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超異次元バトル!!・イン・…庭?

 前にも言ったが葛葉家の食事は家族皆で食べる。


 葛葉家の鉄の掟の一つだ。

 それは今日も変わることなく… 。




「「「「いただきます」」」」


 …しかし、改めてみると凄い光景だね。


 俺と鈴は頭に二本の角、背中に蝙蝠の羽、お尻からは矢印尻尾の悪魔スタイル。

 母さんは下半身が長ーい蛇だからテーブルの下で蜷局を巻いてます。

 父さんは新聞一面の大文字サイズの小人なので自分の箸を両肩で担いでいる。…どうやって喰うのやら…。

 恒例の晩酌は鈴が昔遊んでいた何とか人形の器を使ってたけど、今父さんの目の前にある夕食は俺等と同じ一人前だぞ?


「…?どうした、匠。

ほいっ…。んぐんぐんぐ…、ごくん。

喰わんのか?

ほいっ…、おっとっと、んぐんぐ…、ごくん」


「あら本当。…うんぐ。

食欲無いの?…うんぐ。

空豆のかき揚げ、好きだったでしょ?…うんぐ。」


 ………いや~、ぱっと見の光景もそうだが食事の仕方も人外魔境だわ…。


 父さんは箸で食べ物を放り上げて口でキャッチする。……器用だね……。そして、その料理は父さんの体の何処に収まってるんだろう?四次元か?ポケットなのか?青い狸なのか?………いや、小さすぎるおっさんか………。

 母さんは…、蛇だけに“丸飲み"だ…。飲み込む度に上を向くから少々シワが目立ち始めた喉を通る食べ物の形がよく見える。因みにさっきはかき揚げが通りました。…空豆と玉葱と三つ葉の絡んだ感じが喉の皮膚越しにハッキリと…。

 ……小さい頃に見た、溝の中で蛙を飲んでる蛇を思い出した……。

 普通に喰ってんの鈴だけだもんな~。



ぽちん…



「匠!!母さんが心配してるのに返事をせんか!!」


「そうよ。お父さんも心配してるのに…」


 …いや父さん、あまりの食事風景に呆気にとられて無視したのは悪かったけどさ…。怒ってテーブル叩いても“ぽちん…”って…。どうやったらそんなコミカルな音が出るんだよ…。

 以前のような威厳や怖さは今は微塵も感じない。…というか可愛ささえ感じる。

 …それと母さん、抗議の一環なのか俺の足に尻尾を絡めないで下さい。この前、動物番組で見てたアナコンダに締められるカピバラさんを見たけど、その時のカピバラさんの気持ちってこんなのだったんだろなって、痛い痛い痛い痛いいたたたたたた…!!母さん、痛い!!!ギブギブギブギブ!!!


「母さん父さんごめんなさいったらごめんなさい!!痛い痛いいたいたいたいだだだだ!!食べます食べますすぐ食べます!!」


 テーブルを小刻みに目一杯叩く。総合格闘技のタップの如く。如くというか本当にギブなんですよ!ギブギブギブ、滅茶痛い!!


「解ってるならいいんだ。本当に何なんだ、匠…?」


「悩みでもあるなら相談に乗るわよ?でも、早く食べちゃってね、片付かないんだから…」


 いや父さん、“何なんだ?"は此方の台詞です。

 あと母さん、貴女は今実の息子の足を万力のような力で締め上げてましたよ。しかも、無意識に…。


 …でも、本当に滅茶苦茶痛かったな…。足の感覚が無いぞ?

 気になって部屋着のズボンを捲れば、……………… 左足が青紫色に変色してますがな!どんな力で締めればこんな風になるんだ?!

 いかん、早く食べねば!ま、また締められる!

 慌てて茶碗を持つと、お預けをくらっていた犬のように夢中に目の前の晩御飯を掻きこんだ。
















 …やっと左足の血色が戻ってきた。…でも、こりゃ明日はアザになってるな…。

 んっ?…何してるかって?見りゃ解るでしょ。風呂で足を揉んでるの。




 見ちゃいやん♪




 …何?この風景いらないって?


