幕は上がった
―――――監獄にいるようだ。一冊の古びた本を片手に彼女、紅苑は思う。
ぎしぃぃ………。
紅苑が寝返りを打つと、それに合わせベッドのスプリングが沈む。
部屋は女性とは思えない程に味気がない。
まるで、書庫だ。部屋自体はとても広い。夜景を一望できるガラス張りの窓。最低限度の生活が送れる家具。それでも、スペースが大量に余る、それを埋めるかのように紙の本の山が連なっている。
この国で紙の本は珍しい。本といえば電子書籍が一般的だ。理由は「機械が処理するからだ。」
“精神の崩壊が人の終わり”であるこの世界では、システムのチェックを受けれない本は、精神や思想を変える一つだとされていた。
それでも、紅苑は紙の本が好きだ。
紙の香り、重み、厚み。そのどれもが“存在”の意義となり証明していた。逆に電子書籍は味気ない。ページの厚みもなければ、香りもないのだから。
そういう意味ではこの国は、虚像だ。
他国がなし得なかった偉業をこの国は成し得た。そして手に入れたのが、偽りの力だ。
人々はその“名誉”に酔いしれ、その力に頼り、人が本来持っていた力を忘却してしまった。
故に紅苑は知りたくなった。
人の本当の心理を。
『“世の中の間接は外れてしまった。あぁ何という因果か、それを直すために生まれついたとは。”』
“異能”が一般科学として認知された日本は、今の姿を捨て法治国家となった。
“異能”の総称――【CUBE】。
人それぞれの能力であるが、欠点があった。
【CUBE】は使用するたびに無意識であるが、使用者の自我を侵食していき、やがて、自我を食いつくし使用者を死へと追いやる。
それを避ける為に政府は【CUBE】を管理するシステム【個人の精神】をおいた。
そしてそれを管理する【絶望の幸福】という組織をおいた。