ーー12話【ビビアンの成長】ーー
「んん......、今何時ぐらいだ?」
ダンジョンの中には外の光は射さないため、今が何時頃かは体内時計や、その方面の魔導器が必要だった。
しかしマカロフはそんな魔導器は買っていなかったため今が何時かわからなかった。
「大体6時間くらい寝てたかみゃ」
マカロフがもそもそと起きたのでネビアを起こしてしまったらしく、ネビアがそう答えた。
「結構寝たのな......てか、ビビアンはこれでも起きないのかよ」
ビビアンは最初に寝たはずなのに起きるのは最後とは。とんだ眠り姫だ。
「それにしても、ほんとに生きてるな......」
ネビアの魔法を信じていなかったわけではなかったが、術者であるネビアも眠ってしまっていたので、それでよくもと思っていた。
「んん、もう朝ですの?」
「ああ、おはよう。お姫様」
自分が生きていることに嬉しがっていたらビビアンが起きたようだ。
「ふぁぁ......お姫様だなんて恥ずかしいですわ」
マカロフは嫌味のつもりで言ったのだがビビアンは素直に捉えていた。
それにこのままだとまた結婚云々を言われてしまうと本能的に察知したマカロフは話題を変えることにした。
「あーと、今日はどのへんまで登る? 敵も強くなってきてるからそんなにズカズカ進むとビビアンが辛くなるだろうしビビアンのレベル上でもするか?」
実際にこの階層でもビビアンは後衛に徹していた。
ビビアンの魔法では敵を倒すためには結構な時間を必要とするし、それまでにビビアンが敵の攻撃に耐えられるとは思えなかったのでしょうがなく後衛をしてもらっていた。
この世界ではパーティーを組んでいるとパーティーメンバーに経験値が均等に入る。勿論戦闘に多く貢献すると何もしていないよりかは多少余分に貰える。
それによってビビアンはすこしずつではあるがレベルが上がっていた。
「私的には上の階層で強い魔物を倒して一気にレベルを上げたいのですが......無理ですわよね?」
出来ないことはないがそれには相当なリスクが伴う。
ビビアンを護りながら動くとなるとそれなりに行動の制限がかかるし、あまり長時間離れることも良しとしないので、強敵にあたっても瞬殺する必要がでてくる。流石のマカロフでもそんなのは無理だったのでその案は却下だった。
「ちまちま上げてこうぜ、こういうのは積み重ねが大事だ。冒険者ってのはレベルや武器も大事だが、なによりも経験が大事なんだよ」
「そうですわね、ならサクサクあげちゃいましょう」
少し無謀とも捉えられたが、この階層でビビアンを前衛に立たせて行動することにした。
ビビアンが危険になればマカロフ達は即座に助けるつもりだ。
「この階層のスケルトンナイトは長剣使いだが、短剣使いのビビアンでも充分勝機はある。あいつらの攻撃はいちいち大振りなんだ。攻撃の隙をついてちまちまやるのも良し、魔法を使ってちまちまやるのも良し。だな。なんにせよ急いで倒そうなんて思わなくてもいいからな」
ビビアンは大きく頷くと目の前に現れたスケルトンナイトをキッと睨み、相手の出方を伺う。
スケルトンナイトが先に攻撃を仕掛けてくるが動きが大きくて簡単に躱せる。
ビビアンは簡単に躱したが、スケルトンナイトの動きはそれなりに速く、中級冒険者では躱せるかどうかと言ったところだ。
ビビアンはマカロフにある程度指南を受けていたためそこらへんの冒険者よりは全然マシに戦える。
ビビアンは相手の攻撃を躱した後、スケルトンナイトの背中を十字に斬る。
しかしビビアンの武器は短剣だ。ダメージがそこまで高いわけではないのであまり効いている様子もない。
けれどビビアンは落ち着いていた。
ビビアンは武器の特性はしっかり把握している。