 …そりゃそうだ。…俺もそっちなら、こんな猥雑的な物、見たくはないわな。ごめんね。




 さて、二度目になるけど足を揉んでます。

…さっき強烈に締められたもんで。

 父さんの威厳はそのままでスケールがちっちゃくなったんで怖くは無くなったんだけど、その分、母さんが物凄く怖くなっちゃって。あははっ…、しかも本人が無意識…。

 …冗談抜きでこれからの生活に命の危険を感じる…。

 何でこんな異常事態を実感してるのか俺だけなんだろ…。

 明日になってリーナさんの“物体Xクッキー”を食べたクラスメイト達やマンセー先生の中から、俺と同じ立ち位置に来る人が出ると良いなぁ…、はぁ…。

 先が読めない中で希望的な事を考えながら、深いため息が出てきた。


 いかん、幸せが逃げる。




 …何て湯船に浸かりながらボンヤリと考え事をしていると、風呂場の曇りガラスの向こうに人影が…。


 洗濯物をしにきた母さんかな?

 ……いや待て、母さんの下半身が二本足で肌色な訳ない。だって今は蛇柄だもん。

 ………っていうか、何で服脱いでるの?


 …嫌な予感がする…。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん♪」


 入ってきたのは真っ裸の鈴だった!やっぱり!!こら、女の子なんだから前を隠しなさい!!

 …って言うか、俺を毛嫌いする鈴が俺の入ってる風呂に入るわけがない。……ということは、今の鈴は“鈴の中の人”だ!!


「お前、鈴の中の人だろ!!何考えてんだ、早く出てけ!!」


「ぴんぽんぴんぽん♪大当たり♪

貴男のコケティッシュ・肉○器、サッキュバスちゃんで~す♪

…でも、そんなに大きな声を出したらお父様とお母様が来ちゃいますよ♪

お父様は兎も角、お母様が来たらまたさっきみたいに締められますよ♪きゅーって…♪」


「…ぐっ…」


 確かに先程の締めの恐怖と凄まじさは、文字通り俺の心と体に刻み込まれている。

 そして、あってはならない裸の俺と鈴が風呂場に居るということ。

 普通の鈴が俺を蛇蝎の如く嫌っているということ。

 そしてヒエラルキーが最下位の俺の立場。


 全ての状態を総合的に考えて俺の出した結論は…。


「…俺に何をさせたい?何が目的だ、鈴の中の人…?」


 …何とか用を聞き出してお早くお帰りいただくこと。

 人のことをご主人様と上げ諂いながら、こんな風に反撃できない状況に追い込む狡猾さ。

 天然か計画的なのかは悩むところだが、以前に言っていた性癖を把握するとの目的を考えると、どのみち禄でもないことがこれから行われるに違いない。

 それならばこの素っ裸の小悪魔(文字通りだね)から譲歩を引き出して、妹と兄という関係を崩すことは何としても避けねば。それが俺の妥協点。


「話が早くて助かります、ご主人様♪」


 妹の筈のその顔は淫靡に微笑んで、いつの間にか手に持っていた駕籠から何やら取り出した。

 その“物”を見た俺は目を点にして固まることしか出来なかった。















 枕を涙で濡らす。




 小説や映画やドラマなんかで、か弱い乙女が叶わぬ恋や失恋や想い人ではない人に純潔を散らされた事で行われるフィクションの儀式とも言われる行動。



 ええ、ええ、ほんの一時間前まで俺もそう思ってましたよ。まさかそんな行動を自分がしようとは。

 …何がおこったかって?…それを俺に言えと?


…。


……。


………言える範囲でいい?






 あの時、鈴の中の人が取り出したのはスタンガン。

 放電部を風呂に浸けると「えい♪」という可愛い掛け声と共にスイッチオン。


「ばびぃぃぃ!!?」


 見事に俺が放電攻撃を受けるわけで。

 ぷっかりと湯船に浮かんだ俺は軽くブスブスと煙を噴いていたと思う。

 うっすらと霞んだ意識の中で電撃くらっても髪の毛はアフロにならないんだな……とか意味不明なことを考えたりする余裕はあった。


「あっ、出力は最低にしてますから♪ご安心あれ~♪」


 五月蠅い、何が出力最低だ。体が痺れて動かない。舌までも痺れて喋れない。そんでもって俺の体は汚染水を流された川に住むお魚さんのように湯船にぽっかりと浮いている。

 こんなギャング映画の抹殺シーンを「最低出力♪」とかふざけんな、この野郎。

 俺の心の声を無視し、鈴の中の人の行動は続く。

 鈴の中の人はスタンガンを仕舞うと、次に駕籠から出したロープを右手に握ると左掌を未だ電撃の硬直解けぬ俺にかざした。

 何するんだ?と思っていると、湯船からフワフワと浮かび上がる俺の体。


 うおっ?!超魔術!それともサイコキネシス!


