半年
練習初日、僕ら4人はスタジオを借りミーティングを始めた。
「由樹さんはピアノやってたんだよなぁ?」
「うん。そうそう☆」
「でもピアノはちょっと無理だからキーボードをやってほしいんだけど」
「OK!!やってみる!」
「最初は大変かもしれないけど、よろしくな」
こうして役割分担が終わる。
由樹はキーボード、冬司さんはドラム、心はベース、僕はギター兼ボーカルだ。
あと歌によってボーカルとコーラスがローテーションするが、基本は僕に決まった。
「それで最初に歌うのだけど、今まで作ったやつから選ぶか、新しく作るかどっちにする?」
「今までって言ったってオレたち知らねぇぞ」
「そういえばこの二人は聞いたことないんじゃない?」
「そういやそうだったな」
「じゃあとりあえずどんなのがあるか聞かせてよ☆」
冬司さんと由樹は心が持ってきた楽譜から1つずつ選ぶ。
「じゃああとこれもやるか」
心が選んだのはあのライブでやった曲【柊】だった。
「じゃあとりあえず由樹から選んだやつね」
心はギターを弾き始める。僕は人前で歌うことに少し慣れたのか緊張もさほどなかった。
少し淋しいギターの音色。それにあわせて僕が歌う。
歌が終わり、由樹と冬司さんを見ると口を開けたまま僕達を見ていた。
「光…すごいねぇ…」
「あぁ…ありえないくらいうまい…」
「そうかな…?」
「これだったら確かにスカウトされてもおかしくないね…」
「オレが選んだやつはあとでやってもらうとして、おまえらが選んだやつやってくれよ」
僕と心は顔を見合わせ、互いにうなずく。
この曲はスカウトされるきっかけであり、それと共に別れを思い出させるものだった。
心は再びギターを弾き始める。
切ないメロディーがスタジオを包んだ。
僕はまたそのメロディーに乗るように歌った。
由樹と冬司さんはただ無言で聴いていた。
「どうだった?」
「うん…なんか泣けてくるね…」
「そうだな。詩と曲がすごく合ってる。いっそのことこれにすればいいんじゃん?」
「うん。僕もこれは好きなんだ。心はどう思う?」
「うん……これもいいと思うんだ。だからこれはこれで、あともう一曲新しくつくろう。明るい曲をさ」
「そうだな…最初は明るい曲でいくのも悪くないよな!」
「光?書けるか?」
「うん…頑張ってみるよ」
「じゃあ最初はとりあえずこの【柊】を練習して、新しいのが出来しだいそれもやっていこう!」
「よっし!じゃあ頑張ろう☆」
「やったるか!!」
「っと…その前に…まだそれぞれのパートごとの楽譜ができてないから、次までに作ってくるよ!」
「じゃあ今日は練習できないのね…」
「まぁしょうがないだろ」
この日はとりあえず解散になった。
半年という決められた時間。
ただなんなとく半年過ごすのと、目標があって半年をそれに費やすのでは時間の流れがまるで違った。
一ヵ月近く経った頃、由樹はバイトをやりながら練習をし課題である【柊】をほぼマスターし、冬司さんは仕事をやりながらも由樹と同じくマスターしていた。さすがに前にやっていただけあって最初はきつかったらしいが、勘をとりもどすと初めの苦戦がウソだったように覚え始めていった。
冬司さんはこれからのためにと一ヵ月前に仕事をやめると会社に退職願をだし、バイトも見つけたらしい。時間もとれるようになったからもっと練習できるみたいだ。
心も自分のパートを覚え、違う曲のみんなの楽譜を作っていた。
僕はというと、曲は弾けるようになったものの新しい詩が浮かんでこない。
「ねぇ、心?明るい詩ってどんなふうに書けばいいのかなぁ?」
僕と心はいつもの居酒屋でビールを飲みながら話していた。
