ーー1話【船出】ーー
「おーいビビアン、あともう少しで船出ちまうから早く起きろよー。じゃないと置いてくぞー?」
マカロフは今、ビビアンを起こすためにマカロフの隣の部屋の前に立っていた。
ビビアンは初め、同じ部屋がいいと言ったが、「色々と問題があるのでしょうがない」「嫌なら置いてくぞ」と言ったら直ぐに従ってくれた。
しょうがないだろ色々と問題があんだよ! 色々とな......
「んー、マカロフ様ー、あと10分待ってくださいませー」
中からビビアンの声が聞こえた。
だがこのパターンはダメなやつだ。二度寝するやつだ。
「ダメだ。あと3分な。3分あれば着替えられるだろ。出来なきゃ置いてくぞー」
部屋の中でわんわん言ってたけれど3分経ったらきっちりとした格好をして出てきた。
うん。やれば出来るじゃんか。
「早速で悪いがもうそろそろ船が出る時間なんだ」
「私は準備出来てますわ!」
さすがだ。では行くか。
マカロフ達は船に無事乗ると、まずは荷物を客室へと置き、その後は食堂に行った。
「ビビアン、怒らずに聞いてくれるか? 多分ビビアンが思っていたのとは少し......だいぶ変わった料理になると思うがあまり文句を言わないでくれるか?」
「それなら大丈夫ですわ。普段口にすることの出来ない庶民の味を知ることも王族の勤めですわ。それに、私はあまり食にあまりうるさくありませんの。確かに美味しい物を頂けるのに越したことはありませんが、美味しくなくても美味しくないなりに楽しみはありますわ」
よかった。ビビアンの事だから美味しい物が食べたいって駄々をこねるかと思ってたけど、そんなことはなかった。
最近マカロフはビビアンに対しての考え方を少し変えていた。
最初会った時は厄介なだけの王女だと思っていたが、今では守ってやりたい。そう思えてきたのだ。
料理が一通り届き、2人で食べていたがあまりにも静かだったので気になっていた事を聞いてみることにしてみた。
「なぁビビアン、どこで俺のことを知ったんだ?」
大した功績をあげてなかったマカロフが王族に知られていたというのはとても不思議なことだったのだ。
「そうですね、初めにマカロフ様の名前を聞いたのはお父様の口からですわね。なんでも、お父様の知り合いの息子がナタリア騎士団員育成役に指導を受けてるんだー。会いたいなぁ。と言うのを聞いて、少し気になって調べてみたんですの。そしたらわずか二ヶ月で、村人であるにも関わらず二つ名を貰い、高難度の依頼を達成していたので少しずつ、知らない間に惹かれていたのですわね」
マカロフの父親と王様が知り合いだったというのに驚き、どれだけすごい冒険者だったのだろうかと再度興味を持ったが、ある言葉に引っかかった。
”会いたい”?
「なんかもう俺偉い奴の言うこと信じらんねぇかも知れねぇわ」
王は確かに言ったのだ。娘がどうしても会いたいと言うから。と。
まぁそれも本当の理由ではなかったのだがそれ以前に、自分のことは何も言わなかったというのが今回の肝だ。
いやまぁ確かに聞いてもなかったしどっちでもいい情報だけどさ、娘に濡れ衣着せるのはやめようぜ。
親子2人とも会いたかったですって言えよなぁ。
まあいいけどさ。
「それで、どうしてそんなことを聞いてきたんですの? 結婚します?」
「しねぇから、ぜってぇしねぇから。ほんとにマジで」
即答で断り、聞いた理由を答えようとするが、特になかったのでどうしようかと思ったがいい事を思いついた。
話題を変えよう。
「それよりビビアンは俺に聞きたいことないのか?」
するとビビアンは軽く咳払いをしてから
「そ、その中にいる猫ってなんですの?」
そういえばネビアを紹介してなかった。ここじゃまずいし場所を変えよう。
「えーっと、では紹介します。俺の仲間であり、相棒であり、パートナーであり、心の友? のネビアでーす」
「途中何個か意味被ってるみゃ。ネビアみゃ。よろしくみゃ」
なんか元気ない気がするな。
「どったの? 酔っ......わないか。マジどったの? 緊張してるとか?」
「実は酔ったんみゃ......」
マジか。こんなに大きな船で酔えるんだな。
「どうする? 泳いでいくか? がんばれ! 1週間後に会おうな!」
あまりにもナチュラルなマカロフの提案にネビアは
「アホかみゃ! この【魔の海域】を泳ぐなんて無理なのみゃ!!」
まぁ知ってた。
となるとどうしようか
「大丈夫みゃ。[水]魔法をかけてればなんとかなるみゃ」
すると、ずっと黙っていたビビアンが
「あの、私の得意魔法が[水]魔法何ですけども、何かできることはありますか?」
とはいえマカロフ達の魔法適性と魔力量はアホみたいな量なので正直手助けはいらない。
「って言ってるけどどうすんだ?」
マカロフがネビアに聞いてみた。
するとネビアはてくてく歩いて行くと
「みゃーたちはもう仲間みゃ。仲間は助け合うものみゃ」
ネビアのように好意的に接しようとマカロフは思ったのだった。