短剣は攻撃力が低いために手数を増やした剣である。
一撃は軽くてもそれが蓄積すれば大きなダメージとなってくる。
だからビビアンは効いている様子がなくても、黙々とスケルトンナイトの体に刀傷を増やしていく。
ビビアンの攻撃が10回ほどに及んだ時に、スケルトンナイトの動きがよろめき、膝がつきそうになったとき
「いまだ! ありったけ叩きこめ!」
ここぞとばかりにマカロフは叫ぶ。
それにビビアンは何も言わずに、目で応える。
ビビアンの攻撃が頭や胸を中心にスケルトンナイトを襲う。
その攻撃速度はかなり速い。
マカロフでも一撃一撃の軌道を目で捉えきることはできなかった。
まるで光の如く速く、華のように可憐なその姿は幻想的であった。
ビビアンの何度目かの攻撃が止んだ時にはスケルトンナイトはもうピクリとも動かなくなっていた。
「やりましたわっ!!」
「よくやったなビビアン。お前が成長している証だ。誇っていいぞ、こいつらは正直かなり強いからな」
このダンジョン基準。マカロフ基準などで考えるとこの魔物は弱い。
だが、一般的な基準で考えるとこの魔物はかなり強いだろう。それをビビアンは1人で倒したのだ。
なぜなマカロフまでとても誇らしい気持ちでいた。
その後ビビアンはどうやったらもっと速く、的確に倒せるかと奮闘していた。
数時間後にはスケルトンナイトを1人で瞬殺できるほどになっていた。
レベルもそうだが技術面での成長が大きいだろう。
(階層主も任せられるかな)
マカロフはビビアンに階層主を倒してもらおうと思っていた。
もちろんバックアップはするつもりだが、今のビビアンなら階層主くらい倒せると思っていた。
「なぁビビアン、今度はお前1人で階層主をやってみないか?」
それを聞いたビビアンは最初こそ驚いていたが、段々と表情は緩やかになり
「いいんですの!? ふふ、楽しみですわ」
また1人、戦闘狂が増えてしまった。
「次はみゃーかと思うと気が気でないみゃ......」
流れ的に次に戦闘狂になるのは自分だろうと思ったネビアはかなり震えていた。
そんなことを露知らず、戦闘狂2人は階層主の扉の前まで来ていた。
「おっし、開けるぞー!」
「ワクワク......楽しみですわ!」
2人揃って扉を勢い良く開けるとそこには馬のような生き物に乗ったスケルトンナイトがいた。
「やっぱ1人でっての嘘だわ。あれはビビアン1人の手に負えるやつじゃない」
マカロフは階層主の放つ異様なオーラを感じ、ビビアンを下がらせる。
「わかりましたわ。理由はわかりませんがなにかあの魔物から感じるんですのね」
ビビアンもはっきりとわかっているわけではないがマカロフの声や表情から嫌がらせや冗談の類ではないことを察して指示に従う。
マカロフはまずあの馬のような生き物を仕留めようと思い、[土]で前脚の部分を隆起させ、それと同時に[雷]で腹部を攻撃する。
そして、更に同時に[火]で魔物の周囲を囲み、一気に幅を狭める。
それにより馬のような生き物は倒れたが、上のスケルトンナイトはなんとか立っていた。
そこに追い打ちとばかりにビビアンが[水]の針を散弾銃のように放ち、体を貫く。
するとスケルトンナイトは呆気無く倒れてしまった。
「あれ? 思い過ごしだったか?」
一瞬本気で思い過ごしかとも思ったが、それではあのオーラの説明がつかない。
何だったのだろうかと思っていたが、不意に隣から聞こえる叫び声に思考を中断させられる。
「あぁぁーーーーー!!!!」
「うわっ、どうしたどうした?」
ビビアンの方を見ると、震わせながらもある1点を指差していた。
その先を見ると1人の男が階段の近くで倒れていた。




