表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

へーんしん。とぅるるるる♪(就寝中)

 楽しいティータイムが終わり、俺は帰宅の途中だ。

 日はすっかり沈み、青色掛かった街灯が新興住宅街の真新しい真っ直ぐな道を照らしている。

 何の変哲もない日常の風景…だとおもう。

 あんなイベントの後なんだから、短い距離の帰宅路をスキップで帰ってもいい…と思う。

 …だが何だろう、この心の奥底にわだかまる変な気持ち…。


 ミント(自称)生葉入りハーブティーとクッキーを優雅に頂いて、五月の寒い夜空の下でお腹と胸はぽっかぽかで大満足。

 それにティータイムを御一緒したのが亜麻色の髪と碧の瞳の超美人。(おまけに巨乳♪)

 場所は彼女の部屋で、そんでもって彼女とは今日から親友で、会話は弾みに弾んでそれはそれは楽しい一時を過ごした。

 そんでもって彼女の家の玄関で「あの…今日はとっても嬉しかったです♪またお茶を飲みに来て下さいね♪じゃあまた明日♪」とリーナさんの今日一番の笑顔でお別れした。

 俺に対する親密度が上がったのは間違いないだろう♪

 彼女に友達はおらず、目下『リーナさんの心を射止めるグランプリ♪』は俺がぶっちぎりで独走状態だ。

 …まあ、親友という形で落ち着いてしまって“良い人”止まりってオチがあったりするかもしんないけど、そこら辺は俺のリビドー…もとい、熱い思いで突き抜けてみせる!


 などとそんな事を考えながらも、リーナさんの家から隣の俺の家までの短い距離を歩きつつ、ここまでの情報を分析する俺のコンピュータ頭脳(自称)。

 だが、帰り着いた葛葉家玄関の前で、避け続けていた事実と直面せざるをえなくなった俺、葛葉 匠(16)。

 玄関の前でピタリと止まり、ちらりと左手に下げたエコバックを見る。リーナさんから手渡された“お土産”だ。


 …あー、取り敢えず問題点を箇条書きにして整理しますか…。


1・リーナさんの言動が少々(?)ズレている。(例・朝のフリーメ〇ソンか黒魔術士かという格好が普段着だ、持ち物が妖しい、育てている植物が一部変、等)

2・あくまで予測だが、自身に危害が加わると性格(人格?)が変わるらしい。(朝には俺の手を握っていたから男性に触られたら変わるというライトノベル体質ではない…と思う)

3・性格(人格?)が変わったリーナさんは、妖しげな力を持っている。それも超常現象とか心霊現象というレベルでないくらい。…そう魔法とか魔術とか言われてもいいくらいの現象だった。(…よく考えたら、さっきリーナさんの部屋で俺が暴走していたら、亀家君の二の舞になっていたのか…。……理性をしっかり持とう)


 ……うん、非常にバラエティーに富んだ問題達だ。しかも他にも問題点がどんどん出てくるパンドラの箱状態。最後に希望が残るかさえも不明。

 でも心底惚れちゃったのよね…。

 …さてどうしよう?彼女との仲を進展させようとしている俺はどうすればいいのだろう?

 …そうして最後にして最大の第4の問題点。

 俺はこの左手の袋をどうしたらいいのか?


 …そう、この左手の袋こそ、四つ目にして最大の問題点だったりする。

 …中身は二十日大根みたいな物だそうだ。

 …何故文中に“~みたいな物~”というと、…その、…動いているのだ、…袋の中で…、モゾモゾと…。

 ………いやいや、俺だってリーナさんの「匠さん、どうぞこれ♪私がプランターで育てた二十日大根なんです♪お口に合うか解りませんが、宜しかったらご家族で召し上がって下さいね♪」という言葉と笑顔を信じたい。信じたいけどさ…。

 …だけどあり得ない位動いているんだよね、…二十日大根…。


 …捨てようかな…?


 いやいや待て待て!リーナさんとはお隣さんという間柄。

 もし俺が二十日大根を捨てたとして、リーナさんと俺以外の葛葉家の人間とが顔を合わせて「この間の二十日大根はお口に合いましたか?」とか言われてしまって、父さんか母さんか鈴か誰が最初にリーナさんと出会うかは解らないが、「…はい?」とかいう表情をしようものなら…。


 ぶるぶるぶる!!いかん、いかんぞ!!そんな事になったら俺の心証が悪くなって、下手したら『リーナさんの心を射止めて愛欲にマミレ…もとい、青春の一ページを共に過ごそうグランプリ♪』から脱落してしまうではないか!!

