真意
次の日、カーテンの間から差し込む朝日で僕は目を覚ました。
隣ではまだ心が寝ている。なんだか昨日のことが夢のことだったように穏やかな気持ちだった。
しばらくベッドの上で心の寝顔を眺めていると、心も目を覚ました。
「おはよぉ」
「…おはよ」
なんとも無愛想というか、不機嫌というかそんな感じだった。
寝起きが悪いみたい…
一時間くらいすると、やっと心が動き始めた。
カーテンを開け、ボーっと空を眺めていた。
「お前これからどうするんだ?家に戻るか?」
「………」
「オレはお前がここにいても全然構わないぞ」
「……今は」
「ん?」
「今はあの家に僕の居場所はないんだ…」
「だったらここにいりゃあいい」
「うん。ありがと心…」
「あぁ」
また照れてるみたい。
そうゆう時は決まって目をそらして返事をする。
「それとな…昨日見つけたトップ、お前の友達…名前なんだっけ?」
「由樹のこと?」
「そうそう。その子に見せてみな」
「なんで?」
「見せればわかるよ」
「??…うん、わかった」
「オレは夜から仕事だから、その間一人になるけど…」
「うん。平気だよ」
「うちにあるものは好きに使っていいから」
あるものってホントに必要最低限なものしかないけど…
「じゃあとりあえずご飯でもつくるよ。嫌いなものとかないよね?」
「ある」
「えっ?あったっけ??居酒屋で食べてた時はなんもなさそうだったけど…」
「コンビーフ食えねぇ」
そんなもん朝からださないよ…
つーか僕も嫌いだし。
「わかった。じゃあ適当になんかつくるね」
僕達は朝食を食べ、しばらくテレビを見ていた。
お昼ごろになると心はギターを手に取り作曲を始める。僕はそれを横でずっと眺めてた。
いろんな表情する心。
何時間みてても飽きなかった。
やがて心のバイトの時間になり用意を始める。
「じゃあいってくるから。お前由樹って子に会いにいってこいよ」
「えっ?……うん」
正直気が重かった。また冷たくあしらわれるかもしれないと思うと行く気になんてなれなかったけど、心の言葉が引っ掛かっていた。
「でも僕も出ていったらこの部屋、鍵かけられないよ?」
「これお前にやるよ」
差し出されたのはこの部屋の鍵。
「これどうしたの?」
「実は昨日、少し遅れたのはこれ作ってもらってたから。オレはもうひとつあるから」
「合鍵?でもどうして?」
「光に持ってて欲しかったからな」
「…ありがとう心。でも付き合うかわからないのに鍵つくるなんて気が早いね!(笑)」
「うるせぇな!(照)じゃあいってくる」
「うん!いってらっしゃい!」
僕はケータイを手に取りメールを由樹宛てに打ち始める。
【話があるんだけど、今から会えない?】
10分後…
由樹からメールが返ってきた。
【いいよ。じゃあ今から30分後に駅前で待ってるから】
僕は用意をし心の家を出た。
駅前に着くともう由樹は待っていて、何やらそわそわしている。
「由樹、ごめんな遅くに…」
「ううん。話って何?」
僕は服の中に隠れてたネックレスを見せた。正確には鍵型のトップを由樹に見せる。
「光!?それ…?」
「なんか知らないけど瞬が持ってたんだ…」
僕は昨日のことを由樹に説明した。
すると由樹は突然座り込み、人目も気にせず大声で泣きだしたんだ。
ごめんなさい、ごめんなさい…とただそればかりを言うだけで、僕は何のことかさっぱりだったが、とにかく由樹をなだめた。
「落ち着いた?」
「うん…。ごめんね光」
すると由樹は昨日の出来事を話してくれた。
「あぁ!どうしようトップ忘れて取りに家にもどったら遅刻しちゃいそうだよぉ!なんか雨降りそうだし…きゃあ!」
その時、突然瞬が現れたらしい。自転車に乗っていた由樹は急ブレーキをかけ、瞬の目の前で止まった。
