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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
夏の月

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88/92

目線

 宵子と、コウタが並んで歩いているのを見たのは、偶然だった。


 楽しそうだ。

 二人で笑っている。

 自然で、無理がない。


 胸の奥が、鈍く痛んだ。


 朔は、足を止めなかった。

 声をかける理由が、どこにもない。


 自分が、割り込める場所じゃない。


 そう言い聞かせたまま、

 背中を向けて歩き出す。


 一歩。

 もう一歩。


 理解している。

 それでも、

 視線だけは、どうしても離れなかった。


 宵子が、ふと何かを言う。

 コウタは、一瞬考えてから答える。


 遠くても、わかる。

 丁寧で、間違えない。

 彼女を傷つけない返しだ。


 ――正しい。

 正しすぎる。


 欲しいものを前にしても、

 自分は、黙って立っていることしかできない。


 視線を切ろうとする。


 ――でも、だめだ。


 考えるより先に、

 足が前へ出る。


 息が乱れ、

 呼ぶつもりのなかった名前が、

 喉の奥までせり上がる。


「宵子」


 自分でも驚くほど、

 体が先に動いていた。


 まっすぐに、宵子の手を取る。

 迷いはない。


「え……」


 宵子の声は、途中で途切れる。


 引かれる途中で、

 視線が合う。


 朔と、コウタ。


 数秒。

 夜の音が、遠のいたように感じられた。


 朔は、口を開きかける。

 けれど、

 どの言葉も形にならない。


 謝る理由も、

 説明する言葉も、

 まだ、見つからない。


 何も言わないまま、

 手を引く力だけが、

 わずかに強くなった。


 コウタは動けない。


 目を見開いたまま、

 状況を理解する前に、二人の背中が遠ざかる。


 声も、足も、出てこない。

 ただ、そこに立ち尽くす。


 宵子は、引かれながら思う。


 何かが、確かに終わった。


 理由は、まだわからない。


 ただ、

 この手を振りほどかなかったことだけが、

 胸に残った。


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