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歴史物

殺生公方と言わないで その2

作者: 三田弾正

以前書いた殺生公方と言わないでの第二幕です。

応永十三年(1406)三月


■京 青蓮院


俺が、寺に入って早三年弱、将軍の子供とは言えお師匠は手加減なんぞしやしない、先輩方も同じで最末端の小坊主として、朝から晩まで修行の日々でクタクタさ。これある程度人生経験のある俺だから何とか成るけど、実際の子供なら精神に歪みが生じるかしてるぞきっと。


親父とは寺に入る前に会ったきりで梨の礫、そりゃ適当に出来た子供じゃ愛情も湧かない訳だしね、風の噂じゃ、梶井門跡にいる同じ年の異母弟を可愛がっているそうだから、其奴が、四代将軍の義持と相続争いした挙げ句に殺される人物だなと判った。


まあ、考えてみれば、このまま真面目に修行すれば、何処にも睨まれることなく結構上位の坊さんになれる訳だから、良いかなと思い始めてきている。将軍家が貧乏になるのは応仁の乱以降だし、今なら俺が老人になるまで安泰だね。


そう思っていたときもありました。あの不用意な一言さえ無ければ。

ある日、俺の元に、監視なのか何なのか判らないが、有る武士が来たときに其れは起こった。


「拙者、政所代を勤めます、蜷川新右衛門と申します」

これ聞いた時、一休さんのTVアニメが頭に浮かんだ、そうですよあの寺社奉行蜷川新右衛門ですよ、これは、一休さんと会うフラグかと、心の中で小躍りしながら話を聞くと。


「ご丁寧に、義圓と申します」

「義圓様には御不住などございませんでしょうか?」

あれれ、親父の使者にしては変だなと思ったのでカマをかけてみた。


「不住などございません。所で何方からの命でしょうか?」

それを聞いた新右衛門さんは一瞬、驚いた顔をしたけど、真剣な表情で答えてくれた。

「義圓様御洞察は恐れ入りました。実は叔父上勝山道智様より“出家させた甥達の様子をそれとなく見てくれ”と頼まれました」


「成るほど、お会いした事は有りませんが、叔父上が、ありがたい事です」



この時は、何も無かったのだが、その後ちょくちょく来る様になった新右衛門さんと話している中で、一休さんの事を聞いて見たくなったのでそれとなく質問してみたんだが、完全なやぶ蛇になった。


「新右衛門さん」

「なんでしょう?」

「聞く所に依ると、安國寺に一休と言う小坊主が居て、頓智で有名だそうですね?」


そう言われた、新右衛門さんはハテと言う顔をして考え出した。

「安國寺にございますか?拙者は安國寺には殆ど行った事が有りませんから、残念ながら存じておりません」


はぁ?新右衛門さんと言えば、足利義満の命令で後小松天皇の庶子である一休さんを監視するのが仕事じゃ無かったっけ?あれ?そう言えば、寺社奉行じゃなくて政所代とか言っていたし、アニメの設定なのか?


「どうなさいましたか?」

黙りこくってたから、新右衛門さんが不思議がってる。

「いえ、新右衛門さんでも、知らない事が有るのかと、思っただけです」


「お恥ずかしながら、寺社の方は得意ではございませんから」

「そうですよね、貧乏寺の安國寺じゃ知らないはずですよね」

俺の言葉に、新右衛門さんはエッと言う顔で話してくる。


「義圓様、安國寺は将軍家の手厚い保護を受けておりますので、貧乏と言う事は有りませんが、もしや別の寺の事を聞き間違えたのではございませんか?」

えっ、安國寺が貧乏寺じゃないって、どうなってるんだ?


「いえ、安國寺と聞いたのですが」

「義圓様、そもそも安國寺とは、足利尊氏公が聖武天皇の故事に習って、夢窓疎石殿の提案により、戦乱の犠牲者を鎮魂するために諸國へ作ったのでございます。その為に幕府の保護を受けておりますので、貧乏な安國寺など日の本を探してもございませんぞ」


ありゃー、完全にアニメ設定か、そうなると一休さんも何処にいるのか判らないな。

「義圓様、その一休とやらの頓智とはどの様な物でしょうか?」

新右衛門さんの質問だし、此処で教えて手がかりを得るのも良いかなと思ったのが運の尽き。


「例えば、橋を渡ろうとして、高札に“このはし渡るべからず”と書いてあったとしたら、新右衛門さんはどうしますか?」

俺の質問に、新右衛門さんは直ぐに答えて来た。


「其れは、別の橋を探すか、川を渡るかします」

「いえ、一休さんなら、真ん中を堂々と渡りますよ」

「なぜですか?橋を渡ってはいけないはずですが?」


「端は渡ってません、だから真ん中を渡ったのです」

最初判らなかった新右衛門さんだったが、暫しすると成るほどと頻りに頷いていた。

その後、虎の絵の話とか色々して、“では一休の居場所を聞いて見ましょう”と言って帰って行った。


其れから二週間後、突然御所に呼び出された。

今回は北山じゃなく、現将軍四代将軍足利義持の居る花の御所だけど、あの将軍は弟を殺しているから、ビクビクしながら行った。


対面の間に通されて、周りから鎗が出てくるとか、床下から忍者が躍り出てくるとか、冷や汗垂らしていたら、新右衛門さんが趣が俺と似ている二十代中盤ぐらいの殿様と、法体の五十台を越えた様に見える方を案内してきた。


