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何でそうなった?やっぱりそうだった!(1)

 …朝です。何時もみたいに微睡もうと一度捲った布団を被ろうとして、昨日の・・ぎが脳裏に蘇り慌てて飛び起きました!


 …正面、異常無し。


 …右、異常無し。


 …左、異常無し。


 俺、破壊されたはずのベットの上。窓がんでない。部屋も昨日寝た時と変わり無しの整理整頓された何時もの部屋。

 窓を開けて庭を見る。クレーターも無ければブロック塀も破壊されてない。


 …。



 ……。



 ………。





 


 ………っっっっやったぁぁぁ!!


 昨日の夜中のリーナさんと鈴のあの戦いは夢だったんだ!!その証拠に昨日の寝る前となんら変化の無いこの状況!!


 いやー、悪い夢だった♪ふざけた夢だった。というか夢でよかったー♪


 俺は嬉々として制服に着替える。何時もなら母さんか鈴が起こしに来るまで微睡むところだが、本日は別♪今日は気分が良い♪悪い夢を見た後で気分が良いとは変な事ではあるが、昨日の悪夢が現実とかというフザケタ可能性があったわけだから、夢であったというだけで超ラッキーな気分だ。


 鼻歌を歌いながら階段を降りてダイニングに入りながら挨拶♪


「おはよう♪良い朝だね♪」


 味噌汁を作ってるであろう鍋をかき混ぜていた母さんが、先の割れてる細長い舌をチロチロと出しながら驚いた顔で俺を見る。


「あら匠、おはよう。あんたが自分で起きるなんて珍しいわね」


「おはよう、匠。とりゃ!!母さん十七才になろうという男が、起こしてもらわねば起きてこない方がおかしいんだ。ふうぅ…」


 父さんが小さな体で卓上を走って新聞を捲りながら俺に挨拶した。


 ……うん、父さんが小人、母さんが蛇人間ラミアになったのは夢ではなかったか…。まあ、それも俺の背中のコウモリの羽と頭の二本の小角がある時点で諦めてはいたけど、二人がそんな変貌をしてしまったのが夢であったと淡い期待をしていたのも事実な訳で…。


「…ところで匠、昨日の夜中、変な夢を見なかったか?」


 家族の変貌に関しては諦め、食卓の定位置に座ろうとした俺に、新聞の政治経済欄の上に座り込んだ父さんが、やや聴きにくそうな声音で俺を見上げた。


「…変な夢?何でそんな事を聞くの?」


 …嫌な予感の香りがプンプンするが、一応確認しておこう。


「それがね、昨日母さん変な夢を見たのよ。あまりにも変な夢だから、今朝起きてお父さんにその夢の事を言ったら、お父さんも同じ夢を見たって言うのよ。ビックリでしょ」


 両手と鱗に覆われた尻尾の先で、目玉焼きと付け合わせの野菜とベーコンの炒め物が乗った四枚の皿を器用に運びながら、母さんが俺を見つめて言った。


 ……もう悪い予感しかしない……。


「へ、へぇ…。お、俺は夢なんて見てないよ。…で、へ、変な夢って、ど、どんな夢だったのかなぁ…?」


 俺の予想が外れる期待を込めて、吃りながらも聞いてみる。


「「お隣のリーナさんと家の鈴が、うちの庭を飛び回って雷やら炎やらを打ちまくり、いろんな物を壊しまくる夢だ」ったわ」



 ガタン!!!



 見事にハモったお答えに俺は椅子ごと横に引っくり返った。



 …まさかの“夢落ち”ならぬ“現実落ち”…。



「ちょっと、匠?」


「どうした、匠?」


 俺は慌てて椅子を元に戻すと


「はは…、は…、ごご、ごめん。ちょ、ちょっとトイレに…。」


 と言い残すと、脂汗を流しながらリビングを足早に後にした。










 バタン…ごそごそ…


 トイレのドアを閉じると動揺収まらぬ手で、制服のスラックスのチャックを下げようと悪戦苦闘する。

 何やってんのって?トイレに来たらすることは一つでしょ?動揺収めるついでに“お花摘み”してるんだよ。


 …………。…ふう~…。


 父さんと母さんが“あれ”を見たということは、昨日のリーナさんと鈴の一件は実際に起こったて事だよな~。でも、何で元通りなんだ?


