ーー6話【ピンチ】ーー
マカロフ達は洞窟の中へ入っていた。
「薄暗くて気味悪いな」
洞窟内は薄暗く、生温かな風が何故か奥から吹いてくる。
それに、その風もどこか生臭い。
「魔物が尋常じゃないほどいるみゃ......フード男もここに居ると思うからあんまり魔法は使えないみゃよ」
マカロフ達は洞窟内へ入る前に少し休憩したから魔力はほんの少しだが回復していた。
だが、それでも残る魔物との戦闘を考えると足らなくなってしまうかも知れない。
とはいえ剣だけで戦うのにも限度がある。
どうしたものか。
「いい方法ねぇのかな......魔力をあんま使わず多数の敵を倒せる何かが......」
マカロフはしばらく考えるが閃かなかった。
いくつかアイデアは浮かんだがそのいずれも何かしら欠点があったため没とした。
「マカロフはちょっとやそっとで死なないんだから大丈夫みゃ!」
先程の魔物たちと同じくらいであれば魔法をいくら食らってもそこまで大した事にはならないだろう。
だが痛みはあるのでそれに耐えられるかと聞かれれば答えはノーだ。
しかしマカロフにはゴリ押しするという選択肢以外なかった。
これからの戦い方を決めるとネビアが
「前方に広い空間、そこに恐らく残存兵が集結してるみゃ。ここでみゃーたちを食い止める気みゃね」
敵は洞窟の前より少し少ないがかなりの数の魔物が居た。
およそ200といったところの敵に向かって剣だけで戦うのだと再確認すると乾いた笑い声が出た。
「はは......最悪死にそうだな......でもここで死ぬわけには行かねぇよな!」
マカロフには使命がある。
マカロフには個人的な気持ちでも成さねばならぬ理由がある。
マカロフには守りたい人達がたくさんいる。
それぞれ関係してる人物を脳裏で思い浮かべ、マカロフは静かに剣を抜き放つ。
「ネビアは魔力温存しなきゃだからここで待っててくれ。俺は......行ってくるよ」
そう言ってマカロフは魔物の群れに果敢に突っ込んでいった。
走ってくるマカロフに気づいた魔物達はそれぞれの戦闘態勢を取る。
魔法を放ってくるものも居れば剣や斧をマカロフに向かって振ってきた。
それをマカロフはなんとか躱す。
お返しにとマカロフが一太刀ずつ浴びせるとバタバタと倒れてゆく。
マカロフはそれを何度も繰り返していたが魔物たちは学習し、マカロフは疲れから動きが少しずつ鈍る。そういったものが合わさり、魔物たちの攻撃が徐々にだが当たるようになってきた。
「クソっ......痛えなぁ!! スライムよりも気色悪い図体してんのに攻撃力高いとかお前ら......黙って斬られろっ!」
だが、マカロフには痛みを感じている暇はなく、斬っても斬っても現れてくる魔物達を怒りの力で何とかしていた。
残り20体程となった頃だろうか、奥から他とは違うオーラを纏った魔物が現れた。
”ブラッディ・スカルナイト”
とても希少な魔物で、発見されるのは200年に1度居ればいいほうだという。それに、その戦闘力はとても高く、ドラゴンと並び立つ力の持ち主だ。
恐らくこいつも魔法を使えるようにドーピングされているのだろう。
「まだなんかあんのかよ......今のタイミングでフード男来たら負け確だな。ハハッ」
さすがのマカロフも痛みで色々な感覚が麻痺していた。
それにもう体はボロボロ。そんな時に他よりも強いのが現れたのだ。
だが、そんなマカロフの気持ちなど露知らず、ブラッディ・スカルナイトはマカロフへと迫る。
(速いっっ!!)
やはり他とは明らかに速度が違う。
マカロフがボロボロで動きが鈍っているとはいえかなりの速度だ。
ブラッディ・スカルナイトの繰り出す剣を紙一重で躱す。
ブラッディ・スカルナイトはマカロフの体の1.5倍はあろう長身から剣を振り下ろしたが、行動速度もそうだったが明らかにこいつは速すぎる。まるで重力を感じさせないかのように......
きっと何かがある。
恐らくその何かがブラッディ・スカルナイトを攻略するカギだ。
しかし敵はブラッディ・スカルナイトだけではなく他の魔物達もマカロフが攻撃を躱した後に休む間も与えず攻撃をしてくる。
マカロフもやむを得ず魔法を使おうとするがその隙がない。
「まじかよまじかよ......ほんとにこれはやばいぞ......」
これだけ強大な敵がいるのだ。この奥にはフード男が居るに違いない。
ネビアにはフード男の攻撃を止めてもらわねばならないためここで魔法を使わせるのは得策ではない。
だが、そんなことを言っていてはマカロフは負けてしまう。
(何か......何かして隙を作らなければ......)
そこでマカロフは思いついた。
相手を攻撃するための魔法を使う隙は無いが、”自分を守る”魔法なら使う隙ならあった。
ブラッディ・スカルナイトがまた距離を詰めて攻撃を繰り出す。が、それはマカロフの目の前で止まる。
そう、マカロフは[風]のフィールドを展開。それと同時に[雷]も展開していたがどうやらそっちは効いていなかったようだ。
「止まったなバカが!! この俺に、斬れねぇもんはねぇぇぇ!!!」
ブラッディ・スカルナイトの動きが止まるのを確認するとマカロフはブラッディ・スカルナイトの胴体を真っ二つにした。
(少し怖かったので頭も潰した)
ブラッディ・スカルナイトが倒れたことで周りの雑魚魔物たちも同じ目に合わせていく。
5分ほどすると周りはスッキリした。
「っはぁぁぁあ、今回はマジで死ぬかと思った。なんでこんなとこにブラッディ・スカルナイトなんて居るんだよ......飛んでたドラゴンよりやりやすかったけどさ」
マカロフはその場に大の字になって寝転がると早速愚痴をこぼしていた。
しばらく愚痴っていたマカロフはもう飽きたのか口を閉じて、天井もゆっくり見上げる。
「終わったんだな......」
ものすごい達成感を感じていたため全てを成し遂げたような感想をこぼした。
「まだなのみゃ、これからが本命みゃよ。それと、お疲れなのみゃ」
通路の方からネビアがてとてと歩いてきた。
「んなぁぁ、そうか、まだあるのか......もうちょい休みたいけどさすがにあんだけ暴れればバレてるよな?」
「まぁ、あんな魔物を用意してるくらいみゃ。このすぐ奥に何かある。もしくは居ると考えるのが妥当みゃね。安心してくれみゃ。ここからはみゃーが体を張るのみゃ!」
そういうとネビアは自分の胸をポンっ! と叩いた。
こんな状況なのに、いや、だからこそ和むなぁ。と思い最後の戦闘に向けて気持ちを切り替えるのだった。
「うし、行くか」
マカロフ達は洞窟の最奥へと歩く。
それまでの通路よりも心なしか温度が低く、ほんのりと妖しげな光が通路を照らしている。
しばらく歩くとマカロフ達は開けた場所に出た。
しかしそこは机や椅子などがあり、いままでの広場よりも半分以上狭く感じる。
2人で周りを見渡しているとどこからか声が聞こえた。
「やぁ、待っていたよ。マカロフ」
声のする方を見ると、そこにはフードを被った男が立っていた。




