ーー13話【トップランカー】ーー
マカロフ達は急いでその男と元へ駆け寄ると、治療を開始した。
ビビアンが[水]魔法を得意としていたのでそこまで治療に時間はかからなかった。
しばらく治療していると男の意識が戻り微かに目が開き、口が開いた。
「生きてたか......」
「おい、どうしたんだ。何があったんだ!?」
強そうな見た目をしている上に、この階層までこれているのだ。
そこらへんの冒険者と違ってかなりの腕のはず。
それがこんなにもボロボロになるなんてこの先の階層、トップランカーはどれほどのものだろうかと思いながら聞いてみる。
「俺はガリス・メイザーだ。メイって呼んでくれていい。それよりお前たちも引き返した方がいいぞ。俺はここのダンジョンの最前線で戦っている。いわばトップランカーというものだ。その俺でもこの有様だ。自惚れしているわけではないがお前らでは勝てないと思うぞ」
「俺はシューディー・マカロフだ。メイ、俺達もそれなりの力を持っているがそれでもなのか? 一体どんな魔物がいるんだ?」
トップランカーにこうも言わせる魔物とは一体何なのだろうかと恐る恐る聞いてみた。
「俺は27階層まで登ったが、一体倒すのもやっとな状況だったから安全マージンを取るためにこの上、19階層まで下がったんだ」
随分と下がったなとマカロフは思ったがその理由は続くメイザーの言葉からハッキリする。
「お前たちも気づいてるだろうがこのダンジョンでは骨系魔物とゴブリンやスライムを始めとする一般的には雑魚魔物と言われている魔物達とで交互に出てきている。次の階層ではどこかの階層にも居た爆発するスライムが出てきてるんだ。あいつらはレベル上げには効率がいい。遠くからナイフを投げれば勝手に自爆する。そうすればどんどんレベルが上がる。そうやっていたんだ」
あのスライムにそんな用途があったとは知らなかった。
これでマカロフ達のレベル上げが数段と効率が良くなるだろう。
「しかしある時スライムじゃない何かに襲われたんだ。俺も姿を見ようとしたんだが捉えきれなかった。レベルは100に到達しているから目で追えない魔物なんてそうそういるとは思いたくない。それにこのダンジョンのルールを考えるとスライム以外は居ない」
「つまりメイはこう言いたいのか。”人に襲われた”と」
そうだ、とメイザーは頷く。
レベルが100もあるメイザーでも捉えきれない速度で動くようなバケモノをマカロフは1人知っていた。
しかし、あの男が無闇に人に危害を加えるとはマカロフにはどうしても思えなかった。
それでは何故か。
それに前から気になってはいたがあの爆発するスライムは見たことも聞いたこともない。
進化したと言われればそうなのかと割り切れてしまうが、どうにもそんな簡単な話には思えなかった。
「そうか、わかった。やめておくよ。俺の思い当たっている人物ならここで戦うのは得策ではないしな。それに怪我をしているメイを放っておくなんてできないからな」
マカロフはメイザーの腕を自分の肩に回してダンジョンを降りていった。
帰り道はビビアンとネビアにどうにかしてもらったので比較的安全だった。
メイザーは喋るネビアをみてもそこまで驚いていなかった。
ダンジョンを降りたマカロフ達は宿屋に戻り、改めて自己紹介をすることにした。
「んじゃ俺から。俺はシューディー・マカロフ。使ってる武器は長剣。得意な魔法系統は[雷]だ。好きな食べ物はパンで嫌いな食べ物はピーマン。歳は16だ」
「次はみゃーみゃ! みゃーはネビア。魔法しか使えないみゃけど強いのみゃよ!! 得意系統は[闇]みゃ。えーと、好きな食べ物はしゃかな!! 嫌いな食べ物は脂っこい物ミャ。歳はないのみゃ!」
「次は私ですね。私はゲルリア・ラン・ビビアンですわ。一応ゲルリア王国の王女をやっておりますが、私の夫であるマカロフ様に着いてここまで来てしまいましたわ。剣は短剣を使いますが、どちらかというと魔法のほうが得意ですわね。得意系統は[水]。好きな食べ物は果物全般ですわ。嫌いな食べ物は特にありません。歳は15ですわ」
ビビアンが王女という所にもメイは驚いていたが、マカロフが夫という所を聞いた時はそれ以上に驚いてマカロフの方に疑いの目を向けていた。
「まあ、なんだ、王が勝手にな。うん。俺の意思じゃないぞ!?」
「そ、そうなのか。じゃあ次は俺だな。俺の名前はガリス・メイザー。俺の愛用してる武器はマカロフと同じで長剣だ。お前らと違って魔法は使えないが剣の腕なら誰にも負けない自信がある。好きな食べ物はな、肉若しくは女だ。ビビアンはまだ若いから俺の攻略対象じゃねぇから安心しな。嫌いな食べ物は野菜と、ケチクセェ女だ。これからもよろしくな!」
メイの自己紹介を聞いてマカロフは思った。
(あ、これアカンやつ)
好きな食べ物で肉と女を並べるなんて相当危ない奴だ。
ビビアンがもう少し大人だったら今ここはどうなっていただろうかと思うと寒気がした。
「ん? これからもよろしくって?」
「お前らの力気に入ったからよ、一緒に旅することにした」
そのメイザーの言葉を聞いて3人とも意味がわからないと言った顔をする。
「あぁ、スマンスマン。お前らにはわからんだろうがな、あのダンジョンであそこまで行くには俺並みのレベルじゃねぇと無理なんだな。俺はガキの頃から魔物を斬りまくってたからレベルが高いがな、他の奴らはそうもいかねぇ。それにお前らはレベルが50未満だそうじゃねえか。何かがあるとみてお前らについてくことにした」
「何かあるってもなぁ......。それよか俺等はいろんな国に渡るけどいいのか? それに、バカみたいに強い奴とも戦わなければなんない。それこそメイがダンジョンで襲われたような奴に」
マカロフとしてもこんなにも強い仲間がいるのはとても嬉しいが、国から国へ渡る上に、メイザーがダンジョンで襲われたバケモノとも戦わねばならない。そのことはしっかりと話してからでないといけない。
「あぁ、そのことなら大丈夫だ。俺には親はいない。俺がガキンチョの頃託児所の前に捨てられててな、それで親の顔も知らなければ家も何も知らない。そんで、強い奴と戦えるなら余計についていくぜ。俺よりも強い相手を斬るのが俺の生きてる意味みたいなもんだからな」
マカロフは申し訳ないことを聞いてしまったと思ったが、当人は気にしていない様子だったのであえて何も言わず、「よろしくな」とだけ言って手を握った。
ネビアはというと、また1人戦闘狂が増えたことに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「よぉーし! 今日は俺の歓迎会だーー!! 飲むぞー!」
「や、俺ら飲めねぇから」
また1人、賑やかな仲間が増えたのだった。




