92/93
組み上がる音
ヒナタはギターを膝に置いたまま、
弦には触れず、天井を見ている。
メロディは、もう頭の中にある。
でも、まだ形にしない。
「……今じゃないな」
小さく呟く。
スマホのボイスメモを開き、
数秒だけ録る。
ハミング。
言葉になる手前の音。
すぐに止める。
完璧じゃない。
でも、消える前に捕まえた。
コードを一つ鳴らす。
違う。
もう一つ。
少しだけ、近い。
「……これか」
納得じゃない。
けど、嘘でもない。
ヒナタは、もう一度録音を押した。
未完成のままでもいい。
今の感情だけ、置いておく。
ギターを抱え、
同じフレーズを、何度も確かめる。
止めて、
少し考えて、
また弾く。
表情は変わらない。
でも、迷ってはいない。
ハヤテはドラムスティックを指で転がしながら、
その様子を横目で追っていた。
コウタが、ベースを構え直す。
音を足すと、
ヒナタは一瞬だけ顔を上げた。
否定もしない。
肯定もしない。
もう一度、
同じフレーズを弾く。
今度は、
ほんの少しだけ、
角が取れていた。
ハヤテは、何も言わない。
今は、声をかけるより、
待つほうがいい。
ヒナタの中で、
曲が、静かに組み上がっていく。




