幕間|合コン
「いや、聞いてない」
ヒナタが言う。
「俺も聞いてない」
コウタが続ける。
「すまん、断れなかった」
ハヤテは、もう諦めたみたいに言った。
居酒屋の個室。
向かいには、初対面の女の子たち。
照明は明るく、声は近い。
「じゃあ、自己紹介から!」
幹事の声が弾む。
三人、同時に一拍遅れる。
「……バンド、やってます」
ヒナタが短く言った。
「音楽関係です」
コウタが補足する。
「全員、今フリーです」
ハヤテが言い切った。
「おい、馬鹿」
コウタが、ほとんど口だけ動かして突っ込む。
「何の情報だよ、それ」
ヒナタも、視線だけでコウタに同意した。
「え!」
「そうなんだ!」
「じゃあ今は音楽優先って感じ?」
女の子たちは、特に引っかかった様子もなく笑っている。
訂正する隙も、
説明を挟む余地もないまま、
話題はそのまま流れていった。
「ライブ、よく観に行くんです」
「最近、制作のほう忙しいって聞いて」
「今、すごい勢いありますよね」
興味は、確かに向けられている。
質問も、前向きだ。
なのにヒナタの耳には、
半分くらいしか入ってこなかった。
単語だけが、ばらばらに浮かぶ。
ライブ。
忙しい。
すごい。
「……インディーズで」
自分の声が、少し遅れて聞こえる。
「最近は制作が多くて」
コウタが続ける。
「今はそういう時期なんですよね」
ハヤテがまとめる。
「へえ!」
「大変そう!」
「でも、かっこいいね」
きゃあきゃあ、という声。
笑顔。
場は、むしろ盛り上がっている。
料理も美味しい。
会話も成立している。
それでもヒナタは、
この感覚を知っていた。
大学の頃。
まだ、三人が揃う前。
相手はいるのに、形が定まらなくて。
何をやりたいのかを、自分だけが説明して。
「いいね」と言われても、どこか手応えが薄かった夜。
成立しているのに、
中心にいない感じ。
今も同じだ。
拒絶はない。
好意もある。
でも、音が合っていない。
笑う間。
相槌の速さ。
話題の重心。
全部、ほんの少しだけ違う。
合間に、ハヤテがグラスを口元に運んだまま言う。
「……これ、修行だな」
コウタが、目線だけで返す。
「高難度」
「終わったら、チュロス」
ヒナタの耳には、その言葉だけがはっきりと届いた。
笑い声よりも、
向かいの質問よりも、
強く。
その瞬間だけ、
三人の間で音が合った。




