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幕間|焼き菓子
中に入っていたのは、小さな焼き菓子だった。
見た目は地味で、派手さはない。
「ライブ前に甘いの、珍しい」
ハヤテが、何気ない声で言う。
「甘すぎないやつなら、最近いける」
コウタがそう返すと、
ハヤテは一拍だけ置いて、頷いた。
「……何」
「前は、甘いの苦手そうだったから」
あくまで軽い調子だった。
コウタは一瞬だけ視線を上げる。
「……別に、なんか変わったわけじゃない」
「はいはい」
ハヤテは深く追わない。
そのまま、場の空気を転がす。
「でも、ちゃんと選んでる感じはするな」
「地味だけど、あとで効くやつ」
コウタは何も言わず、一つ手に取る。
甘さは控えめで、
噛んでもほとんど音がしない。
「……ちょうどいい」
ちらりと、ハヤテを見る。
「今のコウタには合ってる」
ハヤテは、ひと口食べて満足そうに頷いた。
「続くやつ」
ヒナタが小さく笑う。
コウタは一瞬、言葉に詰まる。
噛みしめていた焼き菓子が、
ほんの少しだけ、甘く感じた。




