冷酷な魔女だって恋ぐらいする
「めぐ、今月号の異端狩り読んだ?」
放課後、帰ろうとしていたらクラスメイトで数少ない男友達のマサトが声をかけてきた。
「あ、うん……」
「黒瀬先輩と二人きりの部活中にくる指令!続き気になるよな!」
「あはは……マサト、恋愛要素好きだもんね」
「わかるか?めぐ、今日は異端狩りの二次小説書いてきたんだ。読んでみてくれ!」
わたしは興奮気味のマサトからノートを受け取って、開いた。
『魔女の休日』
今日もわたしは授業の後、文芸部の部室に行く。水曜日はわたしは昼までだから多分まだ人は少ないはず……
鍵閉まってる。まだ誰も来ていないのかしら。部室の鍵をポケットから引っ張り出して開ける。
窓からの光だけで薄暗い部室。大きな机の影、ベンチで黒瀬先輩が寝ていた。
……寝顔、かわいい。そっと髪を撫でる。結構ごつい顔なのに、寝顔がとてもかわいく見える。
「いとしの先輩、ずっとこのままならいいのに……」
小声でつぶやいた。叶わない願いだとわかっている。いずれ、お別れしなきゃいけなくなる。
それは先輩が卒業するときかもしれないし、わたしが死ぬときかもしれない。何人もの“魔女”の末路を知っているから余計に自分の死を意識してしまう。
それでも、大勢の人の日常を守るのに“魔女”の存在は必要だ。
もし、わたしが“魔女”でなければ……ずっと一緒にいられたのかしら?
先輩の頭を撫でていた手を降ろし、机を挟んで反対側のベンチにそっと腰をおろす。
わたしも少しだけ寝ようかしら……昨日は報告のために遅くまで起きてたせいか、眠い。
机に突っ伏して、目を閉じた。
キーンコーンカーンコーン……
チャイムの音で、目が覚めた。
「篠山、起きたか」
「黒瀬先輩……わけがあって昨日は遅くまで起きてたもので」
「無防備すぎるぞ?寝ている間に悪戯されたらどうするんだ」
「う……ごめんなさい」
「いやそこ謝るとこじゃないけど!」
涎たらして寝てたなんてことはないけど、多分髪乱れてるから早く直したい……
「俺はもうそろそろ帰るつもりだけど、篠山はどうする?」
え、今何時よ。鞄から携帯を引っ張り出して時間を見る。
時刻は六時過ぎ。そんなに寝てたのね……
「わたしも帰ります」
「そうか、なら駅まで一緒に帰るか?」
「いいんですか?」
まさかのお誘い。飛びはねそうになるのを抑えて、帰り支度。っていっても、昨日部室に忘れていったノート回収するだけなんだけど。一瞬で終わる。
黒瀬先輩はいろいろやってたみたいで片付け中だ。
「すまん、待たせた」
「いえ、気にしないでください」
二人で部室を出る。外は日が暮れて真っ暗。
施錠した後、ちょっとゆっくり歩き出した。
この幸せな時間、少しでも長く味わっていたいから。
……話すことなんてほとんどないから、無言なんだけど。
いくらゆっくり歩いたとしても、終わりは絶対に来る。
気がつけばもう駅だ。先輩とはここで別れる。
「それでは、わたしは電車なので。お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
軽くお辞儀した後、わたしは駅の地下への階段を降り始めた。
「めぐ、どうだ?」
読み終わってノートを閉じる。マサトが聞いてきた。
「いいんじゃない?たまにはこういうのも」
「俺はやっぱり絵里香には幸せになってほしいって思ってる」
「どうなるだろうね」
実のところ、わたしはこの“異端狩りの魔女”の結末をわかってる。
だって、みんなには隠してるけど、わたしが作者の“柚具月美乃”だもん。
隠してる理由は単純。めんどくさい事態になりたくないから。マサトみたいにファンも友達にいるわけで、そういう人からの“結月恵”を見る目が変わるのが怖い。
ここだけの話、わたしはマサトが好きだ。だからこそ、わたしが“柚具月美乃”だって絶対知られたくない。
「あ、めぐ、今日は部活行くのか?」
「ううん、もう帰るけど」
「そっか。じゃあ、一緒に帰らない?」
「そだね、いいよ」
話しながらリュックを背負う。マサトも鞄を持ってきて待ってくれてた。
「じゃ、行こっか」
そう言って、気付けば誰もいなくなっていた教室を出た。
おはようございます。雪野つぐみです。
今回はお題「ロマンス」というわけで書かせていただきましたが……あのね、言っていいですか?
「ロマンスって、なんなの?何書けばいいの?」
というわけでなんかもう適当にかいてますごめんなさい本当に。
(普通に恋する乙女な雪野だがそれ元にして書くと相手にも迷惑かかる気がして書かなかった奴)
今回、このわけわからん小説を読んでくださった皆様、一緒に企画やってくれてる文群さん、いろいろとヒントくださったSF研の先輩方、なんだかんだで頼ってしまっていた愛するあの人に、感謝の言葉を。