表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ポジション編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/101

幕間|夜道

 深夜のバーは、思ったより空いていた。

 ハヤテはカウンターの端に座り、メニューも見ずに言う。


 「……軽めで」


 バーテンダーは何も聞かず、氷の音だけを返した。

 淡い色のカクテルが置かれる。


 一口飲んで、間を置く。


 苦くもない。甘すぎもしない。

 ちょうどいいはずなのに、味が、遠かった。


 スマホはポケットに入れたまま。

 触れば、また誰かの予定と要望が出てくる。

 それを、今は見たくなかった。


 ため息が、グラスの縁で止まる。


 誰かが止まるくらいなら、

 自分が削れるほうがいい。


 二口目。

 少しだけ、胸の奥が温まる。

 救われるほどじゃない。

 でも、立っていられるくらいには。


 「……下手だな」


 誰に向けたでもない言葉。

 上手く断れない。上手く頼れない。上手く休めない。


 グラスの中で、氷が小さく音を立てた。

 それが、やけに正確で、少し羨ましかった。


 飲み干して席を立ち、会計を済ませて外に出る。

 夜風が、思ったより冷たい。


 ハヤテは深く息を吸って、ゆっくり吐いた。


 「……明日も、ちゃんとやる」


 自分に言い聞かせるように。

 

 夜道を歩く。


 車は少ない。

 足音だけが、一定のリズムで続く。


 考えないようにしても、頭は勝手に回る。

 言わなかった言葉。飲み込んだ判断。

 まだ返せていない連絡。


 アパートが見えてきて、ふと立ち止まる。

 部屋の窓は、暗いままだった。


 いつも通りのことなのに、

 胸の奥が、スッと冷える。


 鍵を開け、ドアを閉める。

 灯りをつける前の部屋は、音がなくて、広かった。


 靴を脱ぎ、壁に背を預ける。


 今日一日、ちゃんと回したはずだ。

 誰も止めなかった。崩れもしていない。


 それでも、この暗さが、

 なぜか答えみたいに感じられた。


 「……ただいま」


 返事はない。


 ハヤテは静かに電気をつける。

 白い光が広がる。

 それを確認してから、ようやく奥へ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