幕間| 崩れたケーキ
スタジオに入ってきたコウタの手元を見て、
最初に反応したのはハヤテだった。
「……それ、どうした」
「ケーキ」
「見りゃ分かるけどさ」
箱の中で、
クリームが寄っている。
原型はかろうじて保っているが、
明らかに何かあった後だ。
「落とした?」
「いや、ぶつかった」
「は?」
ヒナタが覗き込んで、
眉を上げる。
「ぶつかって、これ?」
「うん」
それだけ言って、
コウタはなぜか嬉しそうだった。
フォークを取り出して、
崩れたケーキを気にする様子もなく、
口に運ぶ。
「……うまい」
「味の問題じゃねえだろ」
ハヤテが、
呆れたように言う。
「ていうかさ」
ヒナタが、
コウタの顔を見る。
「なんでニヤニヤしてんの」
「してない」
「してる」
「してるな」
二人に即座に言われて、
コウタは一瞬、
言葉に詰まった。
「……別に」
「別にでその顔は出ない」
ハヤテが、
笑う。
「ケーキ買ってくるだけで、
こんな上機嫌なやつ、
初めて見たわ」
ヒナタは、
少しだけ間を置いて、
ふっと口角を上げた。
「いいこと、あったんだろ」
コウタは、
否定しなかった。
代わりに、
もう一口、
ケーキを食べる。
甘さが、
さっきよりも、
強く感じられた。
理由は、
説明しない。
まだ、
自分でも、
ちゃんと分かっていない。
それでも。
崩れたケーキを前にして、
今日が、
少し特別な日だったことだけは、
確かだった。