 そんな俺の疑問は、意表をついた登場人物により解消される事になる。


バタンッ!!「おはよう御座います、ご主人様!新しい凌辱の朝が来ました!貴方の後ろに何時の間にやら現れる肉○器、サッキュバスちゃんでーす!」


 突然トイレの扉が開くと、驚き飛び退く間もなく(お小水をいたしているから当たり前か)固まってる俺の背中に、ひしっと抱きつく小さな人影。言わずと知れた鈴である。…いや、この場合は鈴の中の人か…。鈴が俺に抱きついて来るわけないもんな。鈴が抱きついてきた記憶なんて、もう小学生低学年の時以来か…。


 とか、感慨に耽っている場合じゃ無いだろ!!今俺用足し中!!鍵かけたよね!?かけたよね!?


「ち、ちょ、ちょっと待て!!俺の用事が終わるまで待って!!」


 そんな狼狽する俺の腰に鈴の細い手がガッシリと回される。そして歌いながら腰をくねらせて踊り出す鈴。


「ひらがなの“ひ”の字はどう書くの~♪こう書いてこう書いてこう書くの~♪ひらがなの“の”の字はどう書くの~♪こう書いてこう書いてこう書くの~♪………」


 鈴の動きと歌に合わせて、ご用の最中の俺の腰も動く。


「やめっ!!溢れる!!俺のトイレを!!邪魔するなー!!」 


 トイレに俺の叫び声がこだました。…泣いていい…?














 ひと悶着(?)あったその後、何とか溢すことなく用を足し、俺は鈴と向かい合う事が出来た。

 もうすでに小等部の制服を着用していた鈴は、…いや鈴の中の人は、トイレの前で腕を組ながらブツブツと呟いている。


「…んー、これでもご主人様は目覚めませんか…。…このアプローチで駄目なら、どう攻めれば…。…もうちょっと精神と肉体を蝕む感じで積極的に攻めますか…」


 …いやいや、何か聞き逃せないワードが聞き取れましたが、そこは地雷だと思うので聞かないでおこう…。その話題に足を踏み込んだら、絶対巻き込まれる…。踏み入れなくても巻き込まれるとかは無しの方向でお願いします!

 それよりも、昨日の(今朝の?)事を聞かねば!


「そ、そんなことより、聞きたいことがある!昨日は何が起こった?何故、何も無かったようになってんだ?

教えてくれ、いや、教えてください!」


 正直、“この状態”の鈴に関わるのは悪い予感しかしないが、当事者が“この”鈴と“あの”リーナさんである以上、聞かないと問題は解決はしない。

 問題なんか無かった事にするという手もあるが、事情が事情だけに第2第3の事件の起きて、俺が被害を被る事になりかねないので、ここで問題を解決しとかなければ!…俺なんかの力で解決は無理だと思わなくもないが、せめて事実を知る事で何とか(特に俺への)被害を減らせないか、という消極的な考えでもある。

 はたから見ればトイレの前で思案に耽る美少女小学生(角、コウモリの羽根、矢印尻尾付き)に恐る恐る話しかける普通顔高校生(角、コウモリの羽根、矢印尻尾付き)という妙な構図になるのだろうが、片やその身に付いた悪魔の力(?)を存分に発揮し、片や(勿論、俺の事ね)姿形だけのコスプレ同然の悪魔というのなら、そんな奇妙な構図も納得がいくのだろうか。勿論、元々の我が家のヒエラルキー階層の問題も多大な影響も含まれます。トホホ…。

 そんな、悪魔の力を恐れる俺の問いに鈴の中の人は何事もないように、そう、まるで今日の朝の味噌汁の具を伝えるかのような気軽さで、とんでもない内容の事を語りだした。


「あれですか?時間の遡行ですよ。悪魔の常識じゃないですか。そんな事もお忘れですか、ご主人様?」


 …はっ?遡行?巻き戻しとかいうやつ?悪魔の常識?


 頭に?マークを乱立させる俺に、鈴の中の人は呆れた様子で説明してくれた。


「本当に忘れちゃったんですか?

天界の胸糞悪い奴等と仕様がなしに結んだ協定の基本事項で、『人間界で起こしたいさかい事は人間に気付かれる前に、騒動を起こした当人が修復すべし。特例、人間が望んで起こした天界、もしくは魔界の住人を召喚した場合はこの条項を適用しない』って条文があったじゃないですか?

