崩壊、孤独
ライブも無事終わり、会場からでた僕ら。
「よぉし!じゃあ今日はみんなでぱーっと飲みに行くか!!」
「おぉ!!」
返事したのは僕だけ。
他のメンバーは何とも表現できないような顔をしていた。。
「オレはいいよ。なぁ?」
「なんか疲れちゃったから今日は帰るわ」
僕と心を残して帰るメンバー達。
何かあったのだろうか…?
「なんだよノリわりぃなぁ…じゃあオレら二人だけでもいくか!」
「そうだね!」
僕ら二人はいつもの居酒屋で飲みまくった。
喜びが溢れて、とにかくいくらしゃべってもしゃべり足りない。
そんな中、心が一つの提案をしてきた。
「なぁ、光?お前もギターやりながら歌えばよくねぇ?」
「う、うん。。でもまだ全然ひけないよ?」
「それは練習すればいいことだし!それに今すぐってのは無理だから当面は歌うだけ。できるようになったらギターもやればいい」
「うん…できるかなぁ?」
「大丈夫だよ光なら。それにオレがついてるし!」
『オレがついてる…』
心はどうゆう意味でいったのかはわからないけど、弱気になってる僕を後押ししてくれる言葉だった。
「じゃあ家の練習に加え、みんなで集まるときも練習しなきゃだな!」
「うん!頑張るよ!」
その日、僕と心は幸せの余韻に浸りながら眠りについた。
メンバーで集まる練習の日。
僕は心に買ってもらったギターを持ち、いつも練習するスタジオへ向かった。
他のメンバーの姿はなく、とりあえず僕の練習を心が見てくれていた。
「ここはもっと強く押さえて…そうそう」
「うん」
心は不器用な僕に丁寧に教えてくれた。
「心。ありがとね」
「なんだ急に?」
「うん。心がいてくれたから、今の僕がいるからさ」
「そんなことねぇよ。光だって頑張ったんだ。ちゃんと結果はでたじゃん!」
「それも心と出逢わなかったら、こんなに頑張ることも知らないまま生きてたと思う」
心は突然僕を抱き締めた。
「オレこそ礼を言わなきゃだよ。お前がいたからここまで来れた。お前に出逢わなかったら、オレは…オレは…」
「心…」
僕も心を強く抱き締めた。心の気持ちに応えるように…
「光…ここでキスしてもいいか?」
「えっ!?ここで!?」
「今誰もいないし、いいだろ?」
「うん…いいよ」
僕らはそっとキスをした。
ガチャガチャ!!
扉のノブが回る音に反応し、僕らは即座に離れた。
残りのメンバーがみんな揃って現れた。
「よぉ!遅かったな」
「はぁ?時間通りだよ」
時計を見ると確かにそうだった。
無言のままそれぞれスタンバイを始める。
嫌な空気が漂っているのがわかる。
「あっ!そうだ。光にもギター教えてるからできるようになったらこいつも使うから、そのつもりでな!」
みんなの手が止まる。
「あぁ、そうだよなぁ。光のおかげでオレらデビューできるんだもんな」
「そうそう。お前がいなくてもオレらの力でなんとかなったのに、横からしゃしゃりでてきやがって…」
…!!
「おい!なんだその言い方は!!」
心が立ち上がり激怒する。
「お前がこんなやつ連れてくるからよ…」
「あぁっ!!?」
心はメンバーに近寄り、凄まじい勢いで睨み付ける。
「てめぇらマジで言ってんのか!?おまえらの演奏があるから、こいつが歌えるんじゃねぇか!!」
「じゃあオレらはこいつのためにやってんのかよ!だったら他のやつ探せよ!オレらはオレらのためにやってんだからよ!!」
「んだと!こらぁ!!」
殴りかかりそうな心を僕は必死で止めた。
瞬とケンカしたときも心は相手に触らせずに勝ったくらいだ。
下手したら仲間同士で乱闘が起きるに違いにない。
いや、もうその一歩手前まで来ていた。
僕はある決断をする。。
「心!やめてよ!僕がいなくなれば済むことなんだから!」
「そんなことねぇよ!」
「そんなことあるんだよ!!!」
僕の声の大きさに驚いたのか、全員が僕を見た。
「みなさん、皆さんご迷惑かけてホントにすいませんでした。僕やめますから…いなくなりますからケンカしないで仲良くやってください」
そして僕は深く一礼をし、スタジオを後にした。
外にでて、しばらく歩くと知らないうちに涙がこぼれてきた。
まただ…
また大事な人の生活を壊してしまった。。
僕がいると誰かに迷惑がかかる…
もう心の傍にもいられない。
心…ごめんね…ホントにごめん…
涙を拭き走りだそうとした時、後ろから心の声がした。
「心…」
「ハァ、ハァ、光…お前が…やめる必要ねぇよ!」
「だけど僕は!心の大事な居場所を壊したんだ!好きな人の居場所を壊したんだよ!もうあそこへは戻れないよ…」
「…だったらオレもあそこへは戻らない!」
「はぁ!?何言ってんの?!歌はどうするの?!これからって時なんだよ!そんなこと簡単に言わないでよ!!」
「オレの居る場所は…オレの居場所はお前なんだよ!お前の傍なんだよ!!」
心は僕を強く抱き締めた。
人が周りにいるにも関わらず涙を流す僕を…
「だから壊したんなんて言うな!光は何も壊してない!壊してないんだから…」
僕らは人目を気にせず抱き合った。
周りからはザワザワと話し声が聞こえてきたが、そんなの関係なかった。
まるで二人だけの世界に入ったようだった。
どれくらいこの状態でいたんだろう?
