ーー5話【緊急任務】ーー
マカロフ達が王都へ戻ると、なんだか冒険者達が何人も街の外へと走って行ってるのを見かけた。
流石にタダ事ではないなと思い、一人の冒険者に何があったのか聞いてみると
「大変なんだ、街の外にワイバーンが現れやがったんだ。あいつらが来るにはまだ早いはずだが......」
ワイバーンは普通、冬になると食糧を求めて人の多くいるところ(主に王都などの主要都市)へと現れるのだが、今の季節は初夏だ。
ワイバーンが来るには確かにあまりにも早すぎる。
ワイバーンが来る時期にはワイバーン殲滅用部隊が駐留しているが、今は時期外れなため居なく、街の冒険者だけでどうにかするしかないのだ。
これも女神の言っていた魔物騒動と関連しているのだろうか......?
マカロフは、事情を知らせてくれた冒険者と一緒に、ワイバーンの現れたという場所に連れて行ってもらった。
ワイバーンは飛行型の魔物なので、地上付近へ攻撃しに来たワイバーンを前衛の剣士が迎え撃って、後衛に居る魔法使いが[雷]魔法を使って撃ち落とすか仕留めるかをするのがセオリーなんだが、街の魔法使いは今ちょうどほとんど居なく、剣士たちだけでどうにかしている状況だったが、それもいつまで続くかわからない。
ワイバーンの数は全部で5体。
これならマカロフでも何とかなりそうだ。
「みんな! 俺が削っていくからそのアシスト任せるぞ!」
そう言い放ち、マカロフは近くにいたワイバーンの真下へと走り、そこでワイバーンの両翼に[風]魔法を使いバランスを崩し、[雷]魔法で右翼を貫く。
よろめいたワイバーンを[風]魔法で跳躍力を上げたマカロフが叩き斬る。
まずは1体。この調子なら何とかなりそうだ。
だが、その予想は大きく外れた。
「お、おい、ドラゴンが来たぞぉぉ!!!!」
一人の冒険者が空に向かって叫び、逃げ出していた。
「ドラゴンなんて流石に無理だ......お、俺は知らねぇ。こんなとこで死にたくねぇぇ!!」
「あんなのの相手なんて出来るわけねぇよ。割に合わねぇ。生命あっての報酬だ!!」
その場に居合わせた冒険者達は口々にそう叫び、一目散に逃げてしまった。
「ネビア起きてるか? 予定がだいぶ狂ったんで力を貸して欲しいんだが」
ワイバーンだけなら良い空中戦の練習相手になると思っていたが、ドラゴンが来てはそうも言ってられない。
ネビアの力を貸してもらうとして、ドラゴンにどう立ち向かうかマカロフは決めあぐねていた。
ドラゴンはいままで戦ってきたどの魔物よりも総合的にランクが上なのだ。
硬い鱗にとても速い飛行速度。加えて火炎のブレスに、牙での攻撃。
とてもではないがまともに戦っていたらジリ貧だ。
マカロフとしてもあまり使いたくなかったが、マカロフの現時点での最高火力の魔法を放つしか無いようだ。
基本の要領は先のワイバーン戦と同じだ。
ワイバーンの時よりも強く[風]魔法を使って、今度は両翼ではなく片翼だけに集中する。
そうすることでバランスを崩すことを可能とする。
そして、ドラゴンがよろめいている隙に今度は[光]魔法を使う。
限界までに小さくした[光]をドラゴンの翼の付け根に向かって放つ。
それはドラゴンの翼でさえもいとも簡単に貫いた。
しかしこの魔法は消費魔力が高く、マカロフとしてあまり使いたくなかった魔法だったが、今は出し惜しみなどしていられない。
ドラゴンは、片翼を撃ちぬかれたにも関わらずまだ飛び続けている。
ワイバーンのように飛び乗って攻撃することも考えたが、今のドラゴンにはまだそれはできそうになかった。
「中々しぶとい......けども大丈夫。ネビア! 今だ!!」
そう、マカロフの攻撃はあくまで揺動。
ネビアが高威力の魔法を練るための時間稼ぎでしかなかったのだ。
「それじゃぁいくみゃよーー!!!」
ネビアの得意魔法である[闇]魔法で作り上げられた漆黒の太陽がドラゴンへと迫る。
それに対して流石のドラゴンも危険を感じたのか、力を振り絞って逃げようとする。このままでは逃げられてしまうが、マカロフはそれを逃がすほど甘い男ではない。
「んじゃあ俺もカッコイイとこ見せますかぁぁ!!」
マカロフは、先程の[光]魔法に[雷]と[火]を混ぜた魔法を放つ。
それは真っ直ぐにさっき撃ち抜いたのとは逆の翼へ飛んでいく。
当然それは威力が前より上がっており、悠々と翼を撃ち抜く。
ドラゴンはまたもよろめいてしまい、ネビアの漆黒の太陽の餌食となった。
「なんとか......倒せたか......」
マカロフは、今あるありったけの魔力を込めて攻撃したためかなり疲れていた。
「みゃーも......疲れた......みゃ」
もちろんそれはネビアも同じで二人とも疲れてその場に倒れ込んでしまった。
だが、二人は大事な事を忘れていたのを、空を見上げた時に思い出す。
「「あっ......」」
二人が見上げた先には、まだ4体のワイバーンが空を飛んでいた。
二人にはもう魔力はほとんど残っておらず、対抗する手段がなかったため、絶体絶命かと思われたその時。
