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雨の中で

「…瞬」

「よぉ!光!どうした?うずくまって?」


何事もなかったかのように振る舞う瞬。


「どうしたじゃないよ!なんで僕のことわざわざ言ってまわったの!?写真まで使って!」

「あぁ…どうだった?みんなの反応は?」

「どうもこうもないよ!お前のせいで……!お前のせいで僕は全部失くしちゃったんだぞ!友達も親も!」


僕は気が付くと瞬に殴りかかっていた。

でもケンカのひとつもしたことない僕のパンチが瞬に当たる訳がない。

簡単によけられ、そのまま反動で顔から転んだ。


「ははっ!いい様だなぁ!」

「くそぉ!」


僕は何度も何度も瞬に殴りかかった。

そのたびに雨で濡れた地面に滑り込み、ずぶ濡れになる。


「なぁ、光?他のやつらなんて、薄情なもんだろ?ただ男が男を好きってだけで今までのことなんか忘れてあぁやって振る舞うんだ。おかしな話だよなぁ?確かに周りからすりゃうちらが変なのかもしれないが、それであの仕打ちはなぁ…」

「瞬が僕のこと言わなきゃ、僕はあの生活を続けられたんだ。それなのに…」

「じゃあお前はそうやって周りに平気でウソついてこれからも生きていくつもりだったのか?」

「えっ…?」

「自分は女が好きですってウソつき続ける気だったのか?」

「だってそうしないと周りのみんなはそうやって生きてるんだもん…それが普通なんだもん!」

「普通?普通ってなんだよ!?男が女のこと好きにならなきゃいけないのか?じゃあそうじゃないオレは普通じゃないのか?」

「わからないよ…。でもウソをついてないと生きられないのは確かなんだよ!!」

「はっ、確かにそうかもな。ただの同性愛者ってだけで白い目で見るからな。他の奴らは。中でも、お前のバイト先の女がひどかったなぁ…。お前の話したらすごい軽蔑の目してたぞ」


由樹…ずっと今まで僕を支えてくれてたのにどうして?


「なんで…?なんでこんなことしたの?」

「こんなことって?」

「僕のことみんなにばらしたことだよ!」


「あぁ…こうやってやればお前がオレのとこに戻ってくると思ったからさ。こうすれば、お前のことわかってやれるのはオレしかいないだろ?」

「それってまだ僕のこと好きってこと…?」

「好き??お前が戻ってくれば、ビデオで売り専でもしてオレの借金返してくれるだろ?」


「!!…それだけ?それだけのために…?」

「当たり前だろ?お前みたいなめんどくさいやつ、もうこりごりだけどよ。まだ若いし、顔もなかなか可愛いから売れるわけよ」


僕は一体誰に必要とされてるんだろう?

いや、もう誰も僕のことを必要としていない。されているのは、顔と体、それだけだ。

疲れた…もう疲れたよ。



その時、瞬の後ろのほうから声が聞こえた。


「最低のクソ野郎だな」

その声と共に瞬は倒れた。


「心……」


瞬はゆっくりと起き上がり心のこと睨み付けた。

「お前か?この前の朝方、駅で光と一緒にいたやつだな?」

「だからなんだ?」

「お前はこいつの、光のなんなんだ?」


「心は友達だよ!」


瞬はその言葉を聞く暇もなく、心に殴りかかった。

心はそれをさらりとかわし僕の方にきて、頭をポンポンと叩いた。

「ちょっと待ってろ」


「てめぇ!よけんじゃねぇ!」

「よけんじゃねぇ?知るかバカ。お前、瞬だな?」

「だからどうした?」

「前に光にひどいことしといて、また自分のためにコイツを傷つけたんだな?」

「だから、どうした!?コイツは他の奴らから見放されたかわいそうなやつなんだよ!だからオレが代わりに面倒みてやるっていってんじゃねぇか!?感謝してほしいねぇ!」

「面倒をみる?ビデオにださせたり、売り専をさせることか?」

「あぁ!そうだよ!もうコイツはそれしか生きる道がねぇんだからな!」


「このカスが!」


心が瞬に蹴りをいれる。

いや、蹴りというとケンカっぽい感じがするが、そんな感じではなく何か格闘技をやっているのだろうか?綺麗に瞬の頭まで足があがり瞬を薙ぎ倒す。


「何しやがるんだ!?てめぇは光のなんなんだ!?ダチじゃねぇのか?!だったら口出しするんじゃねぇ!」

「ダチじゃねぇよ。光はオレの男だ。コイツに手ぇだすんじゃねぇ」


………えっ?何?今の?


