ーー1話【実戦】ーー
マカロフは、この二週間、ドボイに言われたメニューを毎日こなしていた。
腕立て5000回
腹筋2000回
スクワット5000回
懸垂3000回
素振り10000回
回数を見ればアホのように見えるだろう。
実際アホみたいに疲れる。
最初やった次の日なんて筋肉痛でベッドから出られなかったものだ。
だが、効果はあるようで、今までよりも体運びが軽くなり、剣の素振りも楽になった。
それに、力がついたことにより、素振りの速度も早くなり、今ではドボイのメニューより余分に10000回振っているほどだ。
ネビアは、マカロフが特訓しているときは大抵魔法の練習をしている。
マカロフも夜になると魔法を練習してるが、今は剣の練習ばかりであまり長時間は出来ていない。
そろそろ素振りを終わろうかとドボイに貰った木剣の手入れをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞー」
部屋に入って来たのはドボイだった。
ドボイは部屋に入るなりマカロフの身体を触り
「うん、良い具合に育ってきてるな!」
と言ってきた。
ドボイに「なんかようか?」と聞いたら
「お前がサボってないか見に来たのと、明日お前暇か? そろそろ腕を試したくなった頃だろ」
今の自分があれからどれだけ力をつけたのか気になっていたところだ。
「あぁ、いいけど、またサリーか? 悪いがまだあいつとやるには勝てるイメージが足りねぇ。つか、攻撃が当たんねぇよ」
「はっはっはっ! そりゃそうだ! いくら特訓しても実戦経験豊富のサリーに勝つにはお前はまだ浅い。そこで、だ。明日は魔物と戦ってもらうことにした。魔物は動きは単調だが、今までよりは良い特訓相手になるだろう」
魔物と戦うということは、動く相手を斬る。
命の危険がある。
そして何よりも、レベルが上がるということだ。
マカロフは不死の力でレベルは上がりにくくなっている。
それでも上がらないわけではない。
(明日が楽しみだ!)
「なぁ、おっさん。俺、魔法もちょっと使えるんだけど、魔物と戦う時って剣だけか? 魔法もぼちぼち使っていきたいんだが......」
するとドボイは驚いた顔で
「お前、魔法も使えるのか!? 役職は確か村人だろう? さすがあいつの息子だ......よし、使ってもいいぞ。だが、基本は剣で倒せ。いいな?」
「もちろんだ! 俺の鍛え上げた肉体で魔物なんかズッタバッタ斬り伏せてやる!」
「いい意気だ! そうそう、明日までに倒したい魔物とその依頼があれば受けておけよ? 金はいくらあっても足らんからな!」
最近は宿に篭っていたから食費(パン代)だけで済んだがこれからは武器のメンテもするだろうし、消耗品なども欲しくなってくるだろうから金は欲しかった。
それなりに難易度の高いやつを受ければ稼げるだろう。
依頼板の前までやってきたが、難易度は星で表されていた。
今ある最高難度は星4つでジャイアントオーガの群れの討伐だ。
ジャイアントオーガがどれほどのものかはわからないが名前的にデカそうだし、それの群れとなるとかなり怖そう。なので却下。
となると星2つ程のものが良いかなと探していたら懐かしい名前があったのでそれにした。
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翌朝
「おう! マカロフ、何討伐するか決めたか?」
「あぁ、これなら俺でも討伐できる。それに一度やり合ったことがあるから成長を感じられると思うしな」
ドボイは「どれどれ」と言って依頼の紙をマカロフから奪うと
「ほぉ、お前こんなんとやり合ったことがあんのかよ、おもしれぇやつだな」
そう、マカロフが特訓相手に選んだのはグレートウルフだ。
グレートウルフなら昔マリアンに言われて倒してきたこともある。
あの時は遠くから石を投げたり、仕掛けておいた落とし穴にハメたり、と色々工夫をしてやっと倒したが、今のマカロフは正面から向かい合って勝てるだけの力があるはず。
そう思ってグレートウルフを選んだのだ。
「それじゃ、早速行くか。俺はお前が死なないように付いて行ってやるよ」
ドボイのその申し出はとてもありがたかった。
確実に勝てるとわかっている相手ではないし、正面から戦うのは初めてだから緊張してうまく立ち回れない危険性もあった。
だが、ドボイが付いてくるなら最悪の事態は起こらないだろう。
「あんがと、おっさん」
だからマカロフは礼を言った。
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「確かこのへんのはず......お、いたいた」
街の東の森の中に入って数分後、1匹のグレートウルフを見つけた。
「んじゃ、倒してくるからおっさんは見てろよ?」
マカロフは背中から剣を抜くと勢い良く地面を蹴り、グレートウルフに向かって距離を詰めた。
グレートウルフは即座に反応し回避をとる。
「っち、奇襲失敗か」
一撃で仕留めようとしていたマカロフは舌打ちをするが、奇襲などしなくても今のマカロフは勝てる。
マカロフが相手の出方を伺っていると、グレートウルフがマカロフの周りを回りだした。
グレートウルフは脚が早いため回避速度や、攻撃速度が早い。
1度目を離したら即噛み殺されてしまうだろう。
「流石にこのままだと目が廻って気持ち悪くなりそ」
このままでは状況は悪くなる一方だと思ったマカロフはあえてよろめき、隙を作ってみせた。
すると、グレートウルフはまんまと引っ掛かり、マカロフの背後から首元へ噛み付こうとしてきた。
「キタキター!!」
グレートウルフは早い。が、攻撃する位置とタイミングがわかり、尚且つ相手が空中なら攻撃を当てるのは容易い。
マカロフの剣はグレートウルフの体を真っ二つに切り裂いた。
「ひぃ、目が廻って吐きそうだわ」
マカロフがすこしふらついていると観戦していたドボイが拍手をし
「うん、見事だ。相手の特性をはっきり理解し、自分でも倒せる方法を編み出した。文句なしの満点だ!」
ドボイから褒められたことで喜んでいると
「だが、あの作戦は少し危険だったぞ。もしグレートウルフが首を狙わなかったら? もしグレートウルフが正面から来たら? どうするつもりだったんだ」
確かにその可能性はあった。
だが、マカロフははっきりとその可能性を断言できた。
「んや、それは無いな。あいつらの特性は気付かれずに即殺すことだ。それらを考えるとあそこ以外無かった。もし他のところに攻撃してたらそれは目を見れば分かったしな」
その答えを聞いたドボイは意外だと言わんばかりに驚きの色を隠せなかった。
「そこまで考えていたとは......うん、見込んだ以上の才能だ!」
それから3体ほどグレートウルフを倒してから街へ戻った。
新章突入にあたり話数変更しました。以降の話も随時変更します。