 何故に鈴だけそんな空が飛べるうえに不思議パワーが備わってるんだ?俺なんかコスプレに毛が生えた程度なのに泣。



 そんな理不尽への叫びは鈴の中の人には勿論届かず、鈴は舌なめずりを一つすると右手のロープの端をぱらりと垂らした。

 ところがそのロープは洗い場の床には垂れずにフヨフヨと生きた蛇のように俺の体を這いずり回りだした。

 これこそサイコキネシス!いやインドのロープマジックか?!

 驚愕する俺を余所に、あっという間に縛り上げられました。俺の体は空中に固定されたまんま。


「あ、あの~…、SMの趣味はないんですが…」


 何とか感電から回復した口で鈴の中の人に提言する。…が勿論彼女はそんな言葉に耳を貸すことはなく。


「ふふっ♪それを判断するのはご主人様ではなく、わ・た・し♪

それに以外とハマるかもですよ♪」


 台詞にセクシー成分をふんだんに配合しても、実の妹に欲情なんてするか!俺は過剰なシスコンやロリコンではない!

 それ以前に、俺に縛られて欲情する特殊性癖は無い!

 百歩譲ってそんな特殊性癖が有ろうとも、それを目覚めさせるのはこんなシュチュエーショではない!!取り敢えず逃げたい!!

 …が全身縛られた(しかも縛り目がハートマークなのは何故?)俺はまな板の上の鯉。ていうか、俺をSMするうえで鈴が裸の意味合いがあるのか?おい、あるのか,こらっ!?


「サービスです♪」


 誰への!?俺には少なくともサービスではないんですけど!!

 俺にはリーナさんという操を捧げる(予定の)人がいるんだ!


「またまた♪そんなに悪い気分でもないくせに♪

…さ~て、いきますよ~♪」


 いつの間にやら鈴の手には皮の紐が何十束と纏めてある短い鞭が握られていた。

 「…さ~て」のあたりで鈴の中の人の無邪気な笑顔の中に、残虐性と艶然とした何かをヒシヒシと感じながら俺は声にならない悲鳴をあげた。


「~~~っ?!!」








 …ってな事があったんだよ。

 何?…肝心な所が解らないって?…そこは察して…。男がただただ鞭打たれる場面の事なんか聞きたくないでしょ?

 なに?あぁ、貞操は守りましたよ…。兄と妹の一線は越えてません。

 そのかわりと言っちゃなんだが鞭の傷痕だけは、たらふく体中にいただきました泣。

 終いにはズタボロで風呂の洗い場に倒れ伏す俺を残念そうに見下ろしていた鈴の中の人は、


「う~ん、これも違うか…。

また来ますね♪バイビー♪」


 と風呂場から颯爽とさっていった。

 ……何だったんだ、あの時間は……。

 …もう散々だ、…寝よう…。


 痛む体で宿題予習復習を済ませると(真面目じゃないもん、ただの習慣だもん泣)俺はいつもより早めにベットに潜り込んだ。













こつこつ…


こつこつ…


 物音で目が覚めた。

 枕元の時計を手にとってバックライトのボタンを押す。

 …二時半過ぎ…。

 何だったんだあの音。気のせいか?

 妹に鞭打たれて(泣)神経が過敏になってるとか?不眠症?


こつこつ…


 …気のせいじゃない…。

 無意識にカーテンを開けようとして、咄嗟に思いとどまる。


 もしや、…鈴の中の人…?


こつこつ…


 その可能性は十分にあり得る。

 このまま何も考えず窓を開けると


『貴男のスパイシー・肉○器、サッキュバスちゃんでーす♪』


 …とか言って部屋になだれ込んで来るに違いない。そうなったら、さっきの風呂場の二の舞だ。


こつこつ…


 …でも、こんな状況を何時までも放置するわけにはいかない…。

 俺の事をご主人様って言ってるし、昨日(一昨日?)の初顔合わせの状況だって何も問題は起こらなかった。

 …よくよく考えれば風呂場での出来事だって、もっと酷いことをしようと思えば出来たはずだ。(妹にふん縛られて宙吊りで鞭でシバかれるのがムゴイ事じゃないのかと言う突っ込みは無しでお願いします泣)


こつこつ…


 それが鞭の痕だけ(だけ?とか言わないで。この状態に馴れて来てるのは自覚してるんだから泣)ですんでるんだ。話し合えば解る。

 そう人類(こんななりしてますが、まだ人間ですよ(ここ重要!))皆兄弟、ガチンコで話し合おう!


