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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ポジション編

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93/98

変わり始めた音

 ヒナタは、弦に触れたまま動かなかった。


 音を出す前の沈黙。


 誰の顔も見ない。

 合図を待たない。


 次に来る音を、もう決めている。


 次の瞬間、何も言わずにカウントを出した。


 速くない。

 でも、迷いがない。


 最初のコードが鳴る。


 さっきまでと、明らかに違った。

 強くも、派手でもない。

 ただ、中心が定まっている。


 コウタは一瞬だけ様子を見る。

 前に出るか、支えるか。


 判断は早かった。


 低く、音を置く。

 前に出ない。

 でも、逃げない。


 ハヤテは叩かない。

 ハイハットを、軽く刻むだけ。

 呼吸を揃えるように、空間を保つ。


 音が、張る。


 ヒナタは歌わない。

 声の代わりに、ギターで旋律を引く。


 感情を押し出さない。

 離さない。


 一度、止める。


 余韻が残ったまま、音だけが消える。


「……今の」


 ヒナタが短く言う。


 言葉を選んでいない。

 確認でもない。


「もう一回。


 俺、行きすぎるから、

 引き止めて」


 コウタは一度だけ頷く。


「じゃあ、

 俺が先に行く」


 次は、ベースが先に鳴る。

 輪郭を示すように、道を作る。


 ヒナタが、それに絡む。

 寄せて、ずらして、ぶつかる。


 でも、壊れない。


 ハヤテが入る。


 今度は、抑えない。


 スネアが鳴り、

 一気に熱が上がる。


 コウタが、小さく息を吸う。


「……あ」


 曲が、勝手に走り始めた。


 止めない。

 止まらない。


 引き返す理由が、もうない。


 最後の音が鳴り終わっても、

 しばらく、誰も動かなかった。


 ハヤテが、最初に口を開く。


「今の、

 正解じゃないけど」


 一拍。


「間違いでもない」


 コウタが、ゆっくり息を吐く。


「……続き、あるな」


 ヒナタは汗を拭いかけて、

 手を止めた。


 考えていない。

 迷ってもいない。


「ある」


 即答だった。


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