人間にとって大切なことは?
“人間にとって大切なことは?”
と黒板に書かれている。
給食を食べた後の五時間目はやはり眠い。心地よい日差し、心地よい風に負けないように俺は頑張っているが、うちのクラスの二,三割のやつはすでに、負けて倒れてしまっている。
こういうときに限っての国語はアウトだ。社会の授業よりは幾分マシだが、それが、個人作業になるとだんだん眠くなる。
「皆さん終わりましたか?」
国語の先生が大きな声で言った。ちなみに俺は一行しか書いていない。二十分何をしていたのかって? 戦っていたのさ、眠気と。
「寝ている人も多いのでこれぐらいにしますが、まだ書いていない人は、発表者の意見を参考にして聞きながら書いてください。終わったら提出よ」
ため息がそこら中に聞こえた。こういうときは、トレース・オンしかないだろう。
「では発表してくれる人」
五,六人ほど手が挙がった。マシな方だろう。男子が誰一人挙がっていないのは気にせずに。
「最初に坂本さん」
「はい」
といかにもかわいらしいような声で言った。
「私は人間にとって大切なことは個性だと思います。なぜかというと、他人と同じような(以下略)私は個性が大切だと思います。なので、私も個性を身につけたいです」
と語尾にハートがついているように聞こえた。言っていることは正論だが、何が「つけたいです(ハート)」だ。ぶりっ子という個性あるから十分だ。まあ、クラスの男子の受けはいいが……。
「はいありがとう。次は大井さん」
「はい」
今度は委員長の登場。写す……参考するならこれだな。
「私は人間にとって大切なことは、家族や友達、そして、自分以外の人がそうだと思います。
なぜかというと(以下略)だからです」
「ありがとう。うまくできていたわ」
委員長、写す……参考になったぜ。ありがとな。
「もうそろそろ時間なので、次でラストにしたいと思います。え~とラストは平野さんね」
「はい」
平野は、いったいなんて書いたのだ?
「私は人間にとって大切なことは、息をすることだと思います」
俺は笑ってしまい、軽く睨まれた。
息をすること、変わっているな。
自分も平野のことは言えないけど。
俺のノートに書かれていた一行。
“人間にとって大切なこと?”
生きること
似たもの同士ってことか。俺と俺の彼女は。
昔書いた作品です。発掘記念に上げてみました。