うさぎさんとわたしの出会い
あれはまだひゅるりと肌寒い風が吹く、綺麗に晴れた日だった。
桜の花がちらほらと蒼い空に咲きほころび始めた、花冷えの季節。
お父さんに手を引かれて連れて行かれた近所のレストランで、私は新しい家族と出会った。
『今日から彼女たちがお前のお母さんと弟だ』
柔らかな栗色の髪を腰まで伸ばした上品な女性が、しゃがんで視線を合わせてくる。
でも私は穏やかに優しそうな雰囲気を纏う彼女より、彼女が手を引いている小さな存在に視線が釘付けだった。
親指を口に咥えてこちらを見上げる大きな黒色の瞳。母親と同じでふわふわの栗色の髪をした彼は、ふくふくとしたほっぺをしていた。
『おとーと』
ぽつり、と言葉が口から零れる。ずっと欲しかった、兄弟。
身体が弱くて幼稚園にも通えないでいた私は、家で一緒に過ごしてくれる遊び相手が欲しかった。
仲がいい幼馴染はいるけれど、彼は私が熱を出して寝てる間も幼稚園に通っている。
でも家族なら、きっと違う。だって幼馴染は言っていた。熱を出して苦しい時も、五月蝿い妹が纏わりついてくるって。淋しいなんて考えてる余裕もないって。
お母さんができるのも嬉しい。私のお母さんはもう天国にいるから、毎日お星様を見上げれば会えるけど、傍にはいてくれない。
だから、この優しそうな人がお母さんになってくれるなら、熱を出しても病院に預けられなくなるのだろう。
『わたし、こはく』
『・・・まぁーと』
『まーと?』
『この子、まだはっきり自分の名前が言えないの。愛兔って言うの』
『まなと』
『ええ、そう』
『仲良くできるか、虎珀?』
『ん!わたし、まなとをいいこいいこする!おいで、まなと』
両手を広げて頭半分下にある黒い瞳を覗き込んだら、愛兔は花開くようにぱっと顔を綻ばせた。
胸の中に飛び込んできた温もりがすごく尊いものに感じて、思わずにぱっと全力の笑みを浮かべると、見上げた先の新しい母親が嬉しそうにはにかんだ。
こうして私たちは家族になった。