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ショーケースの前で
待ち合わせは、あの日と同じ店の前だった。
ガラス越しに並ぶケーキは、
前よりも少しだけ華やかに見える。
「ここ、最初の日ですね」
宵子が言って、
懐かしそうに笑った。
「ですね。
ケーキ、犠牲になりましたけど」
「本当に……すみませんでした」
「今なら、感謝してます」
そう言うと、
宵子は一瞬驚いた顔をして、
それから、ゆっくり目を細めた。
二人でショーケースを眺める。
距離は、あの頃と同じ。
でも、空気はまるで違う。
「どれにします?」
「今日は、宵子さんのおすすめで」
「じゃあ、これ」
選ばれたケーキは、
淡い色合いで、派手ではない。
「理由、聞いてもいいですか」
「ふわっとしてて、やさしいので」
その答えが、
そのまま彼女自身みたいだと思った。
席について、ケーキを食べる。
「……おいしい」
「ですよね」
同じ言葉を、
同じタイミングで言って、
二人で小さく笑う。
沈黙が落ちる。
けれど、居心地はいい。
並んで歩く帰り道、
胸の奥が、静かに満ちていった。