 …そうだ!これをそのまま母さんに渡してリーナさんから貰った二十日大根だと正直に言おう!

 それなら母さんが「あらやだ。こんな動いている二十日大根なんて食べられないわ。捨てましょう」ってな事になって、日本人的な事無かれ主義な態度でリーナさんにも「この間の二十日大根、美味しく頂きました♪有り難うございます♪」っとか言うに違いない!!

 この問題を解決出来たなら他の三つの問題は後回しにしても問題ない!!!

 そうだそうだ、そう思おう!!!

 ならば、俺の今とる行動は一つ!!我が家の玄関を開け、台所に突入することだ!!

 俺は勢いよくドアを開けた。


「ただいま!!」










 時計の針は八時前を示している。場所は葛葉家の明るい食卓だ。我が家の掟、『家族全員が揃って夕食の食卓を囲む』が行われている。

 一般的には遅い時間かもしれないが、今日は父さんが仕事の都合で帰宅が遅くなったためこの時間からの夕食となった。


「…匠、箸が止まってるぞ。飯を食べながら考え事をするな」


「そうよ。早く食べてちょうだい。

片付かないじゃない」


「どうせ、お隣のお姉さんの事考えているんでしょう。

…気持ち悪い…」



 お銚子二本の晩酌が終わり、目の下を若干朱に染めてご飯茶碗を手にする父さん、さっさと食べ終えて湯飲みのお茶を啜る母さん、目の前の皿を粗方食べ終えた状態でボソリと毒づく鈴、それぞれの言葉だ。

 俺はというと、夕飯には手を着ける事が出来ず、冷えてしまったご飯茶碗と箸をを持って固まっていた。


「…何故だ…」


「「「は?」」…気持ち悪い…」


 やっとこさ俺が絞り出した心の呟きに、葛葉家三人は頭の上に疑問符を浮かべた。


「…匠、悩みがあるなら父さんに相談しなさい」


「そうよ、母さんも相談に乗るわよ?」


「お兄ちゃんに悩みなんかあるわけないじゃん。どうせお隣のお姉さんにフられたんでしょ。

…気持ち悪い…」


 …父さん母さん、ありがとう。

 だが、鈴よ。俺はお前に何をしたというんだ?何故そんなに俺を気持ち悪がる?反抗期か?反抗期なのか?

 …いや、今はその事は横に置いといて、取り敢えず問題は俺の目の前の晩飯だ。晩飯自体は問題は無いんだが…。

 メニューは日本人のソウルフード白いご飯、豚肉料理ぶっちぎりナンバーワンである豚カツ、薄揚げと椎茸の味噌汁といういたって普通の物だ。

 何が問題なのかというと豚カツの乗っている皿が問題なんだ。…あの、…細かく言うなら豚カツの横に添えられてるキャベツの横の“モノ”が問題なんだ…。 その…、なんだ…、あの…、動いているんだ…、彩りに添えられたの例の“二十日大根”のスライスが…。

 俺はまだ何も付けていない箸を静かに置く。


「…母さん」


「何よ、改まって気持ち悪いわね」


 母さん、貴女まで俺を気持ち悪いと言うんですか…。いや、それより今は確認しなければ…!


「母さん、貴女の目は節穴でしょうか?」


「何よ匠!?」


「反抗期か?」


「お兄ちゃん気持ち悪い」


 全員の驚愕の目が俺に向く。

 …いや、鈴は俺を見ようともせずに、最後の一口である二十日大根とキャベツの千切りを箸で摘んで口に放り込んだ。

 …わ~、鈴の箸で摘まれた瞬間、二十日大根が活きた小魚のように動いていたよ~!!!(泣)


「その二十日大根のことだよ!!」


 俺は半泣きになりながら俺と父さんの皿に残った二十日大根のスライスをぴぴっと指さす。

 だがこれは、我が家で一番やってはいけない行為の一つだったという事を、俺は混乱の余りすっかり忘れていた…。

 途端に父さんの顔色が曇り、声のトーンが1オクターブ下がる。


「…匠!お隣さんから頂戴した食べ物を指さすな…!」


「ももも申し訳ありません!!ごめんなさい!!」


 混乱のあまり、俺は父さんの逆鱗に触れてしまったようだ。必死に頭を下げて許しを請う。


「…解ればいい。早く食べなさい」


 父さんは何とか許してくれたようだ。


 ほっ…。


 俺は安堵して箸を掴む。


「あらあら」


「…気持ち悪い…」


 母さんは体を縮こまらせて晩ご飯をかき込む俺を見て小さく肩を竦めて洗い物をするために立ち上がり、鈴はそんな俺を見て食後のブドウジュースを飲みながら気持ち悪がった。


「旨いじゃないか、この二十日大根。

何が問題なんだ、匠」


 父さんが豚カツと二十日大根を一緒に箸で摘みながらそう言った。


 …本当だ♪美味しいや♪


 もぐもぐ、ぴちぴち、もぐ、ぴちぴち…


 あれ?


