目線
宵子と、コウタが並んで歩いているのを見たのは、偶然だった。
楽しそうだ。
二人で笑っている。
自然で、無理がない。
胸の奥が、鈍く痛んだ。
朔は、足を止めなかった。
声をかける理由が、どこにもない。
自分が、割り込める場所じゃない。
そう言い聞かせたまま、
背中を向けて歩き出す。
一歩。
もう一歩。
理解している。
それでも、
視線だけは、どうしても離れなかった。
宵子が、ふと何かを言う。
コウタは、一瞬考えてから答える。
遠くても、わかる。
丁寧で、間違えない。
彼女を傷つけない返しだ。
――正しい。
正しすぎる。
欲しいものを前にしても、
自分は、黙って立っていることしかできない。
視線を切ろうとする。
――でも、だめだ。
考えるより先に、
足が前へ出る。
息が乱れ、
呼ぶつもりのなかった名前が、
喉の奥までせり上がる。
「宵子」
自分でも驚くほど、
体が先に動いていた。
まっすぐに、宵子の手を取る。
迷いはない。
「え……」
宵子の声は、途中で途切れる。
引かれる途中で、
視線が合う。
朔と、コウタ。
数秒。
夜の音が、遠のいたように感じられた。
朔は、口を開きかける。
けれど、
どの言葉も形にならない。
謝る理由も、
説明する言葉も、
まだ、見つからない。
何も言わないまま、
手を引く力だけが、
わずかに強くなった。
コウタは動けない。
目を見開いたまま、
状況を理解する前に、二人の背中が遠ざかる。
声も、足も、出てこない。
ただ、そこに立ち尽くす。
宵子は、引かれながら思う。
何かが、確かに終わった。
理由は、まだわからない。
ただ、
この手を振りほどかなかったことだけが、
胸に残った。




