お友達になりました♪
俺は床に散らばった荷物を片付けている。
先程リーナさんが埋まっていた段ボール幾つかが開いて、中身が散乱していたのだ。
基本綺麗好きではない俺なんだが、他人様の家の中を不作法にキョロキョロと見渡すわけにもいかず、かといってぼけーっとしているにも知らない場所では何だか居辛い。
…小市民な俺。
だが、片付けを始めた俺は今、非常に困惑している。
その原因は俺が今手にしているのはキャンドルスタンドだ。
何というか…、その…、人間の…骸骨…なんだ。しかも、作り物じゃなくリアルの奴。
良くできた作り物だなと内面を見たら医療番組で見た頭蓋骨の構造そのものだった。
軽く叩いてみたがプラスチックなんかとは違う硬質的な音がする。
…うん、何度見ても本物の頭蓋骨を使ったキャンドルスタンドだ…。
よく見れば他にも怪しげな雰囲気を醸し出す物がワンサカとある。
まず握り拳大の人の干し首。口と両目が縫い合わされているが、何故か小さくモゴモゴと動いている。
…電動の玩具だと思いたいが、手に持ってみた感じでは玩具とは思えないリアルな手触りでした…。
束ねられた枯れ枝みたいなのは、よく見たら蛇の干物でした。
…更によく見たら、蛇の頭が二つに分かれた二頭一身の蛇さん達でした…。
緩衝材で包まれた箱から覗いているのはガラスの容器にはいったホルマリン漬けらしき物。 …中身は蝶の羽の生えた小さな人…。フィギアだよね?作り物だよね!?
他にも怪しい草やら水晶球やら鳥の羽やら黒っぽい液体を満たしたの小瓶を沢山入れた小箱(人の頭蓋骨のマーク入り)やら針がハリネズミのように突き刺された人形やら…。
これでほんの一部なんだから、他の開いていない段ボールには何が入っているのか…。
何とか片付け終わった段ボールを積み重ね、俺は深く大きな溜息を吐いた。
…一刻も早く手を洗いたい…。
「あら、片付けて下さったのですか!?
本当に何から何まですいません」
声の方へ振り向くと、階段の中程で辿々しく頭を下げるリーナさんがいた。
どうやら制服に着替え終わったリーナさんが階段から下りてきていたようだ。
…綺麗だ…。
朝日に照らされて階段の中程に佇む制服美少女。
うちの少閑学園の制服は中々に可愛い・格好良い(勿論、着る人間による。俺は、…普通…かな?)と評判だ。
シャツは立て襟のピュアホワイトで前と袖ボタンは青いスワロフスキーガラス、青の紐ネクタイを首元で止めるのは校章をあしらった青と銀のネクタイ止め、濃紺のジャケットの胸ポケットと袖に今時珍しい膝下まであるプリーツスカートと同じ青と白と紺の押さえ気味の感じのチェック柄があしらわれている(男子の場合は当然同じチェック柄のスラックスだ)。
…ネットの掲示板で見た事だが、一部の制服マニアの間では少閑学園のこの制服(勿論、女子のがね)がかなりの高値で取引されているとか…。偽物も出回ってるから制服鑑定士(…どんな職種だよ…)が大忙しだとか…。
制服に萌えない俺はそんな書き込みを見て眉唾物だと笑い飛ばしてたんだが、今の俺ならそれが解る気がする。
…だって、目の前に小首を傾げて立っている亜麻色の髪と南国の海の色の瞳を持った美少女が、そんな制服に身を包んでいるさまは一枚の絵画に等しかったから。…しかもかなりの名画。
これなら高値で取引されるのも肯ける!ぬぅおー、可愛すぎるぞぉー!!
「…あの、すいません…。私の制服姿って何だか変ですか…?」
…しまった…、俺があんまりじっくりと目の保養をしてたもんだから、彼女に疑問の念を抱かせてしまったらしい。
「…いやいやいや、別に変じゃないですよ!
…あのそれより、聞き難いんですけど、この段ボールの中身って何なんですか?
それにさっきのリーナさんの格好って…?」
思わず聞いちゃいました、俺。
だって気になるんだもん。
「その段ボールの中身は母方の家に代々伝わる家事道具なんです。
それにあの格好は家着です。
…だらしない所を見せてしまってごめんない…」
…何のお仕事なんでしょうか…?
困惑の色が俺の顔に現れたのだろう(顔色を隠すのは苦手だ…)、リーナさんは寂しそうに下を向いた。
「…そうですよね…、やっぱり変ですよね…。
変なのは解ってるんです…。でも、母方の伝統なので、私はそれを守りたいだけなんです。
…だけど、前に住んでいたテキサスでも『お前は変だ』って言われて友達も出来なくて寂しかったんです…。
お父さんの仕事で日本に来たら友達が出来るかなって思ってたんですけど…。
…あれ、…私、何言ってんだろ…。…あれ、何だか涙が…。
ぐすっ…、ふふっ…、やっぱり…こんな変な私には…友達なんか…出来ないんだ…。」
…リーナさんが気丈にも、笑いながら泣いている。
俺が泣かしたわけじゃない。でも、罪悪感を感じる。…だって俺の表情が彼女の辛い過去を思い出させてしまったのだから。
彼女のために俺の出来る事。同情や慰めなんかじゃなく、本当にリーナさんのために出来る事。
それを本気で考えた俺の体は勝手に動き、口は勝手に言葉を喋っていた。
俺はリーナさんが中程に佇む階段を彼女の元まで駆け上がり、彼女の手を取った。
…うわ~っ、柔らけー!!
そんな邪念が浮かぶが、俺はそんな物をかなぐり捨てて叫んでいた。
「リーナさん、友達になろう!!」
「…へっ…?」
事態を飲み込めていないのか、リーナさんからは素っ頓狂の疑問が帰ってくる。
俺はもう一度、今度は噛みしめるようにリーナさんに語りかけた。
「リーナさん、友達になろう」
「…はい…」
呆けた返事の後、彼女は大輪の華のような笑顔をうかべた。
…うん、女の子は笑ってないとね♪