 もぐもぐぴちぴち、ずず~っ…


 何か重要なことを忘れているような…。


 もぐもぐ…


 何だっけ?


 がつがつもぐもぐ、ずるずるずる~っ…


 は~、美味しかった♪ごちそうさま♪


 両手を合わす俺の目の前食卓には、綺麗に食べ尽くされたご飯茶碗と皿と汁椀とご飯茶碗の上に置かれた箸が有った。










 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!食っちまった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!


 俺は心の中で絶叫した……。


 アーメン……。


 ずず~っ…


 御馳走様でしたの格好から、いきなり胸の前で十字を切る俺を、不審そうに見ながら父さんは何も言わずに食後のお茶を啜っている。

 …こうして葛葉家のとある日の食卓は和やか(若干一名除く)に終わった。










 …時は過ぎ、時刻は午後十時過ぎ。場所は俺の部屋だ。

 …あの後トイレで夕食を吐こうとしていたら父さんに見つかってグウで殴られた…。しかも左右の連打ときたよ…。

 父さんのお爺ちゃん、俺から見たら曾祖父にあたる人が旧日本帝国海軍の軍曹だったらしく、礼儀作法に五月蠅く特に食べ物を無駄にする事は許されなくて、それはそれは厳しく躾られたらしい。

 その古き思想は葛葉家では現役で生きており、そのような鬼の躾がなされたわけで…。


 …ほっぺた痛い…。


 夕食から二時間近く経ったが、幸いにも俺の体調にも家族の体調にも異変はない。

 …何だか今日一日はぐっっっ…と疲れた…。

 風呂も入ったし歯も磨いた。寝る準備も万端だ。今日の従業の復習と明日の授業の予習も済ませてある。

 後は寝るだけ…なんだが、ちょいと思うことがあり、カーテンをめくり外を見る。

 星明かりの下、広大な庭の向こうに見えるフォルムング邸。その二階部分の一室に明かりが灯っているのが見える。

 彼女はまだ起きているのか…。ほのかに沸き上がるフワフワした物が俺の胸の内から溢れ出す。

 …だか同時に脳裏に過ぎるのは今日の不思議な出来事の数々。

 俺はリーナさんに思いを伝える事が出来るのか?そして、それをやってしまった場合の弊害は?

 …普通、高校二年の男子が恋愛に悩む場合に浮かぶ不安な点とは若干ズレた心配事ばかりが、頭の中に浮かんでは消えていく。

 …でもリーナさんに対する欲ぼ…もとい、熱き想いは本物であると断言もできる。

 十六年と数ヶ月生きて来た中で一人の女性の心を射止めたいと思ったことがあったろうか?いや、無い!

 ならばそのリビドー…ではなく、心の思うがままに行動するのみ!!

 納得した俺はリーナさんの部屋の灯りに投げキッス(誰も見てないからいいの!)をかますと、灯りを消し布団に潜り込んだ。








 …頭と背中と尾てい骨が痒痛い…。

 枕元の目覚ましに手を伸ばして布団の中の顔の前に持ってくる。


 …三時半…。

 何だよ…、もう一回寝よ♪


 カチャリッ…


 もぞもぞと布団にくるまり直す俺の耳に、部屋のドアの開く音がする。

 ビクッ!となって反射的にドアの方を見てしまった。

 重要だから三度言うが、俺は小心者。当たり前のように、お化け妖怪幽霊が怖い。

 反射的に見てしまった俺の目に映ったのは、…お~ば~け~っ!!!?



 …ではなく、鈴だった。



 …んっ?何だか様子が変だ。息が荒いし、暗がりでも解るくらい頬も紅潮している。

 …風邪でもひいたか?


「どうした、鈴。具合悪いのか?」


 だが、部屋の扉を開けたまま鈴は突っ立っている。


「…鈴?」


 再びの俺の問いかけに鈴は反応しない。…あれ?どうした?熱で意識が朦朧としているのか?


