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第一話 無能のレン

「えいっ、はぁっ!」

村の広場で剣の素振りをしている二人の少年。

ヒュンッ、と風を切る音が聞こえてくる。

その歯切れの良い音は片方の少年からだけ。


左の少年は毎日素振りの練習をしている。

右の少年は週2日。

普通に考えたら左の少年の方が強くなっていて当然。

しかし、才能とは残酷なものである…



アルトと僕は親友だ。

アルトは村で一番の剣の使い手。

それに比べて僕は村で最弱。

自分でも釣り合わないとは思うが、確かな友情が僕らの間にはある。

今日は二人で素振りの練習。地道な努力も強くなるための一歩だから。

「アルトはすごいなぁ、僕と剣のスピードが全然違うよ」

「へへ、ありがとう。レンの剣筋もだいぶ良くなったんじゃないか?」

「ありがとう。努力の甲斐があったね」

「おいおい、アルト。気休めの言葉はやめろよ。そろそろ本当の事を言ってあげた方がいいんじゃねーのか?"無能のレン"ってな」

素振りを続けていた僕たちに、背後から気だるそうな声が響いた。

現れたのは村一番の荒くれ者、ガイ。

「ガイ、俺は本当のことを言っているだけだ。レンは努力を続けてる。いつかその努力が実って強くなるはずだ!」

「そうかそうか、それは楽しみだ。どれだけ努力したって無駄だと思うけどな。才能の無い無能のお前が、どれだけ強くなれるんだろうなぁ?」

ガイにくっついて歩いている取り巻きみたいな奴らさえ僕のことをケラケラと嘲笑っている。

でも、こんなセリフ、もう聞き飽きてしまった。

「お前には逃げ足が速くなるスキルなんかでも与えられるんじゃねーか?」

とガイたちは笑いながら去っていく。

「お前、ちょっと待」

「アルト」

僕はアルトの行く手を阻み、作り物の笑顔で語りかける。

「もういいよ。僕は大丈夫だから」

彼は一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ならいいや。それよりさ、明日女神様にギフトもらえるの楽しみだよなー」

話題の切り替えが少し急すぎる気もするが、これが彼なりの優しさである。

「そうだね。僕は強いスキルもらえるかな」


明日は降星祭の日。

降星祭とは、10歳になった人たちに、一人一つ、女神様からギフトとしてスキルをもらえる儀式のことだ。

スキルは大きく分けてノーマルスキルとユニークスキルの2種類。ノーマルスキルがごく普通の一般的なスキル。ユニークスキルというのは剣聖や大賢者などの英雄スキルである。

この世界では、与えられたスキルによってこの後の人生が大きく左右されることを誰もが知っている。



僕は全てのステータスが低い。

人の役に立てる力なんて持っていない。

唯一得意な事と言えば、諦めず努力することだけ。

でも、人一倍の努力をしたって強くはなれない。

ステータスの値もほとんど変わらない。

これは、生まれてからずっと変わらない事実だ。

僕は誰よりも能力が低い。

他にできる特技すらない。


周りの奴らには、"無能のレン"と言われ続けた。


だから、


ー「強いスキルを手に入れて、僕は変わりたい」ー


弱かった僕にさよならを告げるために。



次の日、教会に到着した僕たちは女神像の前に案内された。

待ちに待ったスキルが貰える!

でも、これに人生が懸かっていると思うと緊張感が増してくるな。

バンッ。前触れもなく急に背中を叩かれた。

「いてっ、何すんだよ」

「レンが緊張してるんじゃないかと思ってな」

「なんでわかるんだよ…」

「レンのことなんて全部わかってる」

「き、きも…」

「そんなこと言うなって。もうすぐ順番がくる。俺たち二人で激強スキルを手に入れて、一緒に冒険者になるぞ!」

「おうっ!」

僕たちは拳を重ねて誓い合った。


「おっ、順番が来たぞ」

女神像の前にある透明な水晶玉。そこに片手をかざすとギフトが与えられる。

まずはアルトの番。

アルトが手をかざすと、水晶玉は水色の光を放った。

たしか、ノーマルスキルの場合は白く光るって聞いた気が…

「アルト様のスキルは《剣豪》。ノーマルスキルではありますが、珍しい上位スキルです!」

おおっ!と群衆が騒ぎ立てる。

戦闘系の上位スキルなんて...

「レン!やったぁ!」

「おめでとう、アルト。これでもっと強くなれるね」

「うん、レンも良いスキルをもらえるといいな。俺と一緒に有名な冒険者になろう!」

「任せろっ」

次は僕の番。

お願いだ、女神様。僕は強くなりたい。

無能のままでなんかいたくない。

アルトと肩を並べられるようなスキルをっ!

恐る恐る水晶玉に手をかざすと、目が眩むほど輝き出した。

おおっ!!と群衆から先ほどより大きな騒ぎが起きる。

あ、青い…?

「こ、これはっ...!」

神父さんが驚いて口をあわあわし始めた。

「レン様のスキルは、ユニークスキルです...!」

「本当ですか!?」

女神様、ユニークスキルを下さり本当にありがとうございます!

