうのは考えられません?」
「つまりあれか嬢ちゃん、すれ違ったんじゃなくて入るタイミングが違ったってことか?」
マカロフ達は大きな勘違いをしていた。
メイザーを倒した男が出た後に入ったと思っていたが、実際は男が入った後にマカロフ達が入ったのだ。
それなら今までの階層で魔物達が全滅していた事も納得がいく。
「この階層か、それより上にまだいるってことか......?」
このまま降りることは論外だが、ここで男と対峙するのも愚策としか言いようが無い。
マカロフは頭を捻っていると
「ここの階層主はお前らまだ倒してねぇんだよな?」
マカロフが無言で頷く。
「なら簡単だ。ここの階層主と遊んでればいい。適当な時間になったら出る。そんでまだ居るかもしれねぇんだったら次の階層主と遊べばいいんだ」
マカロフ、ネビア、ビビアンは何を言っているんだコイツといった顔でメイザーを見つめている。
「いや、だからよぉ。階層主の部屋ってのは一旦別次元行くだろ? それを使えばいいんじゃねぇかって......まさか知らなかったのか?」
「全く持って初耳ですけど。つかそんなん確認しようがないから知ってるほうがおかしいだろ」
マカロフは呆れたようにそう言うがメイザーは至って当たり前とように
「初心者パーティーが1階層の階層主を倒した頃に俺のトラップに引っ掛かったかなーって見にいこうとしたら何にもなくてよ。次の階層に行ったわけでも倒されたわけでもないなって思ってたら後ろから文句を言いながらそのパーティーが来たからビックリしてよ。その後も何度か試したがやっぱり毎回結果はおんなじだったからそう仮定したんだ」
「よくもそんなことに気が付いたな......待て。メイ今なんて言った?」
マカロフは大事なことを聞いた気がしたのでメイザーにもう一度聞いてみる。
「だから、誰も居なくて次の階層に行ったら後ろから来たって」
「そこじゃない。その前だ。トラップが何だって?」
「ああ。あれな。宝箱を少しだけ見えるようにして期待させておいて中身はなんにもないってトラップだ。お前らも引っかかったのか?」
マカロフを含め、引っ掛かったビビアンとネビアもメイザーを睨みつけ
「「「やっぱりお前か!!(みゃ!!)(なのですわね!!)」」」
「まてまて、そんなに怒るなって。俺もあの宝箱にはしてやられたんだからよ」
マカロフは訝しげにメイザーを見る。
「俺が最初にあそこを攻略したんだがな、あの宝箱の中には驚くことに魔物の死骸がびっしり入れられてたんだ。その後の階層もそうだったな。20階層を過ぎた頃からようやくまともな物が出てきたけどな」
マカロフは箱いっぱいに詰まった魔物の死骸を想像してしまい、込み上げてくる吐き気としばらく戦うことになった。
「うっ......。ふう。それは災難だったな......」
「みゃー達よりも酷かったんみゃね......」
「そんなことが......」
3人はもう怒る気にはなれなかった。
流石に死骸の詰まった宝箱を開けるのはダメージが凄かっただろうとわかっていたからだ。
そんな3人の思いやりの気持ちを知ってか知らずかメイザーは
「まあ嘘だがな」
3人はポカンとしていた。
「は? どこからどこまでが?」
「死骸が入ってた所からだな。まあ実際は何かの骨とかだったから似たようなもんだろ」
マカロフ達は騙された怒りもあるがメイザーに対して同情してしまった事に非常に怒れてきて、各々武器を取り出しメイザーに刃を向ける。
「ごめんって。なあ、俺ら仲間だろ? それにあの場を和ませるためのブラックジョークだっての」
「問答無用だ! 俺の吐き気と戦った時の数倍苦しんでもらうからなっ!」
マカロフが飛びかかろうとした瞬間。
上の階層から爆音が響いてきた。
「なんだこの音」
「あの野郎が何かしたか?」
2人は先程までのやりとりを忘れたかのように次の階層に向かおうとするが、この階層の階層主をマカロフ達はまだ倒していない為階層主が現れる。
「クソっ、こんな時に......」
今回の階層主は人型の魔物だった。
全身を甲冑に包み、マカロフの持つ剣よりも何周りか大きな両手剣を構えていた。
「任せろ。コイツなら俺1人で倒せる。なに、さっきの嘘の詫びだ」
そうメイザーは言うと目にも止まらぬ速さで階層主へ迫ったと思うと、兜が宙を待っていた。
「なんつー速さだよ......」
「それじゃ行くか」
爆音のした次層に向かうのだった。




