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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ポジション編

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95/99

小さな変化

 ヒナタが主で音を組むようになってから、

 ライブの空気が、少し変わった。


 最初に変わったのは、音量でも速度でもない。

 視線の集まり方だった。


 前列だけじゃない。

 後ろの壁際で、腕を組んでいた客も、

 途中で動くのをやめる。


 ドリンクを口に運ぶ手が止まり、

 話していた声が、自然と消える。


 曲が進むにつれて、

 体が前に傾いていく。


 ノる、というより、

 引き寄せられている。


 サビで跳ねるわけでもない。

 腕が上がるわけでもない。


 それでも、

 誰も視線を外さない。


 音が重なるたび、

 空気が少しずつ密度を増していく。


 息をする場所を、

 探しているみたいだった。


 最後のコードが鳴り終わる。


 一拍。


 誰も、すぐには動かない。


 それから、

 まとめて息を吐くみたいに拍手が起きる。


 バラバラに始まって、

 途中から揃っていく。


 歓声は派手じゃない。

 でも、長い。


 終演後、

 機材を片付けていると声をかけられる。


「リトルスノー、アレンジが変わって

 前より輪郭はっきりしましたよね」


 誰だかわからない。

 感想じゃなく、チェックに近い言葉。


 ハヤテが名刺を受け取る。

 条件の話はしない。

 次の箱の名前だけが、さらっと出る。


 向けられる視線が、少し変わってきた。


 ライブの本数が増える。

 平日も、週末も、

 空いている日が減っていく。


 ヒナタの制作は減らない。


 むしろ、

 音源の修正は細かくなり、

 確認の往復が増える。


 夜中に届くメッセージ。

 朝までに返す音源。

 

 ギターは、常に

 手を伸ばせば、鳴らせる位置にあった。

 

 同じ頃、

 ハヤテが回す業務は、

 もはや雑務とは呼べない量になっていた。


 ブッキング調整。

 制作スケジュールの管理。

 条件面のすり合わせ。


 口約束で済ませないための確認と、

 後腐れを残さないための調整。


 断る連絡と、繋ぐ連絡。

 トラブルを起こさないための線引き。


 角が立たないように言葉を選び、

 間違えないように、何度も読み返す。


 うまくいっている。


 少なくとも、

 数字と反応だけを見れば。


 帰り道。


 ライブハウスの裏口を出て、

 夜風に当たる。


「甘いの、行く?」


 ハヤテが、いつもの調子で言う。


 コウタは、少しだけ間を置いた。


「……今、気分じゃない」


 声は荒れていない。

 ただ、即答でもなかった。


「……そっか」


 ハヤテは笑って、

 それ以上、何も言わなかった。


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