「お前はコイツがどんなやつか知ってるのか?!とんでもねぇめんどくさいやつなんだぞ?」

「あぁ?知らねぇな?今日から付き合いだしたからよ」

「………はっ、ははははっ!バカなやつだ!だったら直にわかるだろうよ!一体どれだけめんどくさいかが!ぐわっ!!」


瞬の頭に心のかかと落としが炸裂する。

瞬はそのまま地面に倒れこんだ。まだ意識はあるようでこっちを睨みつけていた。


「てめぇは一年も光と付き合ってきたんだろ?それなのに、コイツの良さがわからねぇなんてホントバカなやつだ。光はオレの男だ!次にコイツに手出したら、今度はお前は……殺す」


そのまま瞬は意識を失った。


心が僕の方へ歩いてきた。バッグからタオルを出し、顔をふいてくれる。

さっきの言葉はホントなんだろうか?心も僕のことを好きでいてくれたんだろうか?


「なんでこんなことになったんだ?」


僕は心に今日一日あったことを半べそをかきながら話した。

母親が倒れたこと。父親に言われた言葉。

大学でのこと。

バイト先の由樹の話も…


「そうか…しんどかったろ?」

「…うん。ねぇ、心?さっき言ってたことホント?」

「あん?」

「僕のこと【オレの男だ】って…」

「あぁ。だめだったか?オレはお前のこと好きなんだけどな…」


僕は下を向き、涙を流した。雨のせいで涙も一緒に地面に流れてしまったが、今まで流した涙の中で、一番の嬉し涙だった。


「ううん…。僕も心が好き。ずっと前から心が好きだったよ」


すると心は、僕を優しく抱き締めてくれた。

そして小さな声で言ってくれた。


「家族や友達を失うのは辛いよな?でもこれからはオレだけは光の傍にずっといるから。オレがお前を守ってやるから」


その声は雨のせいで聞き取りづらく、ホントに聞き逃してしまいそうな言葉だった。

照れ屋の心らしい小さな小さな声だったけど、僕の胸に刻み込むように響いたんだ…


それからしばらく抱き合う僕ら。

ずっと目をつむってた。

雨なんか関係ないみたいだった。



しばらくすると心が、

「風邪ひくから帰ろうか?今日はうちに泊まっていけ」

「うん」


そうすると、心は後ろを向き

「ほら」

「何?」

「おぶってやるから」

「一人で歩けるから大丈夫だよ」

「いいから」

またいつものぶっきらぼうに戻っちゃった。

今度はいつあんなこと言ってくれるのかな?

そんなことを思いながら心に甘えた。

あったかくて広い背中。

やっぱり独りでなんか生きられないよね…


そして家に向かって歩きだした。

気絶した瞬の横を通るとき、僕は瞬をみた。

瞬も何かあったのかな?

【普通ってなんだ?】

その言葉が頭に残る。

きっと一生かかっても答えなんかでないだろうな。


そのとき瞬のベルトのあたりで、キラっと光るものを見つけた。


…えっ?何で瞬がこれを持ってるの?


それは由樹が壊したはずの鍵型のトップ。


「ちょっと待って!」

「どうしたんだよ?」

「おろしてくんない?」


僕は瞬に近寄りベルトのところについているトップをとった。

やっぱりそうだ。でもなんで瞬がこれを?


「そりゃオレがあげたやつじゃねぇか?なんでそいつが持ってんだ?」


僕は正直に話した。

壊れてしまったこと。由樹の知り合いに直してもらい今日返してもらうはずだったことも…


「ふーん」

「ごめんね…大事にするって言っておいて…」

「いや、それはしょうがねぇよ。………なるほどな。もしかしたら…」

「何がなるほどなの?」

「いや、何でもない。とりあえず帰るぞ。さすがに寒くなってきた」


?????

なんだかよくわからないけど、僕はまた心におぶられ家路につく。


心の家に着き、お互いシャワーを浴び、遅い夕食を食べた。

二人とも疲れていたせいか、食べながら寝そうな感じだった。


「もう眠いだろ?オレのベッド使っていいからもう寝ろ」

「心はどこで寝るの?」

「オレは床にでも寝るよ」

「……一緒に寝ようよ」

「………いいのか?」

「だって僕ら付き合ってるんでしょ?」

「まぁそうだけど…」


二人でベッドに入った。

少し狭かったけど全然気にならなかった。

「くっついて寝てもいい?」

「あぁ」



「明日からどうしよう」

「明日のことは明日考えろ。今はとにかく寝て体を休めるんだ。色々あって疲れてるんだからな」

「うん」


僕は明日の不安に押しつぶされそうになっていた。

でも隣に心がいる。

好きな人が隣にいるだけでこんなにも安心できるんだ。

僕は心の温もりを感じながら、眠りについた。

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