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結魂の力  作者: トンボの目
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ニーナ 4

 ワカミの鎧が届いた。これを着てワカミは魔獣と戦う。


 私達のためだけではない、そうワカミは言った。魔獣が増えるのを止められなければ、被害者はこれからも増え続ける。その被害者には、ワカミの知っている人、ワカミがこれから知り合うはずの人がいるかもしれない。後悔はしたくない、そうワカミは言った。


 でも、私にとってそんな人たちのことはどうでもいい。大事なのは、ワカミが無事でいられるかどうかだ。ワカミ自身が魔獣と戦うなんて話は聞いたことがない。どうして今まで通り、戦いを僧兵達に任せて御輿で守られていてはダメなのか。


「本当にそれが一番安全なのか、よく考えてみるんだ。俺達が破壊しなくてはならない闇木は一つや二つじゃない。そして魔獣は今までにどのワカミも経験したことがないほど増えている。僧兵達に任せて、守り切れる保証はどこにもない」


 そう言われると、何度も説得されたのに、ワカミが教会から去る方法を探すべきではないかと考えてしまう。


「しかし魔獣を倒すのが結魂の力を使う俺達なら、生き残れるかどうかは、俺とニーアとアイラ、3人が決めることになる。自分を犠牲にしてもいい、なんて考えは全くない。俺が魔獣に殺されれば、その時はお前達も無事では済まないだろう。今日から俺達は、結魂の力を使って魔獣と戦うための訓練をする。お前を納得させるだけの成果を出して見せるよ」




 甲冑を身に付け、槍を構えたワカミの姿に美しさを感じた。人の容姿や宝石などの美しさではなく、その姿勢や動きから、これがワカミにとってのあるべき姿だと感じた。


「薬師とお聞きしましたが、槍の心得がある、というような練度ではありませんな」


 ワカミの甲冑を作った高名な甲冑師がそう言った。彼はワカミが求めた甲冑の規格外の重さと様々な工夫が気になり、実際に使いこなせるものかを見に来たそうだ。


 10タットほど離れて立つワカミが、私達に結魂の力を求めた。私達の霊魂でワカミの身を薄く包んでいると、ワカミが強く思ったことが私達に伝わるようになる。まず私がワカミに魂を重ねる。ワカミの望みで私は意識を保ったままだ。続いてアイラも魂を重ねた。


 ワカミが結魂の力でその体をわずかに浮かべた。私とアイラが共に意識を保っているため、結魂の力も完全にワカミに心を委ねた時よりずっと弱い力でしかない。例えると、両手だけでなく全身の力を使って大きな石を持ち上げているのが完全に魂を重ねた状態で、小石を指でつまんで持ち上げているのが今の状態だ。甲冑ごとワカミを持ち上げると、あまり余裕がない。その状態でも力を消耗している感じはない。


 浮かべる力を甲冑分を相殺する程度にして、前後左右への動きに力を割り当てる。脚に頼らない軽快で不思議な動きに、甲冑師を含めた周りの人々から驚きの声がする。


 鍛錬場の中央近くに柱に、何枚かの石板が取り付けられている。この石板の固さは魔獣の頭骨に相当するらしい。ワカミは数タット離れた位置から加速して接近する。あっさりと石板を突き割った槍の動きは、私の目では追えなかった。人々から感嘆の声が上がるがワカミは不満だったようだ。甲冑師の所へ行って、私には分からない話をしている。




 訓練を始めて5日目。ようやくワカミに言われた通り、動き回るワカミを視界の左側に捉え続けることができようになった。これは思った以上に難しかった。気を抜くと、すぐにワカミが視界の真ん中になってしまう。アイラの方が慣れるのは早かったようだ。


 こうすることで、周りの広い範囲にいる魔獣の姿を観察できるとワカミは言った。それは嘘ではないけど、それだけじゃないと私は思った。私達に観察の役目を与えることで、私達が意識を捨ててワカミと完全に魂を重ねるのを避けているのではないか。


 私とアイラの力を使い過ぎないかと、ワカミはいつも恐れている。でも、いざとなれば私とアイラは、霊魂の力を使い尽してもワカミを守るつもりだ。ワカミ自身が魔獣と戦うのは、訓練を見ていた人たちの言葉から判断すると最も優れた方法だと思う。ワカミが私達にしてくれるように、私もワカミのために何ができるかを考えることにした。




「本当に驚きました。魔獣がまるで猫に追われるネズミのようでした」


 私達の乗った御輿を運び、そして守ってくれた隊員には、巫女付きとして女性の僧兵も加わっていた。彼女達は興奮した口調でそう言った。


「あのジーク殿の信じられないような体捌きは、巫女様方によるご加護ですね。お疲れではありませんか」

「お気遣いは無用です。あの方が使われているのは、あの方と私達の心が一つになって生まれる力です。それも私達の負担にならないように、あの方は力を抑えておられます。今日の働きが何日も続いたとしても、私達の力が尽きることはありません」