「おい、鈴!大丈夫か?!」


 ベットを飛び降りて駆け寄った俺の両肩を鈴がガッシリと掴む。


 …?!痛、痛たたた!!?


 両肩に走る痛みに膝を付いた。

 …何で小学生に力負けするんだ!?ぐぅぅっ…、だ、駄目だ、立てないし肩を掴む小さな両手も外せない!!


「おっ、おい、鈴!

離せよ、痛いって!」


 そこでドアを開けてから初めて鈴の顔に表情が浮かんだ。



 愉悦



 …違う!此奴は鈴じゃない!


 俺は本能でそう感じた。耳の奥からパソコンのエラー音に似た音が聞こえる。

 …これは前にも聞いた事がある音だ。

 俺が小さい頃、サファリパークで窓越しにライオンを見た時に聞こえた音だ…。

 …だが今回はそれの何倍、いや何十倍もの恐怖を感じる…。

 …これが本能の警鐘ってやつか…?…俺、死ぬのか…?


「ククッ…、一丁前に怯えておるのか。

現界して初めての“精”の匂いを辿ってくれば、“憑かれかけ”の小僧が一人…。

久しぶりの人界に餓えを抑えられぬとは…。

我も焼きが回ったものよ」


 鈴の姿で“それ”は俺を見下して邪悪な笑いを口元に浮かべた。

 声は鈴のままなのに、それに含まれる威圧感はとんでもない。その証拠に俺の膝が笑ってしまって止まらない。喉もヒキツって声が出ない。恐怖であらがう事さえしまっている。


「…まあよい。

現界して最初の食事だ。

ククッ、極上の快楽の中で枯れ尽くすまでしゃぶってくれようぞ♪

貴様のような者に“憑く”者は下等な存在であろう。

貴様同様、我が魔の贄にしてくれようぞ」


 まさに蛇に睨まれた蛙。俺は腰を抜かしてその場にヘタり込んだ。

 見上げる鈴の口元でチロリと赤い舌が蠢く。更に焼け付きそうな熱い吐息を吐き、鈴の手が小学生らしい可愛い動物柄のパジャマのボタンに掛かる。

 小学生なのにその仕草が艶めかしく、恐怖に震えるているはずの俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「ククッ、自分の妹に欲情するのか…。

何千年経とうとも、人間の業の深さは変わらぬ。

…いや、寧ろ業は深まっていると言えるかの…」


 パサッ


 鈴のパジャマの上着がいやに大きな音で床落ちた。


 …ヤバい…!!


 ゆっくりと近付いてくる鈴の艶々としていながら妖しい雰囲気の唇とその奥に並ぶ真珠のような歯列を見つめながら、俺は頭の中で絶叫していた。


 あーーーーーーーーーっ!!!!!!!


 …プツリと意識が途絶えた。









 …朝だ。


 …。


 ……。


 おわっ!!!!?


 飛び起きて辺りを見回し部屋のドアを見る。俺のティーシャツの乱れはない。鈴のパジャマの上着も落ちていない。何もない何時も通りの部屋。


 …よかった~。


 しっかし、何とまあ寝覚めの悪い夢を見たもんだ…。よりによって鈴に“喰われる”夢を見るなんて…。

 …欲求不満なのか、俺…?

 溜息を吐きながらガリガリと頭を掻く。

 …?何だか抵抗がある。…何だ?

 ちくちくする…。…角…?俺の頭に角…?


 …はぁーーーー!!!?


 何でまた?!あれ?!何で?!あら!?

 慌てた余りや〇き節など一節踊ってみることにする。


 〇す~き~♪あ~ちょんちょん♪


 …。


 おーまいがーーー!!!?


 そんな事をやっても現状は変わるわけはなく…。

 …そうだ!!他に異変は?!他に異変はないのか?!!

 シャツと短パンとパンツを脱ぎ去り体中をまさぐる。







 …結果を発表しまーす。

 頭に二本の角、背中に蝙蝠の羽根、お尻にアニメの様な矢印型の悪魔の尻尾。

 アレだ、アレ。悪い時に頭の上に出てくる天使と悪魔の悪魔の方だ。

 …うん、完全に悪魔だ。羽根も尻尾も自分の意志で動かせる…。あは、あは、あはははっ…、も、もう笑うしかないや…♪

 葛葉 匠(16)、一晩寝たら悪魔になってました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