 そう前向き(自己好都合で関連付けた自己完結とも言う)結論を出した俺はカーテンを引き毟らんばかりに引き開け、かなり強めに窓を叩き開けた。

 いざ尋常に勝負!


スパンッ!!


 深夜の住宅街に窓がサッシに叩きつけられた音が意外なに大きな音で響く。


「ふうっ…、妾を待たせるとは、妾が召還せし忌み子は余程の礼儀知らずと見える。

それとも器となりし者が怠惰なのかや? 」





 …えーとっ…。



「嬉しさのあまり、気を失したかや?」



 …うーんとっ…。



「…これ、返事位せぬか、そこな小者」



 リ、リーナさん!?


 窓の外に悠然と構える人物が自分の予想とは大きく違った事に、少しの間の後に俺はベットに盛大に尻餅を付いた。


「あ、あの、リーナさん、こ、こんばんは。

き、今日はいかような、 ご、御用件でごごごございましょうか!?」


 …やばい、リーナさんの言葉に釣られて俺の言葉遣いが妙なことに…。…っていうか、リーナさんここ二階ですよ?何故に窓の外で悠然と空気に腰掛けているのでしょう?


「ほほっ♪挨拶をする忌み子とは面妖不可思議な。

じゃが言の葉一つで立つ義理や育む信頼というのもまた一興。

あい、今晩お邪魔申す。…とまあ、このようなものかや♪ほほほっ…♪」


 優雅に立ち上がり綺麗に一礼をした月夜に浮かび上がるリーナさんは、何時もの普段着とはまた違った雰囲気の銀糸のトーガの様な物を纏っている。

 そして笑うときは、そのトーガの裾で口を軽く抑え、優雅に浮いておられます。

 …ていうか、月夜の窓の外に本当に“浮かび上がって”ますよね?魔法ですか?イリュージョンですか?ワイヤーアクションですか?

 それでもって華麗に又もやエア椅子(有るようで無いものじゃなく、本当の空気の椅子なのね)に座り直したリーナさん。

捲り上がったトーガからちょろりと見えた健康的なアンヨは、脳内ハードディスクに保存♪足フェチじゃなくチラリフェチですが何か?


「…で、何のご用件でしょうか?」


 先程のお宝映像を何回も脳内リピートしながら、恐る恐る聞いてみる。

 …もしかして、知らぬ間に何か不埒な事をしていたのでしょうか?俺を呪いに来たとか?

 明らかに今のリーナさんは亀谷君に天誅を下した、“あの”別人格のリーナさんだ。


「ふっ…、そのように恐れおののく必要など無い。

此度の訪問は忌み子のお主と使役魔契約を成す為よ。

妾の尻を堪能した不埒者、亀谷と申したか?を呪い、その様を堪能すると申したものの、結局はその様を堪能するに至らなんだ。

それもそのはず、妾には妾の目となり手となり足となる使役魔が今はおらぬのだ。

そこに都合良く隣家に忌み子が我が力により現界しよった。しかも妾、イリーナ・フォルムングに一方ならぬ好意を持ちたる様子の者を器として。

これを使役魔にせずして、何を使役魔としようか。

…喜ぶがよい。高名なウイッチの血を引く妾の使役魔の筆頭に名を連ねるという栄誉を賜れることを。

そして愛して止まれぬ女子おんなごの寵愛を受ける機会の訪れを」


 どこか酷薄げな笑みを浮かべたリーナさんは、右手の親指の腹をその真珠の様な歯にくわえると躊躇無く噛み切った。

 見る見る親指の腹の上に血の珠が出来上がる。


「…ルー・クー・シュオンナ…。…ローノーシルマン・ゲイ・オワ・ソロモン…」


 蒼い月明かりの中、リーナさんの血珠が紅くほのかに光り出した。


「忌み子には甘露な代物、ウイッチの“契約の盟血ソロモンリング・ブラッド”よ。

…さあ、啜るがよい!そして我が走狗となり妾に喜びをもたらせ!」


 …何、そのネーミング…。俺を従える“ソロモンの指輪”ってか?