「まことですか! ……ジーク殿は我が国をお救い下さる方かもしれません」


 彼女達があまりにワカミを褒めるので、ワカミが異教徒だと知っている他の隊員から反感を受けないかと心配になったが、ほとんどの隊員はワカミの強さに心服しているようだった。ワカミへの賞賛は、私にとって何より誇らしかった。




 女性の僧兵からワカミが水を受け取った。ワカミを国を救う方と言っていた人が、頬を紅潮させてワカミと話している。ワカミが楽しそうなのに、私の心には何かもやもやとしたものがある。


「嫉妬」


 わたしを見ていたアイラが突然そう言った。アイラの言うことはいつも正しい。私はあの女性に嫉妬していることを素直に認めるべきだ。でもこれは、例えば親に甘やかされている弟に対して感じるような嫉妬だ。ワカミは私達に女としての振る舞いを求めたことはない。女として意識することは、結魂の力を損なうかも知れない。




「今回の実戦訓練は成功といっていいだろう。いくつか見直しは必要だと思うが、これでこれからの目途がついた。ニーナとアイラのおかげだ」


 ワカミの言葉は嬉しかった。でも私は、死の森にいる間、ワカミを守っているのではなくワカミに守られていると感じていた。


「本当にお役に立てていたでしょうか。やるべきことを十分にやった、そういう実感がありません」

「今回はあくまで訓練だ。実際に死の森の最深部に向かうことになれば、現れる魔獣の数は増え、闇木も巨木になると今回のような方法では壊せないだろう。ニーナやアイラがこの訓練を少しでも重荷に感じていたなら、俺は作戦を考え直す必要があった」




「なにかいやな感じがする」


 巫女の館に帰ってから、アイラがそう言った。本人に理由が分からなくても、アイラがこういうことを言うときには何かがある。私はその理由を探そうと、ラフィタ様の執務室を訪れた。


「ジーク殿が行った訓練の成果は聞いている。素晴らしいものだったようだね。私はすでに彼に何度も驚かされたので、この結果も多少は予測していた」


 その言葉にもかかわらず、ラフィタ様の表情は冴えなかった。


「だが、ジーク殿の評判が高まり過ぎるのも問題だよ。教主様や教会上層部は、たとえ慣例を破ることでもそれが自分の護身に役立つなら認めるだろう。今のままでは国が危うい。例え国が残っても国教としての様々な利権は失うことになる。しかし今の極めて危険な状況では、教主を始めとするワカミは闇木の破壊を引き受けないだろう。

ジーク殿がワカミとして闇木の破壊に赴くことは、教会からの正式な依頼ではない。ジーク殿に権力を脅かす可能性を少しでも感じれば、教会全体の利益など考えずにその芽を摘もうとするだろう」


 恐怖とそれに勝る怒りが、私の中に湧き上がった。


「アイラが何かを感じたのなら、ジーク殿の失脚を狙った何らかの動きが、館の女官らに伝わっているのかも知れないね。もしかすると、手駒の中から武芸に長けた者をワカミに選んで、ジーク殿の真似事をさせるつもりなのかも。もちろん、教主の候補にはなりえない地位の者を選ぶだろう」


「そうなったら、ワカミはどうなるのですか」

「考えられるのは二つ。一つは、手駒がワカミとなった所で、ジーク殿をお払い箱にする。もう一つは、ジーク殿に闇木の破壊をさせて、ほとんど終えた所でその手駒の手柄とする」

「そんなことは神が許しません!」


 思わず私はそう叫んだ。


「兵から聞いた話では、結魂の力をあまり使わず魔獣を倒したそうだね。教主様にもそれは伝わっているだろう。怖いのは、腕に覚えのある者がワカミとなれば、誰でもジーク殿と同じことができると思われることです。不要だと思われたら、それこそ何が起こるか分からない」


 ラフィタ様は、私の目を覗き込むようにしてこう言われた。


「私は、ジーク殿でなければこの厄災を打ち破ることができない、そう考えている。それを皆に分からせるため、六日後に行われる鍛錬会の試合を、ジーク殿がその実力を知らしめる機会にしたい。腕に覚えのある僧兵達と結魂の力を使わずに技を競う。ジーク殿がそれを受け入れますか」




 私はワカミの部屋へ行き、全て隠すことなく説明した。


「俺の代わりに闇木を壊す人がいるなら、それは別に構わない。しかしその場合、ニーナとアイラはどうなるんだ?」

「私達のことはかまいません」

「そうはいかない」


 私はワカミの目をにらむように見つめた。ワカミは自分の身のことを軽く考えすぎる。


「君の信頼は嬉しいんだが、俺の槍は虎を倒すために鍛えたものだ。人との試合でどこまでやれるかは、俺自身にもわからない」

「それならそれで、かまいませんよ」


 ラフィタ様が、部屋の中に入ってこられた。


「貴方の評判が高くなると、教会の上層部に気にする方がいるという話ですから、大勢の前で負けて評判を落とすのも一つの方法です。わざわざ貴方に危害を加えることもないでしょう。ただしあまり不甲斐ない結果だと、不要と見なされるかもしれません」

