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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
ショーケース編

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これはもう、デート

「この前話してた店、行ってみませんか」


 宵子がそう言ったのは、メッセージのやり取りの流れだった。


 焼き菓子が美味しいらしい、というだけの話。

 特別な誘い文句はない。


 それなのに、コウタの胸は少し早く鳴った。


「行きたいです」


 返事は、考える前に打っていた。


 約束の日。


 待ち合わせ場所で宵子を見つけた瞬間、

 コウタは妙に安心している自分に気づく。


「お待たせしました」


「僕も、今来たところです」


 嘘ではない。

 本当に、待つ時間さえ心地よかった。


 店に入ると、甘い匂いが広がった。


「これ、前に言ってたやつです」


「覚えててくれたんですね」


「忘れませんよ」


 自然に出た言葉に、

 自分で少し驚く。


 並んでショーケースを見る。

 最初にぶつかった、あの午後と同じ構図。


「どれにします?」


「迷いますね」


「迷う時間が楽しいですよね」


 視線が合って、

 二人とも少しだけ笑う。


 席について、ケーキを口に運ぶ。


「……おいしい」


「ですよね」


 言葉は少ないのに、

 気持ちはちゃんと共有されている。


 食べ終わったあとも、

 すぐには立ち上がらなかった。


「このあと、どうします?」


 宵子が聞く。


 コウタは一瞬迷ってから言った。


「このまま、少し歩きませんか」


「はい」


 街を歩きながら、他愛のない話をする。


 本のこと。

 音楽のこと。

 最近見つけたお気に入りの場所。


 会話が途切れても、焦らない。

 それが、嬉しかった。


 「……これ、デートですね」


 不意に、宵子が言った。


「……え?」


 聞き返した声が、

 思ったより裏返ってしまったのが恥ずかしい。


 宵子は少し首をかしげて、

 悪びれもせず続ける。


「違いました?」


「……ですね」


 否定できない。


 心臓が、わずかに跳ねた。


「次も楽しみです」


 張り詰めていた輪郭が、溶ける。


 帰り道、別れ際。


「今日は、楽しかったです」


「僕も」


 それだけで十分だった。


 手を伸ばせば、

 触れられたかもしれない。


 でも、まだいい。

 今は、この距離がいちばん甘い。

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