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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ポジション編

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90/93

幕間|拡散

 最初に気づいたのは、ハヤテだった。


「なあ、これ」


 練習の合間。

 チューナーを外したタイミングで、

 ハヤテがスマホを持ち上げる。


「なんか、すごい勢いで回ってるらしい」


 軽い調子だ。

 雑談の延長みたいな声。


 画面を指で叩くと、

 テーブルに置かれたスマホから音が流れた。


 夜の空気。

 少し湿った残響。


 映像は荒れていて、人の輪郭ははっきりしない。

 光の中に、俯いた横顔だけがかろうじて映る。


 途中から、もう一つの声が重なる。


 姿はない。

 名前もない。


 それでも、確かにそこにいる声。


 ヒナタは、画面を見ていなかった。

 アンプのつまみに触れたまま、音だけを拾っている。


 入りの呼吸。

 間の取り方。


 ふと、手が止まる。


 遅れて、視線が画面に移った。


 コウタは、何気なくスマホをのぞいた。

 その瞬間、視線が引っかかる。


 ――あ。


 誰も口を開かない。

 誰も止めない。

 音だけが、部屋に残る。


「あれ……? これ」


 ハヤテが首を傾げる。

 画面を見たまま、少しだけ黙る。


「……朔だ」


 一拍遅れて、


「朔?」


 ヒナタが画面を見たまま言う。


「子どもの頃、よく遊んでた」


 流れる歌に、耳を澄ます。


「……歌ってるな」


 その声は淡々としていた。

 評価ではなく、確認に近い。


 動画は続く。

 映っているのは一人。

 もう一つの声は、姿を持たない。


「相手の方は、分かんないな」


 ハヤテが言う。


 ヒナタは、画面から目を離し、音に戻る。


「でも、いいな」


 短く。


「主旋律に寄りすぎない。

 でも、離れてもいない」


 指で、空をなぞる。


「これ、合わせにいってない」


 ハヤテが小さく笑う。


「だから伸びてんだろ」


 画面を見ながら続ける。


「業界が探してるって噂。

 下手したら、同業になるかもな」


 その言葉が落ちた瞬間。


 コウタの耳には、それ以降の音が入らなくなった。


 評価も、言葉も、遠ざかる。


 さっきから胸の奥に引っかかっていた

 もう一つの声。


 遅れて、名前がはまる。


 ――この声。


 一瞬、呼吸が止まる。


 宵子だ。



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