「俺はお払い箱として、ニーナとアイラは?」

「教会からの追放になるでしょう」


 ワカミはため息をついた。


「鍛錬会の試合には出よう。2人を追放させるつもりはない」




 試合の当日になった。試合までの5日間、ラフィタ様が用意した人目に付かない練習場所で、ワカミは部隊で共にいた僧兵の長と手合わせをしていたようだ。


 試合は勝ち抜きで、ワカミや前回優勝者の初戦は百人以上の参加者が残り6人になった本戦からだ。試合は早朝から始まったが、ワカミや私達が会場に入ったのは昼過ぎだった。


 元巫女が私とアイラの近くに座った。試合中に結魂の力が使われていないことを確認するためだ。試合場に現れたワカミは、皆と同じ試合用の防具を身に付け、先端に鉄球の付いた2タット半の槍を持っていた。他の競技者の槍は長くても2タットで、ワカミの槍は明らかに長かった。試合用の防具は各所に薄い石板がはめ込まれ、これが割れれば有効打と見なされる。


 まだ予選は続いていたので、出場者の戦い方を確認してみた。魔獣と戦っている時のワカミの槍捌きとはだいぶ違う。


 基本的には突きで決めている。切る動きでは、かなり大きく振らないと穂先が石板を割るほどの勢いにならず、それでは相手の槍で受け止められてしまう。槍を振るのは、相手の槍を弾く時だ。互いに槍を打ち合わせながら、隙を作って相手を突く。相手より先に石板を2回割った方が勝ちとなる。


 予選が終わった所で、改めて勝ち抜いた兵の名が紹介された。よく見ると、6人中4人が死の森を共に進んだ隊員だった。僧兵の長から最強の部隊だと紹介されたことを思い出した。



 ついにワカミの試合が始まった。予選を勝ち残った兵はいずれも、実力者同士の戦いで4戦以上勝ち抜いている。ワカミの相手は、同じ部隊ではない兵だった。


 試合が始まってすぐ、ワカミの突きが相手の胸の石板を割った。槍同士が打ち合う音は全くしなかった。


 次に相手は、ワカミとの間合いをさっきより空けた。ワカミは穂先を相手の右下に置いて構えた。ワカミは一歩踏み込んで、2歩目を出さずに体を前に倒す。同時に穂先が動いて右太ももの石板を割った。


 その後、試合相手が審判に何かを言い、審判はワカミから槍を受け取り相手に持たせた。試合相手は槍をワカミに返して謝罪する仕草を見せた。


「槍の動きが早いため、試合の規定より軽いと思ったようですね」


 ラフィタ様がそう言った。



 次の試合では、ワカミは全く違う動きを見せた。槍を立て気味に構えたワカミに、相手は素早い動きで踏み込み突きを入れる。柄で弾き、体捌きでギリギリに避け続けるワカミ。息が切れ、一度下がった相手の槍を、一閃で弾き飛ばす。相手の兵は試合を止めて降参した。


「今度は実力の差を見せつけるような戦い方ですね。ジーク殿の強さは予想以上です」



 いよいよ昨年の優勝者、イゴールとの試合だ。彼は鍛錬会で7年に渡って無敗だった。離れていてもワカミの緊張を感じる。

 試合が始まると、これまでの試合と違ってワカミはなかなか攻撃を仕掛けない。相手と何度も槍を打ち合わせながら機会をうかがっている。イゴールが槍を払ってワタミの槍がまた弾かれる、と見えたワタミの槍がこの時、相手の槍から離れずにイゴールの前まで戻った。イゴールの胸にワカミの突きが放たれた。


 審判が元巫女の方を見ると、元巫女は黙って首を振った。私もアイラも結魂の力は使っていない。試合は続行された。


 ワカミのやや上段の構えに対して、イゴールは槍を下段に構る。今度は両者とも全く動かない。見ている方にも緊張感が伝わってくる。

 ワタミがわずかに動いたのと同時に、イゴールが驚くほどの速さで二歩踏み込んで完全にワタミの懐に入った。イゴールの突きは避けようのない一撃かと思われたが、槍を引きながら体に横にひねったワカミの胸をかすめるように外れた。同時に放ったワカミの一撃が相手の石板を割った。


 審判がまた元巫女の方を見て、元巫女はまた黙って首を振った。私もアイラも間違いなく結魂の力を使っていない。しかし私は、ワタミの今の動きが霊魂の力によるものだと感じていた。私やアイラではない、誰かの力だ。



 試合後の表彰式で、ワカミは人々の喝采を浴びた。鍛錬会で7年無敗の相手に完勝と言える勝ち方をしたのだから、人々からの賞賛は当然だった。


 決勝戦での霊魂の力について確認するため、私は表彰式を終えたワカミの元へ向かった。他に人のいない控室で私は率直にワカミに尋ねた。


「今日の優勝はワカミ自身の力ですか?」

「もちろんだ」


 その返事にわずかなためらいを感じたが、私はそれ以上尋ねなかった。

残り二回ですが、投稿までしばらく間が空きます。


勢いだけで投稿するには力不足でした。もっと推敲しないとダメですね。

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