心が離れ、こう言った。
「これからのことは、また考えればいい。とにかく今は家に戻ってろ」
「心は…?」
「オレは戻って光のギター取ってくるから、家で待ってろ。いいな?」
「うん」
あまりの出来事に大事なギター置いてきちゃった。
心はそのまま振り返り、スタジオへ向かって走っていった。
僕は一足先に家に戻り、心の帰りを待っていた。
しかし、一時間経っても二時間経っても帰ってこない。
僕は心のケータイに電話した。
トゥルルルル…ガチャ!
ツー、ツー。
切れた。
どうしたの心?
僕はいてもたってもいられなくなり、スタジオへ向かった。
スタジオの入口にくると、演奏が聞こえてくる。
メンバーはまだ練習してるみたいだ。
僕は深呼吸をし、ドアを開けた。
みんな一斉に僕を凝視し、演奏を中断する。
「なんだ?まだ何か用か?」
「心がここに忘れ物とりにきて、まだ家に戻ってないんです…。すぐ帰るって言ったのに…」
するとメンバーみんなが互いに顔を合わせ、大笑いし始めた。
「お前何言ってんの?心が家に戻るわけねぇじゃん!」
「えっ??どうゆう意味ですか…?」
「どうゆう意味も、忘れ物ってもしかしてお前のギターか??」
「あ、そうです」
「それなら心が捨てに行ったよ」
えっ…?
それって…待って。意味わかんない。
「お前心のこと好きなんだってな?」
「えっ…?なんでそのことを…?」
「そんで心と付き合ってるんだろ?」
「はい…」
メンバーはまた笑い始めた。
「お前バッカじゃねぇの?心が男と付き合うわけないじゃん!騙されてんだよ、お前は!」
メンバーのその言葉に僕は耳を疑った。
「大体心には彼女がいるんだよ!お前ただからかわれてるだけなのわかんなかったのか?」
そんな…そんなはずない…
「さっきもお前心に電話したろ?心言ってたぜ。『あぁ、しつけぇな。そろそろ遊ぶのやめるか』っつって、電話切ってたからな。さっき電話切られただろ?」
ウソだ…ウソに決まってる!
「心もそろそろめんどくさくなったんじゃねぇの?だからお前のギターもいらねぇから捨てにいったよ」
ウソ…
僕はそこに座り込んだ。
そして自分でも気付かないくらい大量の涙を流していた。
「座ってんじゃねぇよ!ホモ野郎!さっさと消えろ!」
僕はその言葉にショックを受け、立ち上がりスタジオの扉を開けようとした。
「おい、ちょって待てよ!オレたちに謝りもしねえでいっちまうのかよ!?」
「えっ…?」
「お前はオレたちの気分を悪くしたんだ。謝ってもらわなきゃ…なぁ?」
「ウッ…気分を…ヒック、悪くさせて…ヒッ、すいませんでした…」
『あーはっはっはっは!!もう二度と来んなよ!気持ちわりぃから!』
メンバーは泣いて笑っていた。
僕はそこから逃げるようにしてでてきた。
もうホントに心の家に戻れない。
心…。信じてたのに…
…もう誰も信じない…
…もう独りでいい…
…信じたら裏切られるだけだ…
…誰も信じるもんか…
誰も………誰も………