変わったのは何
スタジオに入ってきたコウタを見て、
ヒナタが一瞬だけ目を細めた。
「……なんか、雰囲気変わった?」
「え?」
コウタはベースを下ろしながら、間の抜けた声を出す。
「顔だよ、顔」
今度はハヤテが笑いながら言った。
「柔らかくなってる」
「は?」
「前までさ、もっとこう……
考えごとしてる顔だったじゃん」
ヒナタが身振りで補足する。
「最近、ふっとしたときに笑ってる」
コウタは思わず頬に手をやった。
「……自覚ないんだけど」
「だろうね」
ハヤテは楽しそうだ。
「で、何?」
「何って?」
「隠してるやつ」
「隠してない」
即答だった。
ヒナタとハヤテは顔を見合わせて、笑う。
「隠してない人ほど、隠れてないんだよな」
「あるある」
音合わせが始まる。
いつもと同じフレーズ。
なのに、ヒナタがふと手を止めた。
「あれ」
「どうした?」
「今の、ちょっと良くなかった?」
ハヤテが頷く。
「音が丸い」
「丸いって何だよ」
「角が取れたって感じ」
コウタは首を傾げながらも、
もう一度同じフレーズを弾く。
さっきより、自然に音が伸びた。
「あ、これだ」
ヒナタが言う。
「前より、余白ある」
ハヤテはスティックをくるっと回しながら、
にやにやしている。
「恋だな」
「ちがう」
「即否定」
「ちがうって」
でも、否定の声は強くなかった。
コウタ自身も、
最近、音が楽しいことに気づいている。
言葉にしなくていい感情が、
そのまま指先に降りてくる感じ。
「まあ、いいよ」
ヒナタが肩をすくめる。
「いい変化だから」
「うん」
ハヤテも笑う。
「しばらく、このままいこうぜ」
コウタは何も言わず、
もう一度ベースを構えた。
心が軽い。
理由は、分かっているようで、
まだ、ちゃんとは掴めていない。
それでも。
二人が、どこか満足そうなのを見て、
悪くない、と思った。




