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B 花畑に行く



【リンゴの毒に倒れた星の物語】




 あなたは花畑へと続く道を歩いていきます。

 少し進むと道がなくなり、一面に広がる花畑があなたを迎え入れてくれます。

 その中心に、何やら人が集まっていました。

 きっとあそこで物語が展開しているのだろうと、あなたは近づいていきます。


「エシィ……」

「うう、エシィさん……」


 個性豊かな七人の小人が、静かに眠るようにして棺に横たわっている少女を取り囲んでいました。

 やはり、ここが物語の中心です。

 リンゴの毒に倒れたヒロインに、ヒーローがキスをする場面。

 肝心のヒーローがどこにいるのか探す必要もなく、彼はヒロインにすがりつくように、棺の横にいました。

 これからキスをするのかとしばらく待ってみますが、ヒーローはまったく動こうとはしません。

 不思議に思ったあなたは、ヒーローに近づいてみます。

 ぼそぼそと小さな声が聞こえてきました。


「エステルが……エステルが……、僕のエステルが……」


 彼は壊れたレコーダーのように、繰り返し少女の名前を呼ぶだけです。

 状況のわからないあなたは、周りにいた小人に何があったのか尋ねました。


「隣国の王子という設定にも関わらず、あいつはたびたびここを訪れていたんだ。彼女がリンゴを食べてしまうところにも、ちょうど居合わせた。目の前で倒れられたのがよほどショックだったんだろう。口づけをすればいいだけなのに、先ほどからずっと魂が抜けたようになってしまっている」


 やけに精悍な顔立ちの小人が答えてくれました。

 なるほど、物語が予定どおりに進行しない原因は、茫然自失となってしまったヒーローにあるようです。

 だいぶ前からヒーローは物語どおりには行動していなかったようですが、そこは許すとしましょう。

 けれど、ヒロインが倒れたショックで自分の役割を忘れるヒーローだなんて、前代未聞です。

 これは困りました。ヒーローがキスをしなければヒロインは目覚めません。

 まさかの、ヒロイン死亡によるバッドエンド行きです。

 それだけは、どうあっても防がなければなりませんでした。


 もちろんすべての物語がハッピーエンドで終わるわけではありません。

 バッドエンドが悪いわけでもありません。

 けれど、ここでは、駄目なのです。

 ここに存在していいのは、しあわせな恋物語だけ。

 読んでいて誰もが笑顔になれるような、ちょっとしたしあわせのおすそわけをできるような、そんな物語でなければならないのです。


 あなたは必死になってヒーローに声をかけました。

 彼女はまだ生きている。

 ヒーローの助けを待っている。

 想いのこもったキスには魔法が宿っている。

 ヒロインにキスをするのだ、と。


 けれどヒーローの目があなたを映すことはありません。ヒーローの耳にあなたの声はまったく届いていないようです。

 小人たちは、無駄だ、と言うようにあなたの肩を叩きます。

 きっと今のあなたのように、何度もヒーローに訴えかけたのでしょう。

 それでも、あなたはあきらめるわけにはいきません。

 この物語を無事にめでたしめでたしで終わらせるためなら、なんでもしようと思っています。

 あなたは深く考え込みます。

 どうにかこの物語をハッピーエンドへと導くことはできないでしょうか。





B1 ヒーローの代わりにヒロインにキスをする、ふりをする

B2 ヒロインを目覚めさせる






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