「光はどんな時にすっげぇ楽しい!って、大笑いとかして今が一番だぁ!って思う?」
「うーん。。4人でいるときかな?」
「そうゆうイメージだよ!それを言葉にすればいいんだよ!」
「そっかぁ…」
「あんまり時間もなくて大変かもしれないけど頑張ろうな」
頑張ろうな…か。
こうゆう時に頑張れって言われるとプレッシャーになったりするけど頑張ろうなって言われると一緒にって感じがして、不思議と頑張れるんだ。
家に帰り心が楽譜を書いてる横で僕は詩を書き始めた。
最初に4人で飲んだときのことや、一緒に練習したときの楽しいこと。
それを頭にイメージしながら一文字ずつ書いていった。
「できたぁ!!」
「おっ、早かったな」
書き始めてから15分。
今まで書いた中でも1.2を争う早さだった。
「どれ、見してみ」
心が読み始めると、ドキドキしてきた。
初めて読んでもらったときと同じような感覚でドキドキしながらもなんか恥ずかしいようなそんな感じ。
「うん。これなら直すところないな。文字数もこれなら平気そうだし」
「ホント!?」
「あぁ。この詩ならかなりいい感じの曲がかけそうだよ」
「よかったぁ…。でも不思議だなぁ。あんだけ悩んでたのにすぐ書けちゃったから」
「そんなもんだよ。きっと書きたいことがイメージとして固まったからだ。それはすごく大事だから忘れちゃだめだぞ」
「うん!」
それから何日か経ち、スタジオでの練習の日。
「じゃあ今日は新曲の練習にはいるぞ!!」
「マジで!?」
「できたんだぁ?☆」
「とりあえず最初は弾いてみるから、聴いてくれよ」
僕も曲ができたことを知らなかったから、少しドキドキした。
心がギターを弾き始める。
それは今までにない曲だった。
きっと聴いていた3人がそう思ったに違いない。
心の歌とギター。
それだけで今まであった辛いことを消し、これからあるかもしれない楽しいことをその曲で味わえるようなそんな感じの歌だった。
心は僕の歌声がすごいって言うけど、心の作曲の才能に比べたら全然かなわないって思ったんだ…
「すごぉい☆」
「これすげぇいいじゃん!」
「うん!僕の詩がこんなに素敵な曲になるなんて…」
「私たち4人とも何かに包まれてるようなそんな曲ね…」
「じゃあこれで決まりだな!」
『おぉ!!』
「それで曲名は??」
「冬司、いい質問だ!まだ決まってないのだ!(笑)」
悩む4人一同…
「【光】ってのはどうだ?」
心が言った。
「それいいね☆そっか!さっきはなんて表現したらいいかわからなかったけど、光に包まれてるような感じだったね☆☆」
「決まりだな!」
「うん!」
新曲も決まり、僕達4人は必死で練習した。
僕も肩の荷が降りたのか、それまでと比べものにならないくらいの上達ぶりで心がすごく驚いてたくらいだ。
そして約束の半年の一ヵ月前。
「もうほぼこれで完成だな」
「そうだね!僕も歌いながら弾いててもミスあんまりしなくなったし!」
「だから言ったろ?光なら大丈夫ってさ!」
「いや心がいてくれたからだよ。だから頑張れたんだ…」
「おーおー、この二人はみせつけてくれちゃって(笑)」
「いいじゃない☆それだけこの二人が仲がよくて愛し合ってる証拠だよ☆」
「由樹ってばからかわないでよぉ!ねぇ、心?………心?」
ばたっ!!
突然心が倒れた。
「心!?どうしたの心!?」
僕は、急に倒れ気を失った心を大声で呼び掛けた。
「光君!むやみに動かすな!………意識がない…由樹!!救急車だ!」
「うっ、うん!!」
「心!!しっかりしてよ!心!心ってばぁ!!」
今まで元気だった心が急に倒れ、僕はパニックになる。
もうすぐで心と出会ってから三年が経とうとしていた…