剣聖?それとも大賢者かな?

どちらにしたって、僕はなれるんだっ。夢見た自分に!!

「ん!?このスキルは...」

どうした神父さん。早く教えてよ!

「え、えっと、スキルは【継続は力なり】です...」

さっきまでのざわめきはピタッと止まり、辺りは静寂に包まれてしまった。

【継続は力なり】?

聞いたことないんですけど…

「神父さん。それってなんですか?」

「すみません、あなたがこのスキルの初保持者となるようなので情報が提供できません。ステータスを開いて確認してみてください...」

知らないスキルだったけど、ユニークスキルなんだから最強ステータスになってるかも!?

「ステータスオープン」

やっぱり本当だ。【継続は力なり】がスキルに表示されている。

で、僕のステータスは...

『名前:レン 体力:30 攻撃力:20 魔力:20 防御力:15 素早さ:25

スキル:【継続は力なり】』

え、変化無し…?

「なんと、ステータスになんの変化も無いようですね。青く光ったのでユニークスキルだとは思うのですが…」

「こんなの、何かの間違いじゃ…」

「いえ、ステータスが事実を示していますからね。しかも、生産スキルでもないとは...。これでは本格的に使い道がありませんね」

「で、でも、ユニークスキルなんですよね!?」

「まぁ、ユニークスキルであることには変わりはありませんが、無能の外れスキルみたいですよ?本来ならユニークスキルが顕現した人物がいる場合は上に報告しなければならないのですが、その必要もないようです。だって、"底辺ステータスの無能スキル持ち"ですからね」

は…?こんなんありかよ。

僕はまた"無能のレン"のまま。

強くなって、アルトと一緒に有名な冒険者になりたかったなぁ…

僕は涙を堪えながら、教会を飛び出していた。


「レン!ちょっと待てよ!」

後ろを振り返ると、こちらへ向かってくるアルトの姿が。

僕は追いかけてきたアルトから必死に逃げようとするが、《剣豪》スキルでステータスが爆上げされている彼から逃げられるはずもなく、あっさり捕まってしまった。

「レン、どこ行くんだよ。ギルドに冒険者登録しに行こうぜ」

「僕、外れスキルなんだよ。じゃあアルト、これから冒険者として頑張ってね。応援してる」

「は?なんだよその言い方。一緒に冒険者になろうって約束したじゃねぇか」

「無理だよ」

「スキルのこと気にしてんのか?周りから何言われたって気にしなければいいだけだろ」

「だから、無理だって。他の優秀人でも探してパーティー組めばいいじゃん」

「俺はお前だから誘ってるんだよ!」

「アルトの気持ちはわかるし、嬉しいよ。それでも、《剣豪》さまの足手まといなんか、嫌だ...」

「そんなことないって」

「あるんだよ!君は僕なんかと一緒にいるべき人間じゃないんだ。才能のある君と、努力しかできない無能の僕なんかじゃ釣り合わないよ!」

「あ、おいっ…」

背を向け走り出す僕を追いかけることもなく、アルトは立ち止まったままだった。

村のはずれに逃げ込んだ僕は、気の済むまで泣き続けた。

アルト、ごめん。

君との約束、守れないや...


きっと、これでよかったんだ。

自分の気持ちに嘘をついてでも…



スキルをもらっても、僕は変われないまま。

スキルは発動できないし、能力もわからない。

ステータスの変化もない。

少し気持ちが落ち着いた後、村に戻ると、

「おーい、無能のレンはスキルまで無能らしいなー」

と馬鹿にされた。

狭い村だ。噂が伝わるのも速い。

こんなふうに今までと何も変わらない日常。

それがこれからも続いていくと思っていた。



僕は周りの声から逃げるように村外れの山へ向かう。

そこには、いじめられていた僕のために父が知り合いの職人さんと協力して作ってくれた僕だけの秘密基地がある。

一人になる時間を確保するために、この部屋だけはアルトにも伝えていない。

小さな洞窟を活用して作ったこの部屋は、防音性もよく、落ち着いて安らげる空間だ。

辛くなった時にはよくここに逃げ込んでいる。

慣れた手つきで仕掛け扉を開け、中のソファーに横になった。

ほんの少しの間だけ、辛かったことを忘れられる夢の世界へ沈んでいく…


それから、何時間たっただろうか。

まだ重いまぶたをこすりながら起き上がる。

「どれくらい寝ちゃったんだろ。もう暗くなっちゃったかな」

段々と脳が眠りから覚めてきてあることに気がついた。

外が騒がしいことに。

あれ?もう夜のはずだし、もっと静かなはず...

一つの疑問を抱えたまま仕掛け扉を開ける。

え…………?

突然のことに理解が追いつかない。

僕は目の前に広がる景色に、絶句した。


太陽が沈んだあとの真っ暗な世界。

それを月が優しく照らしている。

そんな夜のはず...

なのに。


まるで昼間かのように明るい空。村一面を這う炎。

これは夢なのだと、ただの幻なのだと。

そう、思いたかった。


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