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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ポジション編

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幕間|落ち着く部屋

 玄関を開けると、靴がきちんと揃っていた。


「相変わらず、静かだな」


 ハヤテが言う。


「物が少ないからな」


 ヒナタは照明をつけた。


 白い壁。

 低めの棚。

 床に直置きされたギターケース。


 余計なものはないのに、

 空いている感じはしない。


「生活感、ないようであるよな」


 コウタが、キッチンの方を見る。


「使うものしか置いてないだけ」


「それが一番、生活感出るやつ」


 ハヤテはソファに腰を下ろした。


「落ち着く部屋ってさ、

 音出してなくても分かるな」


 ヒナタは小さく頷く。


「無理しなくていい場所」


 窓の外は、夜の気配。

 カーテンは半分だけ閉まっていて、

 街灯の光が淡く床に落ちている。


「ここに帰るとさ」


 コウタが言う。


「ちゃんと一日が終わった感じする」


「だろ」


 ヒナタは短く答えた。


 誰かを招くための部屋じゃない。

 でも、誰かがいても崩れない。


 テーブルの上に、缶とグラスが並ぶ。


「外で飲むより、静かだな」


 ハヤテが言う。


「話がちゃんと聞こえる」


 ヒナタは氷を足した。


 コウタは缶を開け、

 少しだけ考える。


「量、これくらいがいい」


「珍しいな」


「明日、音出したい」


 三人で、軽く乾杯する。


 派手な話はしない。

 近況も、愚痴も、ほどほど。


「曲さ」


 コウタが言う。


「今日のは、いいとこ行ってる」


「詰めすぎないのが、いい」


 ヒナタが返す。


「続く感じするよな」


 ハヤテが笑った。


 グラスの中身が、少し減る。


「帰らなくていいの、楽だな」


「もう帰ってる」


「確かに」


 時計は見ない。

 終電も気にしない。


 酔いは浅い。

 でも、安心は深い。


 沈黙が、少しだけ心地よかった。


「音、流せる?」


 AIスピーカーに向かって、ハヤテが言う。


  ――はい


 即座に返る機械音。


「静かめのやつ」


  ――申し訳ありません。よく分かりませんでした


「だってさ」


 ヒナタが笑う。


「じゃあ、夜向き」


  ――申し訳ありません。再生できません


「向いてないな」


 コウタが少し考えて言う。


「……雨音」


 一拍。


 部屋に、低い雨の音が流れ始めた。


「できるじゃん」


「言い方だな」


 ソファに沈む三人。

 さっきよりも、距離が近い。


「便利だけどさ」


 ハヤテが言う。


「欲しいタイミング、

 たまにズレるよな」


「人も一緒」


「急に哲学」


 一拍。


「……ズレても、鳴るけどな」


 雨音は、一定のまま続く。

 誰も止めない。


 そのまま夜は、

 静かにほどけていった。



 朝の光は、

 カーテンの隙間から静かに入り込んでいた。


 床に落ちた光の線が、

 少しずつ形を変える。


 ヒナタは先に目を覚ました。

 時計を見て、スマートフォンには触らない。


 キッチンに立ち、蛇口をひねる。

 ポットに水を入れる音。

 スイッチが入る、小さな機械音。


 昨夜使ったグラスは、伏せて置かれている。


「……早いな」


 背後で、ハヤテの声。


「癖」


「だろうな」


 ハヤテはマグを一つ手に取る。

 昨日買ったばかりのやつだ。


「もう使うんだ」


「割る前に、な」


 コーヒーの香りが、

 ゆっくり部屋に広がる。


 ソファの方で、布が擦れる音。


「……まだ眠い」


 コウタだ。


「起きてるだろ」


「起きてはいる」


 三人はそのまま洗面所へ向かった。


 蛇口をひねる音が重なり、

 それぞれ歯ブラシを口に運ぶ。


 鏡に映る顔は、

 まだ完全には目が覚めていない。


「朝から三人って、

 ちょっと変な感じだな」


 コウタが言う。


「もう慣れてきてるのが怖い」


 ハヤテが笑う。


「……音、出せるな」


 ヒナタが言った。


「だな」


「コーヒー飲んだらな」


 キッチンに戻り、

 カップを流しに置く。


 鍵を取る音。


 スタジオは、歩いてすぐ。

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