悲しみの果て
救急車で運ばれる心。
僕はパニックになっていたので救急車に同乗させてもらえず、冬司さんの車で病院へとむかった。
しばらくの間待たされる僕達。
すると医者が部屋からでてきた。
「先生!!心は!?心はどうなんですか!?」
「それは後で話します。桜井さん、意識が戻ったので顔を見せてあげてください」
僕達は言われたとおり病室へ入る。
「おぉ、心配かけてわりぃなぁ…」
なんだか苦しそうな心を見てたら涙が止まらなかった。
「大丈夫…?あんまり心配させないでよね…」
「大丈夫だよ。少し疲れただけだ。すぐよくなるからさ」
そう言って心は眠りについた。
「光君…先生のところにいこうや」
「うん…」
僕ら3人は先生がいる部屋にいき、席についた。
「さて…とりあえずあなた方は友達かなにかですか?」
「はい。そうです」
冬司さんが答える。
「そうですか…ご家族と連絡がとりたいんですが…」
「心の具合そんなに悪いんですか!?」
身を乗り出す僕に少したじろぐ先生。
由樹と冬司さんが僕を座らせた。
「あいつに家族はいません」
衝撃的な言葉を冬司さんが口にする。
「えっ…?それってどうゆうこと?」
「光君は知らなかったのか…じゃあ今説明するから…」
「兄弟もいないのかね?」
「えぇ。あいつに兄弟はいません。親は心が小さい頃亡くなったと聞いています」
「そうですか…」
「家族がいないと何かまずいことでも…?」
「これをあなたがたに話すのは酷かもしれません…」
「構いません!!僕にとって家族みたいなものですから!」
「………。わかりました。桜井さんは…心臓の病気なんです」
!!!
3人とも言葉を失った。
「ウソ…?だってすごく元気だったんだよ!?」
「だいぶ無理をしてたんでしょう。発作があれだけひどくなって意識がなくなるくらいまで放っておいたのですから…」
「助かる確率はあるんでしょうか?」
「手術をすれば…。ただその成功率も今見ただけでも10%に満たないかと…」
「10%…」
あまりにも低い確率にまた言葉を失う3人。
「手術しないとどうなるんですか…?」
「まだ詳しい検査をしてみないとわかりませんが、そう長くはもたないでしょう…」
……………
「家族がいないとそれを承諾することができないんですか?」
「はっ?」
「手術をするのに家族の承諾がなきゃダメなんですか?」
「いえ…そんなことありませんが。ただお金のこともありますから…」
「それだったら僕が払います!何年かかっても働いて返しますから!だから…お願いします…」
「………わかりました。今日はもうみなさんお疲れでしょう?明日にでもいらしてください。手術に必要な書類もあるので用意がありますから…」
「…わかりました」
僕らは病院をでて、心の家にむかった。
「これからどうしよう…」
由樹がつぶやいた。
「とりあえず今は心が元気になることだよな…」
「うん。そうだよね…」
「心…大丈夫だよね?僕を一人にしたりしないよね?」
「大丈夫だよ光君。心はそんなにやわじゃない。それから心は光君だけの家族じゃない」
「オレら4人みんな家族だろ?なっ?」
「うん…そうだよね!」
僕は涙を拭き、笑顔を見せた。
家につくと、心がいないことがとても不自然に感じる。
心が隣にいることがこんなにも当たり前になってたなんて…
スタジオから持ち帰った僕と心のギター。
並べるとなぜかとても滑稽に見える。
僕は心の言葉を思い出した。
『明日のことは明日考えればいい』
とにかく今は起きてると考えることがマイナスなことばっかりだから、眠ることにした。
次の日、病院へ向かう僕。
全然眠れなかった。
当たり前だ。あんなことがあった後で眠れる訳がない。
そのせいか体が重く、なんだか頭がもやもやする。
病院に着き、手術に必要な書類を書いた。
「体調をみて、手術をしますので。。」
「よろしくお願いします…」
先生の部屋をあとにし、心の部屋に行く。
心は薬が効いているのか眠っていた。
「心…僕のこと独りにしないでよね?」
そう言って僕は心の手をぎゅっと握り締めた。
「すいません。検査の時間ですのでいいですか?」
「あっ、はい」
看護婦さんに言われ僕は病室をでて病院にある庭に行った。
庭にあるベンチに座り、色々思い出していた。
心と出会ったときのこと。心と初めてキスしたときのこと。
すべてが遠いようで昨日のような出来事。
僕は歌を唄ったんだ…
心との思い出の唄。
これからも心と唄っていきたい。
心の隣で
ずっと一緒にいたい。
そんな想いを込めながらしばらく唄ってた。
庭にいる患者さんや付き添いの看護婦さん。
みんなが僕の唄を聴いていた。
「あっ!柊さん!ここにいたんですか!?」
さっき心の病室にいた看護婦さんが僕の方へ走ってきた。
「どうしたんですか?!」
「桜井さんが検査の途中で急変して緊急オペになったんです!」
なんだか嫌な予感がした。
急変?
緊急オペ?
すべてを悪い方向に考えてしまう。
手術室の前で待つ僕。
由樹と冬司さんも駆け付けてくれた。
外は雨が降っていて、昼間なのに薄暗かった。
「心…なんかいつも僕らが大変なときは雨が降ってるね…でも大丈夫だよね?ねぇ、心?」
何時間経っただろうか?
手術が終わり先生がでてくる。
「先生!手術は!?」
首を横に振り、暗い顔をする先生。
「そんな…」
僕は悲しみの果てにいた。こうゆう時は悲しすぎて涙もでない。
何もかもなくした僕は目の前の景色が歪んで見えた。