昨日のあれは、魔界寄りの魔女と悪魔たる私の争いだったわけで、この条文が適用されますから私の偉大なる力とあの忌々しい魔女の小賢しい力で修復したわけです。勿論目撃者がいましたが、その方々には夢であったと誤認するように仕向けています。お分かりいただけましたか?」


 …いやいや、天界と魔界の取り決めとか知らないし…。それ以前に、俺時間の遡行なんか出来ないし。何なの?何がどうなってるの?

 もう理解の範疇を通り越してただ呆然とする俺の肩に手を置いて鈴は


「ご主人様が“覚醒”してくだされれば、あんな魔女ごとき、ちょちょいのドンですから。お早めに“覚醒”なされるよう、不詳私め、貴方様の肉○器サッキュバスちゃんがこれまで通り、いや、これまで以上に頑張らせて頂きます。

まあ、“覚醒”前にまたあの汚らわしい犬魔女がちょっかいを掛けて来るやもしれませんが、私が昨日のように華麗♪に守って差し上げますので、泥舟に乗ったつもりでどーーんと任していただければ問題ございません♪」


 とかのたまいやがった。…いやいや、ちょっと待て!突っ込み所満載じゃないか!


「…全然理解が出来ないが、ということは何か?昨晩のようなドンパチをまたやらかすということか…?」


「概ねその通りでございます、ご主人様♪」


 鈴のその答えに、俺はトイレ前の廊下に崩れ落ちた…。ちーん。合掌。










 味のしない朝食を済ませて、フォルムング邸前に来た俺。…ええ、予定ですからね、決まり事ですからね、約束だからね…。

 昨晩の事はリーナさんは覚えてないだろうし、お迎えはしないとね。はぁ。


こんこんこんこん


「おはようございます、リーナさん。葛葉匠です」


 ノックして待つことしばし、“それ”、いや“その方”は出てきた。


 昨日の今日でリーナさんとどう接しよう、いや、あのリーナさんは昨夜のリーナさんとは違うから何時も通りで良いんだ、うん、何時も通りに挨拶して学校行けば良いんだ、そうだ、そうしよう、うん、それが一番だ、そうしよう…。


 ノックした後に今更ながら、リーナさんとどう接しようと思考の海にたゆたう俺の視界に飛び込んできたのは……一対の蹄だった。


 蹄?そうたしかに蹄だ。自分の考えに沈むあまり下を向いていたのを今更ながら気付く。

 そんな事より、蹄だ。蹄が二つに別れている事から偶蹄類の蹄だと理解できる。そんな事を考えながら視線を上げていく。

 顔の位置は水平。次に視界に飛び込んで来たのは大胸筋だった。そんじょそこらのボディービルダー程度なら裸足で逃げ出す大胸筋だ。思わず『キレてるね!』と声をかけたくなる大胸筋だ。

 その大胸筋を覆っているのは茶色い剛毛だ。胸毛?違う。胸から腕まで全部を隙間無く覆う毛を胸毛とは言わない。

 何でそんな事が解るのかだって?目の前のマッスルな人物がタンクトップ着てるからだ。…今だうすら寒いこの時期にタンクトップを着てるなんて…。

 そんな事を思いながら更に視線を上げる。首の角度は完全に上を向く限界点達した。そしてそこで俺は完璧に固まった。



 牛。



 そこには牛が居た。


 ぶしーーーーーっ!!


 牛の鼻から湯気混じりの呼気が吐き出された。その呼気がまともにかかり、俺は思わず「はひっ!?」という情けない言葉と共に背筋をピーーーンと伸ばした直立不動の姿勢になる。

 そんな俺の情けない叫び声で俺に気付いたのか、牛が視線を下げる。


 2メートルを越えた巨体の牛だ。その牛が今だ直立不動の姿勢のままの俺に鼻面を突きつけ、フンフンと匂いを嗅ぐ。


 …あっこの牛、眼鏡掛けてる。


 でかい牛の顔に似合わない小さな銀縁の丸眼鏡。その奥の黒い瞳がじーっと俺を見つめる。


「…うむ、君が葛葉匠くんか…。いやいや、不躾にすまないね。

改めて挨拶をしよう。僕

はヨアン・フォルムング。イリーナの父親だ。娘が世話になっているようだね。私のことは気軽にヨアンと呼んでくれて構わんよ♪」


 流暢に喋りだしたうえにウインクまでしてきた器用な牛、もといヨアンさん。…ええっ、この牛頭の筋肉の人(?)がリーナさんのお父さん!!


 …リーナさんのお父さんはミノタウロスでした…。






 

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