直ぐさま頭を下げて顔を見ないようにしたけど、直ぐに話しかけて来た。

「苦しうない、面を上げよ」

顔を上げると、若い方が俺の事をジロジロと値踏みするように見ていた。


「義圓様、公方様にございます」

新右衛門さんの説明でその若い方が将軍義持だと判ったので、変な因縁吹っかけられて暗殺とか嫌なので丁重な挨拶を行った。


「公方様におかれましてはご機嫌麗しく」

それを見ていた年かさの方が将軍ににこやかに喋りかけた。

「義持様、その様な風にジロジロ見ていては、義圓殿が恐ろしがっておりますぞ」


それを聞いて将軍は視線を普通の視線に戻し、話しかけて来た。

「そちが義圓か、予が義持だ、一応将軍をしておる」

その言いようが、面白く思わず噴き出しそうになったが我慢していた。


「ハハハ、義持様、義圓殿が笑いを堪えるのに精一杯じゃ、義圓殿儂は勝山道智と言う、一応お主の叔父をしている」


その言いようが更に面白かったので、場がほぐれた。

そして将軍が俺に向かい質問をしてきた。

「さて、義圓よ、そちは何者じゃ?」


これは正体がばれたかと思ったが、そうでは無さそうで将軍はニヤニヤ笑いながら俺の事を見ていたので、同じ様な答えを求めていると考えて答えを言った。

「公方様、義圓と申します。一応前将軍の息子と、現将軍の弟をしております。また修行中の蘊蓄坊主でございます」


この答えを聞いた、将軍と叔父がニヤニヤしたかと思うと大爆笑し始めた。

「成るほど、新右衛門の言う通りよ、知恵の回る小僧よ」

「将来が楽しみですな、名僧になりまするぞ」


その後、なんだかんだで、頓智の話や蘊蓄を述べていたら、面白いと評判となり、兄貴である将軍義持に気に入られて、度々御所へ呼び出される事になった。


俺は坊主である関係で酒も呑めない、肉も食えないが、兄貴は酒呑んで肉食って愚痴を垂れてくる。殆どが親父の悪口だが。


曰く、何時までたっても権力を握り続けて、自分は何も出来ない。

曰く、弟を可愛がり、後を継がせようとしているらしい。


等々、来る度に絡み酒で愚痴聴かされる身にもなってくれと叔父上にボソッと言ったら、一言“済まぬが、其れも御仏の使わした試練と思いなされ”と逃げられた。


まあ、呑んでないときの兄貴は良い人で、俺のうろ覚えの知識からこの時代でも大丈夫な話をしたりして唸られたりしている、兄貴は頭が回るから理解が早くて教えるのが楽しいので、貨幣経済とか、開墾の仕方とか、義倉の話とかしていたら、最近は自分の側近まで連れて、俺の話を聞かせる始末、まあ教えるのは苦に成らないが、肉と酒が食えない呑めないが辛いぞー!




応永十三年(1406)六月


■京 北山第


「なに、義持が義圓を度々召し出していると言うのか?」

「はっ、最初は酒の席での語りなどでございましたが、最近は政治について側近衆などと共に話しているとの事にございます」

家臣の報告に前将軍足利義満の目が普段の穏和そうに見せている姿から疑り深い眼光に代わる。


「うむ、義持め大人しくしておれば良い物を、このままでは鶴若(足利義嗣あしかが よしつぐ)の為にもならぬわ」

「如何為さいますか?」


「うむ、義持は公方じゃ、どうこうする事は南朝の残党に勢いを付ける事になろう」

「では、義圓様を」

「いや、未だ謀反をした訳では無い、其処まで予も冷酷では無いわ、義持より遠ざけるより他有るまい」


「其れでは、どちらへ?」

「鎌倉の東光寺へ送れば良かろう」

義満の話に側近が顔色を変える。


「東光寺と言えば、尊氏公が護良親王を幽閉した寺、まさか幽閉を為さるのですか?」

「そうではない、義持も義圓が東光寺へ行くと成れば、その事を思い出して自重するであろう」

「成るほど」


これにより、義圓は史実と違い、関東へと修行のへ向かう事に成った。この事が彼の身に何をもたらすのかこの時点では誰も判らなかった。


実は一休さんと同じ年という罠。しかも名前違うし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 関東へ追いやられるということは、史実では怨敵となる関東公方足利持氏と関わることになるのか・・・この物語ではまだ上杉禅秀の乱も起こっていない・・・続きが早く見たいなぁ♪
[良い点] 戦国でも幕末でもなく、源平や南北朝でもないこの時代の人を主人公にすえるとは珍しいです。 ぜひとも連載をしてほしいです。
[良い点] アカン、面白い!心引かれてしょうがない(笑) [気になる点] 続きが気になりすぎる所かな…? [一言] 三田も大好きなので今は我慢しますが、三田が終わったら必ずこれを連載してください!(…
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