「お前、柊 光って知ってるだろ?」
「はい…。あの、どちら様ですか?」
「オレか?オレは光の元彼」
その時、由樹はなんとなく嫌な予感がしたらしい。
その場をすぐ立ち去ろうとした。
すると瞬は由樹の肩を掴み、自転車ごと由樹を倒した。
「何するんですか!?人呼びますよ!!」
「大丈夫だ。ここは滅多に人が通らないことは調べてある」
由樹の話によると、いつもここを通ってバイトにきてるらしい。
人がいなくて暗い道だが、かなりの近道になるそうだ。
「それからお前がもともと光のこと同性愛者だって知ってることもな?」
「だったらなんなんですか?!」
「なぁに。ちょっとばかし光に冷たくして欲しいだけだよ。さっき、光のバイト先にいって、全部ぶちまけてきたやったとこだから、味方がいるとつまんねぇだよ!」
「なっ!!アンタどうかしてんじゃないの!!光にとってそれがどうゆうことかわかってんの!?」
「あぁ、アイツはそれで独りになる。それでオレのとこに戻ってくるんだ」
「アンタ…おかしい!腐ってるわよ!」
「何とでも言え。……ん?何だこれ?」
「あっ!それは!」
倒れたときに由樹のバッグからトップが飛び出して地面に転がっていた。
「ちょっと返しなさいよ!」
「ほう、よっぽど大事なものらしいな?返して欲しけりゃ言うことききな!」
「それで結局、バイトがおわった後、またここにこいって言われて…。そんなことしなきゃよかったけど、あれ壊されたら…せっかく光が心君からもらった大事なものなのにって…」
由樹…
僕はバカだ。。こんなにも僕のこと考えてる由樹を裏切ったなんて思ったりして…
「もういいよ由樹。由樹が無事でよかったよ。それに由樹が裏切ったって思った僕も悪いし…」
「違うよ!光は全然悪くないよ!私がもっと強ければ!あんなやつ殴ってやったのに!」
「由樹…」
「ごめんね、光…」
そのまま二人は人目も気にせずその場で泣きだした。僕はもう絶対に由樹のことを疑ったりはしないと誓ったんだ。
「でもよく私に会う気になってくれたね?」
「うん…最初は気が重かったんだけど、心が会いにいってこれ見せろって。それに僕も瞬がなんでこれ持ってたのか気になったから」
「それってもしかして、心君はわかってたんじゃないの?」
「どうゆうこと?」
「きっと光の話とその状況を見てすぐわかったんだよ。じゃなかったら私に会いにいけなんて言わないよ!」
「それは帰って心に聞いてみるよ。とりあえず飲みにいかない?心帰ってくるの遅いし。仲直りの証に!」
「いいねぇ!よぉし!ぱーっといくぅ!?」
「よっしゃあ!いくぞぉ!」
僕と由樹は居酒屋へ行き、大騒ぎをした。
たぶん店の中で一番うるさかったに違いない。
今までのことを吹き飛ばすかのように。。
由樹と別れ、心の家に帰った。
まだ帰ってこないか…
うつらうつらしてたらドアの音がした。
「おかえり」
「ただいま。まだ起きてたのか?寝てりゃよかったのに」
「うん。聞きたいことがあって」
「どした?」
「由樹にこのトップを見せろって言ったじゃん?心はもしかしてわかってたの?これを見せれば僕らが仲直りできるって」
「あぁ、なんとなくな。そしたら由樹って子が光に冷たくした理由も、アイツがそれを持ってた理由も説明がつくからな。まぁ憶測だったけど」
「………心、すごいねぇ」
「そうか?」
「僕そんなこと思いつかなかったもの!」
「まぁ、光は気が動転してたからな」
「でもすごいよ!」
「あ、あぁ」
心はまた目をそらして照れ臭そうにした。
僕のこと何気なく気にかけてくれて、いざというときは助けてくれる。
そんな心に僕はさらにひかれていったんだ。。
「それよりオレも話があるんだ」
「何?」
「オレと一緒に歌やらないか?」
突然の心の言葉に僕は驚いた。