夢
僕は来週のバイトのシフトを見た。うん、空いてる。別に他に予定もないしいいかな?
「別にいいよ。じゃあまた同じとこでいい?」
五分後…
「りょうかい」
一週間後…
駅に着いた僕は待ち合わせ場所に向かった。
外に出ると霧雨が見える。
「あーあ、さっき降ってなかったのに…」
近いから別にいっか。
すると、向こうから心が走ってきた。
「わりぃ、待った?」
「いんや、今来たとこ」
「そっか。じゃあ行くか。」
雨の中二人で走った。
店に着くと前と同じくやっぱりお互いビール。
前回と違ってなんとなく話しやすい雰囲気だ。
「ねぇ?居酒屋で働いてるんでしょ?社員なの?」
僕が聞くと、
「いや、バイト」
「へぇ、僕今20才だけど、心は?」
「25」
「居酒屋って夜中まで大変だよねぇ」
「別に」
…会話が続かない。こんな会話で相手は楽しいのかな?
こっちは全然だよ…
「ちっとトイレ行ってくる」
心が席を立った。
「はぁ…なんか空気重い」
僕はケータイを開き、書きかけの詩の続きを書き始めた。
ホントに趣味の範囲だけど、僕にとっては日記のようなものでその時の気持ちを詩に書いている。
心が戻ってきた。
「メールか?」
「いんや、詩を書いてるんだぁ」
「へぇ、そうゆうの興味あんの?」
「そうゆうのって?」
「作詞とか」
「そんなたいそうなモンじゃないよ。ただ書くのが好きなだけ」
「ちょっと見せてくんない?」
「やだよ。恥ずかしいもん」
「いいじゃん。別に」
「じゃあ今日おごってくれたら見せてあげる」
「いいよ。じゃあ貸して」
うっ…マジで??もうなんだかんだで結構な値段いってるのに。。
「そんなに見たいの…?」
「いいから見せてよ」
「わかったよ」
僕は渋々ケータイを心に渡した。
…すごい真剣に見てる。そんなに珍しいものじゃないのに。つーかよく見たら、読みながら頷いてるし…
何に納得してるんだよ一体!?
「いいじゃんこれ。オレが曲つけてあげよっか?」
「えっ?心、そんなことできるの?」
「できるよ。オレ自分のバンドで作曲してっから」
「バンド??やってるの?」
「あぁ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!つーかそんな適当な詩に曲つけられるの?!」
「いける。結構まとまってるし、少し手直しすればつけられるよ」
「すげぇ!やってやって」「じゃあ少し直すか」
あぁだこうだ言いながら、一時間くらい話した。
その時間は、さっきの重い空気とは違いお互いが自然な感じだった。
「こんなもんだろ」
「へぇ、こんな感じになるんだぁ。すごいね心は!」
「別に凄くねぇよ。これくらいできなきゃ、人前で歌なんか歌えないし」
「じゃあいつかはデビューするの?!」
「あったりまえじゃん!いつかはみんなの前でオレが作った曲を聞いてもらうんだ!」
その時の心の顔は忘れない。きっと僕が今まで見てきた人の中でも一番がつくほどの笑顔だったから。
心の生き方やその笑顔に、少し僕の心は動いていた。