 厨二病?魔女の世界って厨二病?


 あまりの展開の早さと現実感の無さに、俺はポカーンと口を開けてベットの上に尻餅をついたままでいた。

 するとリーナさんは差し出した手をズイと俺の部屋に差し込んできた。


「…妾を待たせるでない…。…空気を読め…。…早よ啜れ…」


 リーナさんがこめかみに青筋たてて小さな声で呟いている。…雰囲気重視?それとも、…唯のせっかちさんですか?


 ……ところでさっきから気になるんだが、こんな言い方リーナさんらしくない。…それが例え二重人格でも…。

 “ソロモンの指輪”といえば悪魔どころか天使さえ“無理矢理従える”伝説のアイテムだったはず。俺だって厨二病を患ってそこら辺のサブカルの知識は人並みにはあるつもりだ。(どこをもって人並みと判断するかは知らん)

 そんな支配感満載の物、優しいリーナさんらしくない。

 それに“走狗”なんていう使いっパシリの表現なんて、俺を親友と言ってくれたリーナさんが使うわけがない。

 亀谷君を呪った時は“自己防御の多重人格”位に考えていたが、俺を“使役魔にうんぬんかんぬん…”となればそれとは違ってくる…と思う。

 鈴に多重人格者の本を借りて読んでみたけど、…よく解らんかったから、ハッキリとは言えないけど…、この古風な話し方をするリーナさんは何者、というか“何”だ?


「…一つ…、一つだけ聞いていいですか?」


「…何じゃ?」


 俺の問いにリーナさんの額に青筋が一つ増えたけど、話は聞いてくれるらしい。


「貴女はリーナさんじゃないですよね?

…何なんですか?」




 …一時の静寂。それを破ったのはリーナさんの笑い声だった。


「ほほほっ…♪“何者”とは聞かず“何物”とな?

これは驚いた♪下心溢れる忌み者とばかり思っておったが、どうしてどうして核心を突いてきおる」


「…じゃあ…」


「…そう、妾はフォルムングの血に宿りし魔女の証。

長き系譜のなかで意識を持ちし知識。魔女にもあらず人にもあらず、唯フォルムングの幼子等の意思を導くのみ。

無事に魔女と成りし日には、妾は次代の子等へと移り行く。

妾はしるべ、妾は灯火、妾は道、妾はグリモワール、妾は永久とわ。…我が未来の使役魔よ、これが答えと成ったであろう?

…正直、期待はしておらなんだ。

だが、そこそこな聡明さは持ち合わせている様子。

貴様とは想像以上に良い関係を築けそうだの♪

さあ、啜るのだ、妾の血を!!」



 リーナさん、再び俺にドヤ顔で迫る。だが俺は


「断る!!」


 と一言。



 …だってさ、コイツ外見がリーナさんで中身はリーナさんじゃないんだろ?

 何だが解らないけど、さっきの言い方だとリーナさんが魔女として成人しちゃえばコイツ居なくなるんだろ?

 リーナさんに頼まれて走狗になれって言われても考えちゃう位なのに、外見だけリーナさんの奴にどうこう言われても、俺のリビ…げふんげふん…意識はぴくりとも動かない。

 だってリーナさんと俺は“親友”だもん。



 ……だけど、普通のリーナさんから「は~っ…♪ふ~っ…♪もう一生、私のペットにしてやるんだからね…♪ふふふっ…♪」と(妄想パワーMAX☆駄々漏れ中、以下年齢規制表現。綺麗なお花の映像をお楽しみください)で言われたら断る自信は無い……。


 俺の拒絶の言葉が以外だったのか、リーナさんはポカーンとしてます。


「き、き、き、き…」


 …猿?


「…き、貴様…。たかが忌み物の分際で、妾の誘い断るなど…」


 …もしかして、いやもしかしなくてもお怒りですか…?

 亀家君みたいに呪われちゃうとか…?あはは…。まさか、ねえ…。


「…妾をコケにしておいて呪い等という甘いもので済まそうとは思わぬ…。

………解剖じゃ………」


…今、何と…?


「生きたまま腸をかっさばき、臓物一つ一つを虫ピンで止めたうえ、薄めた聖水に漬け込んで妾の枕元に飾ってくれるわ!!」


 いやーーーーーーーー!!解剖とか言ってますよ、お巡りサーーーーン、助けてーーーー!!