「マカロフ!! 無事か!?」
聞いたことのある声が遠くから聞こえた。
それは次第に近づき、マカロフのすぐ横まで来ていた。
「大丈夫か!? マカロフ、僕だよ、サリーだよ。遅くなってすまない」
そう、それはマカロフの師である爽やかイケメン変態の声だった。
なんでもサリーは、最近巷でワルさをしていた盗賊団のアジトを見つけたので、ナタリア騎士団総動員で殲滅にかかっていたそうだ。
それで帰ってきたらドラゴンが現れたと逃げてきた冒険者から聞いてすぐに飛んで来たらしい。
「ほんとお前おせぇよ。まぁいい、そこにいるワイバーン倒しといてくれ。俺らはもう魔力がないから戦えねぇや」
顎で飛んでるワイバーンを指し、残りの分は任せることにした。
「あぁ、もちろんいいが......ドラゴンは君等だけで倒したのかい?」
戸惑いを隠せない様子でサリーは聞いてきた。
「ったりめぇだろ。ここに居た冒険者たちはドラゴン見たらすぐにどっか消えちまったよ。そのお陰でどんだけ疲れたと思ってんだよ......」
ドラゴンを倒すのに疲れた。そんなとぼけた感想を言えるのはこの男だけだろうなとサリーは苦笑いをしていた。
「それでは君達はゆっくりと休んでいてくれ。仕事をしないと上司に叱られてしまうのでね」
サリーが剣を抜いて、風のように去り、単身でワイバーンを斬り伏せているのをマカロフは、薄れつつある意識の中見ていた。
「あいつだけでドラゴン倒せそうだよな......」
それを最後に意識が途切れた。
目覚めたマカロフの視線の先には見知らぬ天井があった。
「どこだここ」
独り言のつもりで呟いたのだが、そばにいた”女性”には自分に発せられた質問だと思い
「ここは王城の医務室ですわ。マカロフ殿」
お淑やかさの中にわんぱくさを見え隠れさせるような声が聞こえた。
その先を見てみると、そこには翡翠色の髪の毛を肩まで垂らし、ピンクと白を基調としたフリフリのワンピースを着た美少女がいた。
「美少女......? 夢?」
あまりにも幻想的だったので夢だと疑ってしまう。
それほどまでに彼女の顔は整っていた。
「ふふっ、御冗談がお上手ですこと。残念ながら夢ではございませんよ。現実です。貴方はドラゴンを倒したあとに意識を失ってしまわれたのです。そしたらお父上様がその功績を讃えたいので是非とも城に招けと仰ったのでこちらで看病をさせていただきました」
そうか、ドラゴンを倒した後に俺も倒れたのか。そうマカロフは思っていたがふと思う。
父上が城に招け?
それってもしかして......
「なぁ......いや、あの。もしかして貴女は国王の御息女であらせられる御方ですか?」
「えぇ、そうよ。私はゲルリア国王第一王女 ゲルリア・ラン・ビビアンよ。ビビアンって呼んでいただいて結構ですわ。というかそうやって呼んでほしいぃーー!! もう私疲れたよー、マカロフ様が来るって言うから私が看病を引き受けたのにボロンチ大臣ったら言葉使いを気をつけなければダメだとか言ってきてさー、そんなの別にいいよねー?」
色々とショッキングな事実を聞いて(知って)しまった......
この娘、ビビアンは王女様で、歳は多分同じくらいだろう。喋り方がものすごく子供っぽいけど......
それにしてもさっきまでとのギャップが凄すぎる。
さっきまでは物凄く気品を感じたけれど今ではそんなもの欠片もない。
「えと、ビビアン? いいのかな? そこに多分ボロンチ大臣っぽい人居るけど......」
マカロフが色々と情報を整理している間もビビアンはボロンチ大臣の悪口をさんざっぱら言っていた。それも結構大きな声で。
それで恐らく外に待機していたであろうボロンチ大臣はビビアンの暴走を止めに来たのだ。
「申し訳ありません、マカロフ殿。ビビアン様は大人しくしろと言っても従わない型破りな御方でして......」
型破りっていう括りでいいのかそれ。
マカロフは微妙な笑みをボロンチ大臣に向けてから、ビビアンを見て言った
「王女様にこんな風に接して頂けるなんて感謝の言葉もありません。我が身を案じての事だったのでしょう。その懐の深さに私は感服する限りです」
なんとなく可哀想だったから庇ってあげると
「いやいや? ただマカロフ様のことが興味あったからだよー? そんな深い考えできるわけ無いじゃんー」
(こいつ......俺の作戦を無駄にしやがったな......)
何か一言言ってやろうと思ったがビビアンのキラキラした目を見たら言う気も失せた。
「えと、ボロンチ大臣、王様が話をしたいというのはほんとですか?」
「えぇ、たいそう貴方を気に入っているみたいでしたよ。そこの、ビビアン様には負けますがな。フォッフォッフォ」
この爺さんえらく元気だな。
それにしても王様直々に話か......ドラゴンのことだろう。
(気を引き締めて行くとするか)
マカロフはボロンチ大臣に、王様の元へ連れて行ってもらった。




