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A2 ヒロインは魔女に囚われているから逃げられない、と嘘をつく

 ヒロインは魔女に囚われているから逃げられない、とあなたは嘘をつきました。

 実際のところは知りませんでしたが、嘘も方便です。

 その可能性だって充分にあるのですから、嘘とも言いきれないことですし。


「……それ、本当?」


 少しの疑いのこもった問いに、あなたは大きくうなずきます。

 物語の管理人として、人をごまかしたり嘘をついたりは得意なあなた。

 嘘とも言いがたい真実味のある言葉だったこともあり、ヒーローはなんとか信じてくれたようです。


「まったく、敵に回すと厄介この上ないな……。しょうがない、魔女とはあまり戦いたくなかったんだけど、助けに行ってくるよ」


 ヒーローはぶつぶつと何かを言ったあと、あなたに向けてそう言いました。

 これこそ、あなたの狙っていた展開です。

 ヒロインがなぜ塔から放り出されなかったのかはわかりません。

 けれど、物語には主人公補正というものが存在します。

 つまり、ヒーローさえその場にいれば、物語は主人公たちに都合のいいように展開していくのです。

 ヒロインとヒーローがそろえば、もう向かうところ敵なしでしょう。

 魔女だって簡単にやっつけてしまえるはずです。


 計画どおり、と悪役笑いをしたいのをこらえ、あなたはヒーローに気をつけてと声をかけます。

 魔女の考えはあなたにもわかりません。

 ヒロインがどう行動するのかも、わからないのです。

 いくら主人公補正があったとしても、多少の困難はあるかもしれません。

 ヒーローはあなたの言葉に深くうなずきました。


「君はどうする? ついてくるかい?」


 ヒーローの問いに、あなたは微笑みを浮かべたまま首を横に振ります。

 物語に介入しすぎては、後々影響が出てしまうこともありえます。

 きちんとハッピーエンドになるかどうかは見届ける必要がありますが、彼についていかなくとも見る方法はあるのです。


「じゃあ、ここでお別れだね。教えてくれてありがとう」


 ヒーローのほうもにこやかにそう言います。

 塔へと向かうヒーローに、あなたは手を振りました。

 振り返ったヒーローも軽く手を上げて応え、それからすぐにその姿は見えなくなりました。


 周りに誰も人の目がなくなったことを確認してから、あなたは隠し持っていた本を開きます。

 それは、この物語の書かれた本でした。

 これに新たに増えていく文字を読んでいけば、無事にハッピーエンドを迎えられるかどうか、すぐにわかるのです。

 物語はちょうど、ヒーローが塔にいるヒロインを救出するために、魔女と対峙しているところでした。





「タクサス、フィーラをこの塔から解放しにきたよ」


 塔の前で、ヒーローは銀色の棒を魔女に突き立てました。

 魔法を帯びて輝く棒は、ビリビリと物騒な音を立てています。

 突き立てられた魔女――どう見ても男ですが、設定上魔女と呼びます――は、殺気を向けられているにも関わらず、まったく動じていません。


「エリオ、まず武器をしまえ」

「できれば戦いたくないんだけど、そこを動く気がないならオレだって容赦しない。殺す気でやり合えばオレが勝つよ」

「そうだろうな」


 魔女は静かに塔の前から退きました。

 それから、小さくつぶやきます。


「……やっとか」

「やっと?」

「待ちくたびれたぞ。行動派のお前ならすぐにでも来ると思っていたんだが」

「……どういうこと?」

「フィーラの面倒を見きれるかどうか、簡単なテストのようなものだ」


 怪訝な顔をするヒーローに、魔女は種明かしをしました。


「君が彼女を囚われの身にしているわけじゃないの?」

「俺はフィーラの親に押しつけられて、彼女の面倒を見ていただけだ。多少不自由な思いはさせたが、元はと言えば好奇心旺盛すぎて次々問題を起こすフィーラにも非がある」

「……騙された」

「俺は騙したつもりはないぞ。試しはしたが」

「いや、うん、そうじゃなくて……まあいっか」


 ヒーローは気持ちを切り替えるように首を振り、まばたきをします。

 それだけで、苦々しげな表情は跡形もなく消えました。


「フィーラを解放してくれるんだろう」

「うん。彼女はここにいるよりも、外を知ったほうがしあわせになれると思う」

「それは否定しない。お前なら守りきれるだろう」

「うん、守るよ。絶対に」

「……そういうことは本人に言え」

「じゃあ、迎えに行ってくる」


 言うが早いか、ヒーローは魔法の力で塔を上っていきました。

 その先にはヒロインが待っているのです。

 ハッピーエンドは、もうすぐ傍です。


《寂しくなるね、タクサス》

「元の生活に戻るだけだ。それに、俺にはお前がいる」


 どこからともなく響いてきた声に、魔女はそう返します。

 その声は少しだけ寂しそうで、けれど晴れ晴れとしたものでした。






                Happy End!

                パスワードその1「e」

http://sky.geocities.jp/koinokagi/zakka/○○○○.html

パスワードを1から順番に当てはめていってください

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