 あまりの恐怖に俺はカサカサとゴッキーのように部屋の隅っこに這い逃げる。


「逃がさぬー!妾をコケにした対価、その身にとくと味わわせてくれよう!!」


 何処ぞの大奇術師のように空中に浮かんだまま、窓から俺の部屋に入ってくるリーナさん。顔は笑っているが目が座ってらっしゃる!ひーーー!


「そうさな、汝に一番最初に切り取る場所を指名させてやろう。

肺が良いか?胃が良いか?腸が良いか?

目玉を神経を繋げたまま抉りとり、己が体を切り刻まれる様を眺めるのも一興ぞ♪」 


 この人怖い!!いやー、助けてー!!


 逃げるにしても、そこはもう部屋の端。俺に出来ることは壁に背中を押し付けて、涙目で首を左右にイヤイヤと振ることだけだった。

 すっと挙げたリーナさんの右手が、今夜の月のように青く不吉に輝く。魔法的なメスみたいなものだろうか?その青く光る指先をリーナさんはペロリと舐めた。


 ひーーーーー、殺人鬼や、殺人鬼がおりまっせーーーー!!


「ふふっ♪今更、後悔したところで遅きに失する♪

この右手に切り刻まれたならば、痛みを“かなりと”伴う。泣き喚き叫ぶがよかろう♪」


 リーナさんの細い右手が、断罪のギロチンのように振り上げられた。


 …終わった。俺の人生、終わった。


 俺は諦めと共に両目をギュッと瞑ってその時をまった。

 その時だった。


「そこの魔女。我が主に手を挙げるとは何たる無礼。“殺し”ますよ」


 突然の第三者の声に、俺はそちらを思わず見た。

 …突然現れたのはパジャマ姿の鈴だった。いや、正確に言うなら鈴の中の人だ。だってリーナさんが今しがた入ってきた窓の外で、背中のコウモリの羽でパタパタと飛んでるのだから。


「…ほほっ、何かと思えば淫魔とは…。

そこな淫魔、妾の邪魔をするでない。只今からこの小悪魔を切り刻んで標本にするところじゃ」


 リーナさんは驚きもせず、チラリと窓を振り向くも、興味もなしに再び此方を見て青く光る手を俺に向ける。


「待てと言ったでしょう、暗闇に蠢くだけしか能のない魔女」


 鈴の中の人の挑発に、さすがにリーナさんも窓に向き直った。


「…言うではないか、淫魔風情が。

人の淫気をこそこそと吸い取る事にしか頭が働かんと思うておったが、その考えも改めんといかんのう。

…で、その淫魔が妾に何のようかえ?」


 鈴がフワリと窓をくぐって、俺の部屋に入ってくる。


「歴史の裏側からさえ忘れ去られた魔女は、頭の中がカビだらけのようですね。私がさっき言ったことさえ忘れたのですか?

貴女が解剖しようとしているのは私の御主人様です。私の許可なく解剖などと、ふざけたまねをやめなさい、忘れられた魔女」 

 

