ーー10話【悪辣なるダンジョン】ーー
マカロフ達は軽く絶望しつつも階段を登っていた。
「なぁ、あんな風に人を絶望のどん底に落とす奴ってどんな奴なのかな。まさかトップランカー達がやったとかじゃないよな......」
マカロフの声には殺気が込められていた。
「ま、まさかそんな......でもやりそうですわね。どんな人達かは知りませんが自分達がもっと上に行けるのをいいことにこの階層でようやくな冒険者に向けての嫌がらせとも考えられますわ......」
ビビアンまでもが少し顔を引きつらせながら思案していた。
それほどにあの宝箱は効いたのであった。
「まあいい。トップランカーに追いついたら聞いてみよう。返答次第で対応を変えるがな......」
「マカロフ、流石にそれは駄目みゃ。そんなことをしたらマカロフも死んでしまうのみゃ......」
ネビアはもう誰にも死なれたくないというふうに必死にマカロフの犯そうとしていることを止めようとする。しかしネビアが思っていたようなことをマカロフは考えておらず
「へ? ただどんなものが入ってたか見せてもらって、良いのだったら脇コチョの刑に処するつもりだっただけだぞ?」
「な、なんみゃ、それならそうと早く言うのみゃ」
「確かに今のマカロフ様なら殺りかねない発言でしたものね。私もヒヤッとしましたわ」
2人してマカロフがトップランカー達をその手にかけようとしていたと勘違いしていたらしかった。
「なんの話だよ。ま、いいや。次の階層もサクッと終わらすぞー」
「1階がゴブリンでしたし、次はホーンラビットあたりですかね」
ホーンラビットもゴブリンと強さはそんなに変わらないが、動きの速さは断然ホーンラビットのほうが速いため、死傷者はゴブリンの比ではない。
「もしそうだったら今回もスルーするぞ? てかもしそうだったらダンジョンから出てくかもしれん」
マカロフはビクビクしながら最後の階段を登り切る。
するとそこにはマカロフの危惧していたような魔物はおらず......
「なぁ、このダンジョンってどういう仕組みしてんの? 俺達じゃなきゃ多分帰って2度と来ないぞ」
2階層で待ち構えていた魔物はホーンラビットなどの易しい魔物ではなく、スカルクラブだった。
スカルクラブとは、その名の通り骨だけの蟹だ。
スカルクラブの繰り出す攻撃は威力が高く、それに防御力も高いためとても厄介だ。
普段この魔物は沼地にしか生息しないため、進んで遭遇しようとしない限りは遭遇することはない。
そして、この魔物はゴブリンなんかとは比べ物にはならない強さなのだ。
それこそゴブリンを1とするとスカルクラブは1000程の強さである。
「なんとなくここのダンジョンがあまり制覇されていない理由がわかった気がしますわ......では今のトップランカーはどれだけの強さを秘めてるんですの?」
「たしかにこの調子で上がられると27階層なんてとんでもないバケモンばっかなんじゃねぇか?」
マカロフの声はやや興奮気味だった。
たしかに捉え方によっては絶望的かもしれない。
だが、レベルを早く上げるためにはそれなりに強い魔物達を倒さなければならない。
1階層の様子でやや期待外れだと思っていたマカロフは、予想外の展開に嬉しく思っていた。
「おーし! 隅々まで探索すっぞー」
マカロフは意気揚々とスカルクラブを倒していった。
「えらいテンションの変わりようみゃね」
「さっきまで絶望してた人とは思えませんわね」
マカロフの声はテンションの変わりようには流石の2人も少し引いていた。
そして30分ほどするとマカロフは
「もう飽きた......魔法はあんまり効かないし、剣で斬るにしても楽しさがないし......いや、いいんだよ!? 簡単に倒せるってことはすごくいい。いいけどさ、なんかね、もういいよ......階層主倒そか」
マカロフはあまり乗り気ではなかった
前の階はゴブリン達が大量に詰まっていて、それで階層主というではないか。
では今回もそうなのだろうなと薄っすらとマカロフは勘付いていた。
そしてマカロフがやる気なく扉を開けると中には、それまで見てきたスカルクラブよりも何回りも大きいスカルクラブがいた。
「キタキタ! こういうのだよ、そう、こういうのに、悪戦苦闘しながらもなんとか倒して、それで宝を開けて伝説の剣を......夢が膨らむぅ!!」
スカルクラブはスカルクラブなんだが、他とはサイズが違うため、特別なのだろうとマカロフは思い、ここは敢えてあまり効かなかった魔法戦でいこうと考えた。
最初に、スカルクラブのハサミが邪魔なのでそれからどうにかしようと思ったマカロフは、[雷]で大きな槍を作り、それを投げ飛ばす。
槍の速度は速いが逃げられない速度ではないため[土]でスカルクラブの脚の周りを囲む。
それと同時にもう一方のハサミに向かって[火]で作った弓矢を放つ。
槍が先に当たるがやはり大したダメージは入っていないようだ。
その後に矢も当たるが槍と同じだ。
「んんー、こういう敵に魔法で勝てるようにならないとなぁ」
マカロフは敵をよく観察した。
ドラゴンの時は機動力を落とすために翼を攻撃したが、翼はあまり防御力は高くなかった。
それを思い出したマカロフはスカルクラブにもドラゴンの翼と同じような箇所はないかと探すもそれらしき場所はない。
「もうあれしかないよな......」
マカロフはアウスエルンの洞窟前で不発に終わったあの技を使うことにした。
あの技とは、[水]で作った球のなかに魔物を閉じ込めるあれだ。
あの時は敵の魔物が魔法を使えたことで不発になってしまったが、普通の魔物相手だ、効かないわけがない。
そう思って球のなかに閉じ込めること数分。
「お、ブクブクなってるぞ。効いてる効いてる♪」
自分の作戦が成功したことでマカロフは上機嫌だった。というかその前からも上機嫌だったのである。
「マカロフって戦いになるとテンションがおかしくなるみゃ。戦闘狂みゃよ」
「たしかに強い敵と戦うときはいつも楽しそうですわよね......」
ここでもまた2人からは少し引かれていたマカロフだったが、階層主を倒すとまたもや宝箱を発見したようで、「おーい」と2人を呼んでいた。
「今回は前回のこともあったしあんまり期待はしてないからな? ほんとだぞ?」
今回も少し埋まっていたものの前回のこともあったのであまり期待はしていないと自称するマカロフはゆっくりと宝箱を開けた。
そこには...........何もなかった。
「う、うん。まあ備えてたから、ダメージはそんなになかったかな?」
「ここまで来ると悪辣みゃね」
「性格が相当歪んでますわね」
マカロフ達はレベル上げとは別に、この【宝箱トラップ】を仕掛けた人物を探すという目的も密かに、各々の心の中で出来ていた。