 部屋に入ってきた鈴にフワリと近づくリーナさん。


「ほほっ♪止めなければどうだと言うのかえ、小賢しい淫魔よ。

いっそのこと、貴様が御主人様と呼ぶこの小悪魔と共に標本にしてやろうかえ♪

恐れ帰るならまだ見逃してやらんこともない、乳臭い淫魔よ」


 鈴もリーナさんに更に近づく。そんなに広くない俺の部屋で、そこまでお互いに近づいたら、今の二人の距離はゼロに近い。

 まるでヤンキーの喧嘩前のにらみ合いみたいだ。


「御主人様に手を挙げるだけに飽きたらず、私をも手にかけようとは。

何たる恥知らずな魔女。出来る事と出来ない事の見分けもつかないのかしら」


 …前言撤回。これはもう喧嘩だ。俺の部屋の真ん中でリーナさんと鈴が、空中で額を突き合わせて睨み合ってる。比喩表現じゃなく、まじで火花が散っている。


「妾を希代の魔女と知らず、田舎者の淫魔が喧嘩を売るとは片腹痛いのぅ♪」


「田舎者魔女に田舎者扱いされるとは…。

私が誰かも知らず、自分を大きく見せる憐れな魔女が可愛そう♪」


「たかが淫魔が、妾の手によって痛い目を見たいらしいの?」


「魔女ごときが私をどうこう出来るとは思えませんが♪」


「妾と事を構えるというのかえ」


「私は構いません。貴女が困ることになるだけです」


「殺るのかえ」


「殺りますか」


 …何、この殺伐とした会話。


 俺は二人の雰囲気に飲まれて部屋の隅で震えていた。


 いやだってさ、お互い額突き合わせて据わった目で微笑みあっているんですよ!火花がリアルで散っているんですよ!スパークですよ!ほんでもって、二人の回りを幽霊みたいなたくさんの靄が舞っているんですよ!


 ………………………………へっ、幽霊…………………………?


「いやーーーーーーお化けーーーーーー、俺の部屋が人外魔境にーーーーーー!!」


 事実を認識したとき、俺は思わず絶叫していた。いや、だってお化けですよ!幽霊ですよ!夏の夜の恐怖の代名詞ですよ!!まだ春ですが……。

 俺の嫌いな物の絶賛第一位はお化けなんだ。真夏の夜の心霊特番は絶っっっっっっっ対に見ないし、暗くなってからお墓の前を通るのは避けるし、どうしても心霊スポットと呼ばれる場所の・・くに行かなければならない時はお払いのための清めの塩と数珠は標準装備だ。


 悪魔とか小人とか蛇人ラミアに身内がなっちまったてのに、幽霊ぐらいで騒ぎすぎだって?実体の無いものは苦手で…。


 そんな恐怖におののく俺に対し、喧嘩真っ際意中の二人の判明は冷たいものだった。


「そこな小悪魔、幽霊なんぞで騒ぐでない。子淫魔・・・・に怒る妾の魔力に当てられて迷い出てきた其処らの霊ごとき、そなたに何ら悪戯なぞせぬわ」


「淫魔の長たる私が、たかだか浮遊しか能の無い似非魔女・・・・・にお仕置きしようと本気を出しているのです。幽霊の一体や二体ぐらい出てきます。

ご主人様は大人しく、そこでこのはったり魔女・・・を叩きのめす所をご覧ください」


「淫魔の長とは敷居を上げたの、この幼児淫魔。妾を言の葉ごときで脅そうとゆうのかえ?なんたる浅ましき浅知恵」


「似非魔女ごときが霊を呼び寄せる?私の魔力に誘き寄せられた霊を、さも自分が誘き寄せたように思い込んでいる非力な魔女が、何を言い出すのやら…」


いにしえの歴史より連綿と受け継がれてきた妾を非力と笑い飛ばすとは何たる下策」


「たかが人間が魔術を扱える程度で、そんな傲慢な態度をとるなんて鼻で笑ってしまいます」


「妾に喧嘩を売っているのかえ?」


「喧嘩ならさっきから売っていますが?」


「…おほほほほほほ…」


「…うふふふふふふ…」


 俺の幽霊騒ぎを出汁に、更にヒートアップするリーナさんと鈴。そしてそんな二人の怒気に反応する幽霊逹(?)。


 魔界ですか?!ここは魑魅魍魎が跳梁跋扈する魔界ですか?!ひーーーーーーーーーーー?!


 そんな永遠にも続くかと思えた二人のにらみ合いにも進展が見えた。


「さても、このように睨み合っていても埒があかん。儚き淫魔よ、妾に拳の一振りを許そうぞ。

妾に持てる力の最大を込めて拳を振るうがよい。妾は寛容で慈悲深い。貴様を一方的に蹂躙するのもまた一興ではあるが、妾に手も足も出ない事を認識したうえで蹂躙した方が興にのるというもの♪」


 …いやいやリーナさん、それ寛容とか慈悲深いとかからはほど遠い行動ですよ…。


「魔女ごときが大きく出ましたね。…ですがそれは面白そうです♪それに乗りましょう♪

…そうですね、公平にしようと思うので、私の全力の一撃で・・・・にもっていられたら私にも一撃を入れることを許しましょう」


 …殴りあいとか、超野蛮なんですけどー。


「御託を並べずさっさと妾に一撃を入れるがよい。」


「自分の言った事、後悔しないでくださいね。

“…我、精霊に願い奉る。四属の力、原初の力、純然たる力を我が拳に宿さん事を。エセンド、キリル、ブラフメード、アイン”」


 鈴の不思議な言葉に合わせて、鈴の右手に赤い光、緑の光、青い光、黄色い光がまとわりつく。

 また魔法、しかも何か物騒な雰囲気が!やめてー!


「前言撤回は無しでお願いします、クソ魔女さん♪

四属粉砕フォースエレメントバースト!!』」


ドォォォン!!!


 四色の光を纏った鈴の拳がリーナさんの顔面に振るわれると同時に爆音が響き、俺はその爆風に引っくり返った!何ですか今の!

 とんでもない爆煙を起こした張本人の鈴は、拳を振り抜いた姿で小さく舌打ちする。


「ちっ、仕止め損ねましたか」


 噴煙の中から響き渡る上品な笑い声。


「ほほほっ、心地よい風であった♪ではこちらの番であろう♪

“オブリケント、デュケン、シーフォード。闇の五方星陣よりバフォメットよ、いでよ。古の盟約に従い我が拳に宿れ。グーグード、エヂュン、リリグエン、チモン”『悪魔拳バフォメット・ナックル』」


 爆風から何事もなかったような涼しい顔をしたリーナさんが現れると、今度はこちらの番とばかりに呪文を唱えたリーナさん。リーナさんの拳が黒く染め上げられている。

 やおらその拳を鈴に向かって振るうと、またもや俺の部屋が爆煙と爆音に包まれる。


ドォォォォォォン!!!


 もう止めて!!俺の部屋が壊れるぅ!!というかこんな爆音を夜中に響かせたらご近所迷惑だろうが!!


 俺の心配を余所に今度はリーナさんが舌打ちをする。


「…ちっ、仕止め損のうたか」


「やりますね、ポンコツ魔女。ですが此れくらいで私を仕止めようなんて、考えが温いです。手品紛いはもうお仕舞いですか?」


 爆煙から此方も涼しい顔で出てきた鈴は、再びリーナさんと額を突き合わせる。睨み合い、再び!


「そちこそ、花火はもう終わりかや?」


「まさか♪」


「では」


「存分に」


「「やりあいましょう!」ぞ!」


 また二人は呪文を唱えだし、赤や緑や白や青や黒、色とりどりの光弾が飛び交い、爆音や爆煙がそこいらに撒き散らされる。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ドォォォォォォォォン!!!


「たぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


チュドォォォォォォン!!!


 響き渡る爆音、飛び散る火花、数を増やして二人の間を舞い踊る幽霊、…そして右に左に転がる俺。もう嫌ぁぁぁぁ!!


「あの」ドォォォォン!!「こんな狭い部屋の中で」ドカァァァァァン「魔法をぶっぱなすの」ボォォォォォン!!「止めていただけませんか」チュドォォォォォォン!!


 右や左に転がりながら魔法を打ちまくる二人に抗議してみる。俺も俺の部屋ももうボロボロだ。パジャマ代わりに着ていたスウェットはあちこち破れ、整理整頓されていたはずの俺の部屋は俺の持ち物が散乱している。

 俺の必死の願いが届いたのか、ピタリと魔法の応酬が止まる。助かった…のか? 


「よい考えです、ご主人様。こんな狭い部屋では、私の本気の魔術の1%も発揮できませんから」


「ふむ、良い考えじゃ。そこな羽虫を吹き飛ばす火力を出すには、此処な場所はちと狭いと思うておったところよ」


「では続きは庭で。撃ち落としてあげますよ、ヘボ魔女さん」


「妾の最大火力の魔術を受けて、まだその減らず口を叩けるか聞いてやろうぞ」


 売り言葉に買い言葉。二人は暫し睨み合い、本物・・・・火花・・・を散らすと、魔法にブッ飛ばされて穴となっている窓だった部分から庭に飛び出す二人。


ドドォォォォォン!!


バリバリバリバリ!!!


ビィーーーーーーーーム!!!


ガリガリガァァァァァァァン!!


 さっきよりもより激しい魔法が飛び交い、立ち木が倒れ、ブロック塀が砕け散り、庭土が派手に吹き上がり直径5メートルを越えるクレーターを作る。


 何でこんな騒音が鳴り響いているのに、家の親やご近所さんは起きてこないんだ?!もう、嫌ぁぁぁぁ!!


 諦めた俺は布団だった物を体に掛けるとゴロリと横になった。せめてこれが夢であったらなぁ、と願いながら…。 

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